第9話
「旅の途中という風には見えませんが、どんな理由があるにせよ、村長が受け入れると決めて、招き入れた以上は特に詮索もしませんのでご安心ください」
無事、村に招き入れてもらい、牢屋から解放された俺と光弥。
そのまま村の独身である牢屋番さんの家にお世話になることになった。
牢屋番さんはアレクという名前の若者で、今年18歳になるという。
いつもは農作業をしたり、村の高台から見張りをして生活をしているそうで、俺たちを見つけたのは自分だと言っていた。
見た目は、まあ、普通といった感じで人当たりも良く親切に色々教えてくれる。
なぜ独身なのか分からない程にいい人だと思った。
これだから世の中の女性は見る目がないと思う。
年も上なのだし普通に話してくれていいと言うと、すぐに口調を崩してくれた。
それはさておき、一応旅の途中ということで説明しているが、信用はされていないようだ。
どう見ても旅の恰好をしていないんだから当然だが。
実は俺たちとしては本当に旅をするつもりは無く、腰掛としてではなく、本格的にこの村に住みたいと思っている。
突然何を言い出すのかと思うかもしれないが、これは川沿いを歩いている間に光弥と話し合って決めたことだった。
ここでは俺たちが前の世界で持っていた肩書や身分が何の役にも立たない。
というか本来ならこの世界には存在しない二人だ。
今のは重い表現だったが、軽く言うと要は身寄りがないということだ。
だから村を見つけたら、そこの人をうまいこと説得するか実績を積み上げてその村に住む事を許してもらおうという結論に至った。
幸い村長には数学の能力を認められているようなので、そっち方面で役立つことをアピールできるかもしれない。
牢屋番もといアレクさんの家は一人で住むには少し広いのではないかと思うような一軒家だった。
「両親は僕が小さいころに亡くなっていてね、村長のはからいで僕はここに1人で住んでいるんだ。だからここには本当に僕しかいない。くつろいでくれて構わないよ」
この世界の家は中でも土足で過ごすらしい。
凄く落ち着かない。
だがこの人が独身であることの理由は察しがついた。
後ろ盾がないから、村のどの女も相手してくれないのだろう。
めちゃくちゃいい人なのにもったいない。
これだから(略)。
「しかし、君たちは凄いね。村長の問題にあんなに答えられた人初めて見たよ。」
「ははは………」
そこについてはあまりつつかれると痛いので適当に笑って誤魔化させてもらった。
元々両親が使っていて、今は俺たちのような客人用になっている部屋に案内してもらう。
少し小さいが寝るには十分な大きさのベッドが2つと、枕もとの台に蠟燭があるだけで殺風景な部屋だったが、アレクさんはそこそこ暮らしているだけの蓄えしかないと言っていたので客人用もこんなものなのだろう。
荷物は牢屋を出るときに返された木の棒だけで、それをベッドの横の木の壁に立てかけたら殺風景な部屋が殺伐とした部屋になった気がした。
夕飯はまだ暫く先で、アレクさんは仕事に戻るとのことだったので、アレクさんが戻ってくるのを待つ間、俺と光弥は村を軽く散策することにした。
とはいえ村にはこれといった店だとか面白いものがあるわけではなく、たまたま近くを通った野菜を積んだ荷台を引いている農夫らしき人に尋ねると月に数回ほど旅商人が来るぐらいしかないらしい。
教えてくれたお礼に光弥と2人で荷台を運ぶのを手伝うととても喜ばれた。
そしてそれを見ていた他の人から色々と仕事を頼まれる羽目になった。
「おーい。………2人とも凄いね。来て早々に村のみんなと仲良くなるなんて」
アレクさんが俺たちを探しに来る頃には俺たちの両手には抱えきれないほどの野菜や何かの道具がもたらされていて、その状態で仕事の終わった村の人たちの輪に交じって談笑していた。
光弥が特に社交的な性格で周りの人たちの心をガッツリ掴むものだから俺も釣られて仲良くなることができた。
光弥はやはりこっちの世界でもかっこいいらしく、村の女の子たちが固まってチラチラとこちらに視線を送っているのが見えた。
元居た世界では奇抜な行動をすることが多く、女子が寄り付いたことはなかったが、この世界ならどうなんだろうか。
ちなみに俺はモテなかったですよ。
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