第12話
槍の技術を競い合う大会。
あくまでも、祭りの余興の1つ。
のはずだが、練習に集まった村の男共の熱気は尋常では無かった。
安全を期して臨むので殺意こそ感じられないものの、なんの覚悟もなしにここに迷い込む者がいたら失禁するほどの圧力があった。
「コーヤとアカリは槍の扱いは素人ってことでいいんだよね?」
「はい」「その通りです」
渡されたのは、光弥が作った即席の棒とは比べ物にならない程の頑丈な槍だった。
刃は厚い布で覆われているが、このままでも十分殺傷力がありそうだ。
俺たち2人は、打撃力を競う種目のチームに振り分けられた。
槍の試合の種目は4つで、進行順に打撃、投擲、連撃、模擬戦に分かれる。
最後の模擬戦以外は個人競技の色合いが強く、模擬戦は5番勝負の団体戦となる。
俺たちの出る打撃は、打撃の威力を競うもので、要はパンチングマシーンみたいなものだ。
ただ打撃の種類も細かく分類されていて、『
ついこの間まで中学生だった俺たちの身体能力なんてたかが知れているが、指導役のアレクさん曰く、体ができていなくても、その体の使い方を十全に理解して出し切ることが出来ればそれなりの力は出るらしい。
まずは体の動かし方を学び、後は見学の時間になった。
「あのさあ」
「うん?」
短槍を流れるように振り回す細身の男の見学をしていると、投擲の見学に行ったはずの光弥が話しかけてきた。
「なんで、槍の競技だけなんだ?」
「知らんがな」
なんで俺に聞くんだと逆に問いたい。
だが俺もそこは気になっていた。
この世界には槍しかないから、ではないことは、生活を見ていればすぐわかる。
弓もあるし、剣も当然あった。
銃はあるのかと思って、何時だったか誰かに尋ねたことがあったが「なにそれ」って顔をされたので誤魔化した。
とにかく、槍以外にも武器はある。
なのに何故槍だけの競技なのか。
馬もこの世界にはいたが、馬上槍もないようだ。
それも何故なんだろうか。
……なんてことを2人して考えながら見学していたせいだろうか、余程気難しい顔をしていたようで、細身の男がその視線に気づき、自分が見世物ではなく学びの対象になっていると感じたのか動きのキレが増していき一連の動作を終えた後、こっちに向かって何故か笑顔を向けてきた。
「ああほら、あんな感じだよ光弥。ああやってカッコイイ動きをした後に見に来てくれてる女子に向かって笑顔で軽く手を振ればキャーキャー言ってくれるよ」
「えー、あんなことしなきゃいけないの? 明がすればいいじゃん」
「お前締めるぞ……、今日は女子いないから良いけど、明日っから来るかもだから笑顔の練習しとこう」
「えー………」
明日からは今日の体の動かし方に加え、槍の使い方も教えるとアレクさんに言われ
解散となった。
「槍しかやらない理由? 弓と剣は別々に大会があってね、槍だけ最近そういうのが無かったからやってみようって話になったんだって」
と教えてくれたのはアレクさんだった。
夕食の席での事だった。
前まではアレクさんにご飯の準備を任せていたのだが(一応、客人として扱われているので)さすがにそろそろ悪いので最近は俺たちも手伝っている。
というのは建前で、この前近所の奥さん方に食事について聞いて回ったところ、バリエーションの豊富なメニューをレシピと共に教えてもらったのでそれをもとに3人で作るためだ。
アレクさんは料理が得意ではないらしく、そもそも食事に頓着していなかったので、毎日同じ食事を出していたのだ。
いつからこの食事なのか聞いたら、7歳の時からと答えられた。
光弥とは真反対だななんて思って光弥の顔を見たら、なんとも形容しがたい表情をしていたのを憶えている。
今日は魚に香辛料をまぶして焼いたのと、アレクさんが畑から収穫してきた葉物野菜のサラダを食べた。
比較的温暖な地域なので、香辛料も広く行き届いている。
あっちの世界の食事に慣れ切った俺たちにとってこれは割と重要な事だった。
「あ、そういうことだったんですか。でも今年初めてやるにしては、皆さん動きにキレがあったというか……」
きっと光弥は、連撃の練習していた男を思い出しているのだろう。
実際、アレは素晴らしく、とても一朝一夕で身に着くものでないことはすぐわかった。
「まあ、既に競技内容が細かく決められているのを聞けばわかる通り、最近やらなかったってだけで昔からあったからね。
槍術はね、昔の王様が決めた訓練の一環だったんだよ。その当時は競技も盛んだった。ただイマイチ地味な感じがあってね、派手な投擲以外は見なくなってた。
でも、道場は多く残っていたから、村を守る者の嗜みとして訓練はしていたのさ。上手く扱えれば時々出てくる魔物にも有効だからね」
「へえ……」
納得した風にうなずく光弥と違い、俺は納得がいかなかった。
そんなに地味だろうか。
寧ろ長いものを振り回している分、派手なのでは、と。
もやもやとした気持ちを抱えながら、光弥に無理やり笑顔の練習をさせて眠りについた。
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