第8話

 村長を待つことしばらく。

 俺たちは牢屋番から貰った川魚のスープと固い黒パンを食べていた。

 具が少ないし味付けも薄かったが、昨日も同じ食事だったのでもう慣れた。


 昼を少し過ぎた頃になって、時間を知らせるのとは違う鐘の合図がなった。

 どうして違うのが分かるのかというとこれまた親切な牢屋番に鐘の鳴り方の違いの意味をおしえてもらったからだ。

 

 今回の合図は、村の者が返ってきたという意味らしい。

 そして今までこの村を出ていたのは一組だけ。

 つまり村人も俺達も待望してやまない村長様が帰って来たということだ。

 俺と光弥は村長の到着をワクワクしながら待っていた。

  

 うまくいけば藁からベッドにグレードアップするかもしれない。

 そうじゃなくてもこの世界について詳しく聞けるかもしれない。


「いや待てよ。これ、死ぬんじゃね」

 

 光弥のその一言が、俺の希望を根こそぎ砕いていった。

そういえば、普通に犯罪者として断罪される可能性を考えていなかった。


「………おや、これまた珍しい恰好をした客人だね」

 

 地獄の使者を迎えるかの如くガクブルと震える俺たちの前にやってきたのは、柔和な微笑みをたたえた初老の男性だった。

 最初に見た村人が着ているような着古したぼろい服ではなく、素材は同じだがしっかりと仕立てられた服を着ていたのですぐにこの人が村長だとわかる。

 

 村長はまじまじと俺たちの顔や服装を眺めると、非常にのんびりとした口調で質問をしてきた。


「君たちは見たところ学がありそうだ。1つ問題を出しても構わないかね? いいよね? よし、ではいくよ。まずは簡単な問題からだ。」


〔ことに気づき慌ある日、兄弟の弟のほうが隣村まで出かけていった。弟が家を出て20分後に兄は弟が銭袋を忘れているてて追いかけていった。この時兄は

 1歩で弟の4歩ぶんの速さで走っていて、弟の速さは1分で100歩歩くとする。

 この兄は何分後に弟に追いつくか〕


 この世界は分刻みまで時を数えることができるらしい。

 それはともかくとして、なんだか中学生の頃に散々やったような問題が村長から出されたことにびっくりだ。

 数学は正直苦手だがこれくらいなら暗算で出せる。

 俺と光弥は答え合わせをしてから光弥が村長に答えた。


「────」

「………うむ、よろしい、では次の問題だ」

 

 そこからはひたすら数学的問題が延々と続いた。

 題を重ねるごとに難解になっていく問題を前についに2人が力尽きたとき、村長が顔をほころばせて告げた。


「彼らを客人としてもてなしなさい。2人ともなかなかに素晴らしい知識と知恵をもっておる。最後の問題は少し意地悪過ぎたが、それでもここまで答えられたのは2人が初めてだ」

 

 最後の方とか地面にグラフや図形を描いてそこから問題を出してきたので、少なくともこの世界の数学レベルは俺たちの世界の中学ぐらいあることになる。 

 とはいえ牢屋番なんか1問目の時点で目が点になっていたので、全員がこの村長レベルということではないらしい。


 だが数学がこれほど進んでいるということは、この世界は、俺たちが密かに期待していた剣と魔法の世界ではなく科学の世界ということなのだろうか。

 元の世界に戻る魔法も存在するかもしれないと思っていたので、割と絶望的な気分になった。

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