第16話 蜥蜴のお肉は死守する
翌日ルンルンで冒険者ギルドに向うと、ご大層な馬車が並んでいて護衛の騎士達がウロウロしている。
邪魔な騎士達の隙間を縫って中に入ると、異様な雰囲気が漂っている。
受付主任のボルグさんが青い顔で俺を迎えてくれたが、周囲の異様な集団に注目されている。
胡散臭い事この上ない集団だが、こんな奴等は無視するに限る。
勤めてにこやかに、ボルグさん受け取りに来ましたと伝える。
「おいお前がアースドラゴンを持ち込んだ奴か?」
無粋な声に、俺の御機嫌さんが急降下をはじめた。
「ああ、オイお前だと、己は何様だ!」
こめかみに青筋ピクピク不機嫌全開で睨みつけ、これ以上汚い口を開くのなら其れなりの覚悟をしろ。
「儂は伯爵家当主エメル・・・」
「伯爵だぁ。ゴキブリ並の面構えで貴族を名乗るな! 潰すぞ!」
蜥蜴と対峙して死を覚悟した時の恐怖と、こいつを殺さねば俺が死ぬと覚悟を決めて戦った・・・
いや、逃げ込んだドームをガンガンされて、頭に来て雷撃魔法を口に叩き込んだだけです。
今回の蜥蜴も似たようなものだけど、蜥蜴を殺す時の殺気を全開にして、俺のお肉を死守する覚悟を見せた。
エメルちゃん顔面蒼白で座り込んじゃったが、許す気は欠片も無い!
口に咥えたお肉に手を出す奴相手に、唸る狼の迫力でエメルちゃんにゆっくりと近づく。
周囲に群がっていたキンキラ衣装の集団が、生唾飲んで身動きもせず震えている。
改めて、一人一人の顔を睨みつけ。
「貴族風情が、流民の冒険者に何の用だ。さっさと消え失せろ!」
速効で皆さんお帰りになられました。
「ボルグさん、昨日俺はなんて言ったのか覚えているか。あの屑の群れは何だ、餓鬼相手の約束なんざ知った事かとペラペラと御注進してきたのか」
不機嫌MAXの俺に、ボルグが首をプルプル振っている。
「じゃー、さっきのゴキブリの群れは何処から湧いて出たんだ? ギルドが漏らさ無ければゴキブリは発生しないぞ。俺の蜥蜴全て返せ、解体料は口座から引いて置け」
「まっ待ってくれ、肉以外は全部売るって」
「黙っているのなら売るさ。お前達が漏らすから、ゴキブリが湧いて出たのだろう。口の軽いお前達に売る義理は無い! 王都の冒険者ギルドとは取引はしないので、黙って全部返せ!」
俺の殺気を軽くかわす様に、後ろから忍び寄る奴がいる。
「後ろの奴、動くな! 動けば殺すぞ!」
「あー、それは止めてくれ。建物が壊れる」
「誰だお前、余計な手出しなら止めておけ」
「そうもいかん、一応ギルドの責任者なんでな」
「なら、俺の蜥蜴をさっさと持って来させろ。口の軽いギルドとの取引は無しだ」
「そうもいかんのだ」
「ほぅ、やる気か」
ゆっくりと振り向くと、臨戦体制の男がロングソードの柄に手を添える寸前でいた。
俺も反撃ではなく、攻撃の為に殺気を押さえ魔力を掌に集める。
全ての魔力をこの一撃に込めて、雷撃を撃ち込もうとした。
その瞬間、男はロングソードの柄から手を離し後ろに飛び下がった。
「アースドラゴンの魔石や皮はもう此処には無いのだ、返したくても物が無い。今回の事は、ギルドの責任者として謝罪する。残りの物は直ぐに引き渡そう」
「いいだろう」
ギルドの中が静まり返るっているが、揉め事を期待する視線が突き刺さる。
嫌だねー、冒険者って。
解体場所にに行き、蜥蜴の残りを全て引き取った。
「で、俺のドラゴンを掻っ攫った奴の名は?」
「未だ判っていないが、すぐに探り出して落とし前を付けさせる」
「いいだろう。お前が甘い対応をするのなら、俺が其奴を叩き潰す」
ムカムカした気分のまま冒険者ギルドを出たが、溜め込んだ魔力のやり場が無い。
そのまま上空に掌を向けて放出する。
晴天の王都の空に、地上から空に向かって百雷の音が響く
〈ドッカーン〉
〈パリパリダーン〉
〈パリッドーン〉
〈バリバリパーン〉
〈ドオォォーン〉
楽しみがおじゃんだよ、こんな気分じゃ食う気にもならない。
ホテルに戻って清算したら、気分の悪いこの街をとっとと出よう。
フロントで清算していると、俺に声を掛けてきた者がいた。
「ユーヤさんお久し振りです。此処にお泊りでしたか」
「あぁブランディさんでしたか。何故このホテルに」
「このホテルで少し大きな取引がありましてね、帰る処だったのですよ。ユーヤさんは」
「王都を出ようと思って、チェックアウトしていたのですよ」
「お急ぎで無ければ、今夜は是非私共の家で夕食等如何がですか。それにこの時間からですと込み合っていて、閉門の時間になりますよ」
仕方がない、これも何かの縁だ。
「それじゃー、お言葉に甘えてお世話に為ります」
「これから教会に寄って帰りますので、少し寄り道になりますが宜しいですか」
「はい結構ですよ。協会って宝飾関係ですか」
「あっ、えーと商業神ホーヘン様の教会です」
「失礼しましたそちらの方面は疎いものですから。不信心な私が入っても宜しいでしょうか」
「大丈夫ですよ、不信心はお互い様です。ただ商売が上手くいった時の、感謝の礼だけは欠かさない事にしていましてね」
教会に入ると、神様の領域なので喜舎をしてホーヘン神に祈る。
《ヨークス様にお世話に為っております、ユーヤです。以後宜しくお願いします》
《ホーッホッホッホッ、中々に丁寧な挨拶を有り難う。ホーヘンじゃ、ヨークス様は達者であったかな》
「はい、達者と言うより健忘症の発症が心配です。ヨークス様の物忘れのせいで散々です。でも、加護を授けて頂き感謝しております」
《ふむ、ヨークス様と武闘神グランの加護も授かったのか。よし、儂も一つそなたに加護を授けよう、何が良いかな。金運か商売繁盛かウ~ン・・・何が》
《ホーヘン様、宜しいでしょうか》
《おぉ、何か希望は有るのかな》
》はい、私は土魔法を得意としております。大地に眠る様々な物を感知出来ますれば有り難たいです。お金は日々の生活に支障が無ければ、問題在りませんので》
《合い判った、その様な加護を授けよう。少しは色を付けておくので受け取れ》
《有り難う御座いますホーヘン様。因みにドラゴンのお肉を所持しています。皆様方に献上したいと思いますが、お受け取り頂けましょうか》
《それは嬉しいな。久しく地上の物は口にしておらぬ。直接会わねば受け取れぬでな、他の神々にも分けて良いか》
頷くと、嬉しそうにお肉を抱えて消えて行った。
目を開けると、ブランディさんが目を見開いて俺を見ている。
「ホーヘン様の加護を授かっているとは、ユーヤ様はいったい」
首を振り振り呟くのを、素知らぬ顔で無視する。
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