第10話
森を出て、村に着くまで必死だった。
自分がこの世界を望んでいなかったとか忘れてしまうくらいに。
小説なら、ここで元の世界に帰る方法を探したりするのかもしれないが、殆ど諦めている。
何かしらの能力に目覚めているかもしれないと思い、光弥と2人でもう一度森の中に入って色々試してはいた。
結果は、何も出なかった。
身体能力も上がっていないし魔力も感じ取れなかった。
当然、特殊能力もない。
完全に手詰まり。
このままだと、元の世界に変える方法を探すどころか、この世界で生きてけるかも怪しい。
村の人は本当に色々なことを教えてくれた。
この村はメディオライド村という名前で、ステルア王国の王都から東側の国境線の丁度中間に位置するらしい。
というかこのあたりの村は大体同じ名前を名乗っている。
ステルア王国は割と古くからある国で、大国ではないが、小国と呼ばれるほどでもない領土を有している。
王は代々、温和で好戦的でない者が継いでいて、他国との戦争は極力控えているため国民は平和に暮らしている。
ただ他国への抑止力として魔術の研究を支援していて、特に防御や妨害といった守りに徹した魔術が盛んだ。
魔術と聞いて俺と光弥は興奮を隠すのに苦労した。
最近の話も聞いた。
西の国境がどうやら今大変らしいとか、隣村で浮気がばれた旦那が妻に半殺しにされたとか。
聞いていて一番驚いたのは、村長がこの前王都に行って帰って来た時に、王都から凄腕の魔術師を連れてきたという噂だった。
この国では魔術が盛んだと言っていたように、魔術師自体それほど珍しい訳ではないらしい。
王都にある学校では教科の1つとしてあるくらいだとか。
重要なのは、村長が連れてきたということらしい。
魔術師にはランクがあり、ランクごとに自分に対して行使できる権利が与えられる。
たとえば、人に教えてもいいとか、どこそこの役職に応募してもいいとかだ。
その中でも、個人で誰かに雇われてもいいという権利はかなり高ランクの魔術師に属するらしいのだ。
魔術師による事件性を未然に防ぐための国の措置で、それより低ランクの魔術師は魔術ギルドに入る必要がある。
ともかく、あくまで噂だが、村長が魔術師を雇ったのだということだ。
この世界に詳しくない俺たちでも、凄さが分かるのだから相当凄いことなのだ。
もし本当であれば、村長のほうから話があるはずだ。と教えてくれた老人が楽しそうに笑っていた。
老人以外とも話をしたり、また手伝いをしたりして、夕方まで俺たちは外で情報収集に勤しんだ。
「いい話を聞けたな。魔術ってどんななんだろうな? 俺たちも習えばできんのかね?」
俺は魔術という言葉に震えていた。
光弥も、元の世界ではさほど興味なさそうな顔をいていたが、それが現実にあるとなれば話は違うようで、俺の問いに言葉もなく首肯していた。
「そういえば光弥、今日も何人かの女の子達がお前のこと遠巻きに見てたけど話しかけたりしないの?」
「あー、興味がない訳じゃないけど」
「やっぱりあの癖が出ちゃう?」
「………うん」
光弥は自由奔放で、誰彼構わず引っ張りまわしてしまうような性格の持ち主だが何故か昔から女子を前にするとアガッテしまい、何も話せなくなり、限界を超えるとより奇天烈な行為に走るという妙な癖があった。
そのせいで、女子からは『顔はいいけど、すごい童貞味を感じる』という辛い評価が下されていた。
光弥自身どうすることも出来なくて高校に上がる頃には女子から逃げ回っていた。
そしてこの悪癖こそが、モテない俺とモテる光弥を親友足らしめている原因である。
もちろん冗談です。
そんなゲスい理由で親友名乗ってません。
魔術師については、変につついたりせず、村長の発表を待とうということになった。
夕飯は、川魚のスープと黒パンだった。
明日は他の家がどんな料理をしているか聞こうと心に決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます