第11話

 村に来てから、はや1週間が経とうとしている。

 

 村長は、未だに魔術師の話をみんなにしない。

 出ていくのを見たという話も聞かないので、まだ村にはいるのだろう。

 

 俺たちはこの世界についての情報を集めつつ、村の人の信用を得るために日々手伝いをしている。

 信用を得るために大事なのは相手の名前を憶えることだ。

 名前を呼ぶだけで、人との関係は『よっ友』からちゃんとした『友人』になる。

 意識して呼ぶように心がけたおかげで、村の役半分は俺たちに対して心を許してくれるようになった。

 

 もう半分の、女性陣に関してだが、大分難航している。

 かなり年のいったおばあさんなら問題ないが、若いと光弥のコミュ力はマイナスになる。

 しかも光弥がイケメンなせいで俺の存在は軽視されまくり、もはやいない人扱いを受けているため、相手してもらえない。

 というか彼女たちは光弥が自分たちに話しかけてこないのは俺が邪魔しているせいだと思っている節があるようで、より一層俺への当たりが厳しくなっている。


 無理して仲良くなる必要もないのかもしれないが、今後のためにも女性陣から悪い目で見られたくはない。

 攻略方法は今のところ1つ。

 光弥が話しかけることだ。

 

 俺は無視されているので歩み寄りようがない。

 光弥が遠巻きに見てくる人達に臆することなく話しかけることができれば、一気に解決する。

 そうすれば、俺に対する印象も少しは和らぐかもしれない。

 

 俺も光弥も女子と仲良くしたくないわけではないのだ。

 寧ろ俺は昔から高校生に対する憧れとして、そういうのも期待していたのだ。

 なのになんで睨まれるんだ。


「というわけで、レッツラゴーだ、光弥1号!」

「1号………? 何がというわけでなの?」

「いいから、つべこべ言わずに女子に話しかけてくんだよ!」

「やだ! 怖い!」

「お前のせいで、俺に対する女子の目が殺す勢いで睨んでくんだよ‼」

「お前が睨まれることと俺が話しかけないこと、何の関係があるんだよ?」

「うるせえっ‼ さっさと行けえ‼」

 

 それから俺はこれからは互いに別行動をすることと俺は光弥が女子に話しかけるか見ているということを伝え、その場を離れた。


 光弥は全然動かなかった。

 少しだって自ら女子に近づこうとはしなかった。

 赤ん坊のころからあいつとは一緒だったが、どういう訳か、俺はあいつが女子と話せない理由を知らない。

 

 寧ろ小学生のころは普通に話していたような気がしていたが中学に上がる頃にはあんな感じになっていた。

 でも今はその理由について考える時間じゃない。

 俺は大きくため息をつき、光弥に蹴りを入れるべく走り出した。


「だからなんで話しかけに行かないんだよ‼」

 

 俺の死角からの必殺の蹴りは、光弥の天才的反射神経によって回避された。

 だが俺だって思うところはあるのだ。

 1発ぐらいは入れないと気が済まない。

 

 まずは左ジャブを顔めがけて散らすがスウェーで軽く避けられる。

 諦めずにまた左ジャブ、と見せかけて顔の前にこぶしを残して視界を封じ、がら空きのボディに右のパンチをお見舞いする。

 が、これも光弥の勘が働いたのか左手でパリィされてしまう。

 顔面に置いた拳も既に弾かれている。

 いったん距離を置き、すぐさま一歩詰めて、勢いのまま右腕を大きく振りかぶる。

 やけくそのテレフォンパンチに一瞬光弥の目線が移ったのを見て本命である手前に引いておいた左を素早く繰り出す。

 これは完全に虚を突けたのか、きれいに顔面に入った。


「がふっ」

「どーだ!」

 

 やっと1発入れることができたので、俺は満足して拳を下ろした。

 無理な体勢で殴ったので、光弥も大して痛そうにはしていない。

 俺の気も済んだ所で、本題に入った。


「だから話しかけろって」

「だから無理だって」

「………分かった、じゃあこうしよう」

 

 と俺は適当な策を光弥に授けた。

 といってもすることは簡単だ。

 今のところ、遠巻きにしか見てこない女子を見かけるたびに笑いかけることだ。

 これなら光弥もなんとかできるだろう。

 だが少し練習が必要なので、これをするのは後日ということになった。


「おーい、2人ともそこで何してるんだい?」

「「アレクさん」」

 

 珍しいことに、仕事中であるはずのアレクさんが昼に声をかけてきた。

 今日は農作業の仕事だと言っていたはずだが、それにしては恰好が少し物騒だ。


「どうしたんです? 槍なんか持って」

 

 俺が光弥から目を離してアレクさんに受け答えし始めると、光弥が視界の端であからさまにホッとため息をついたのが見えた。

 アレクさんはそれを見て怪訝な顔をしたが、大したことではないと思ったのか、俺との会話を続けた。


「村長からさっき連絡があってね、近々、近隣の村と一緒に一か所に集まってお祭りをするんだ。収穫がひと段落したからなんだけど。

 そこで今年は男衆で村に分かれて槍の技術を競い合う武闘大会を開くんだって。

 で集まってみたら、うちの村は少し人数が足りなくてね、よかったら君たちもでないかい?」

  

 俺と光弥は顔を見合わせて、互いに意思が同じであることを目で確認した。


「「出ます」」

 

 最大のアピールポイント、ここで逃すわけにはいかない。

 しかし、テニスのラケットしか握ったことのない俺たちに槍で戦うことができるのだろうか。

 

 死ぬかもしれないなー、と俺はぼんやりと思うのだった。




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