第14話 治癒魔法

 「大人しいですねぇ、使役獣なんて初めて見ました。ゴールドランクの冒険者の方々って皆こうなんですか」

 

 「いやよく知らないんだ。サランガの街に居たのだが、シルバーランクなら何人か知り合いもいるが、ゴールドランクの奴に会った事が無いんだ。ルーシュは俺の魔力と肉が食事なので、他の魔獣も見たことが無いな。冒険者は手の内を見せないのが基本だ、皆隠すからな」

 

 「分かりました。ルーシュの事は黙っています」

 

 《ルーシュ、ユルンドのゲートを造っておいてくれないか》

 

 《判った。行って来る》

 

 膝から降りると、静かに夜の闇に紛れて消えたルーシュを不思議そうに見ているので、周囲の警戒に行ったんだと告げる。

 ユルカの村では、俺が馬車の横を歩いている時に行ってもらったが、三人はルーシュの事すら知らなかったからな。

 ヨークス様有り難う、助かっています。

 

 東の空が白み始める頃ルーシュに起こされ、出発準備と朝食を済ませ馬車に乗る

 ベットや寝具はマジックポーチにポイポイ放り込み、ドームは一瞬で土に戻し均しておく。

 

 「便利ですねぇ。土魔法がこれほど便利だとは知りませんでした。マジックポーチは憧れです」


 「今マジックポーチはどの程度の値段なんだ、俺は知り合いから譲って貰ったからよく判らないんだ。普通冒険者が持つマジックバックは、ギルドが見込んだ者だけに有料で貸し出すんだ。然し、持ち込んだ獲物の二割が貸し出し料金だからな。獲物の二割引きと会わせて四割引かれるので、皆ギルドに金を預けて必死で貯めているよ。ギルドで使っているマジックバックは金貨100枚って話しだけど、俺には必要無いので、本当かどうか知らないんだ」

 

 「そのポーチがどれくらいの容量なのか存じませんが、私の見る限り金貨200枚以上と思います。普通マジックポーチは財布変わりに使いますが、エールの小樽位の容量で金貨10枚しますので」

 

 プロムから、ローランドの迂回路を通るといわれる。

 ローランドは街中を通過の為だけに通ると出入り口で混雑するので、外壁に沿って迂回路が有るらしい。

 但し銅貨5枚必要だが混雑を避け、時間を取られるよりよほど良いので皆迂回路を使う様だ。

 エカキルとキュールスの中間で夜営になり、ドームを造り馬車と馬を塀で囲うとルーシュに警備を頼む。

 ローランドを迂回してから後に先にと監視の目が執拗なので、悪い芽は早めに潰すに限る。

 

 《ユーヤ、6人居るよ。フェルスとブランディを捕らえて、送るって話しをしている》

 

 《ルーシュ、ちょっと待ってね》

 

 「ブランディとフェルスに聞くけど、拉致される原因は判る」

 

 食事中にいきなり言ったものから、ブランディがむせている、ゴメン。

 ブランディとフェルスが顔を見合わせて困惑しているので、説明をする。

 

 「ローランドを迂回してから、ずっと執拗な監視を受けていてね、ルーシュに探ってもらっているのだが、そんな話しをしているらしいんだ」

 

 「私共の父がルクランで商いをしております。元々身体が弱かった父が病に伏せ容態が悪化したと連絡が届きました。父が亡くなれば相当な遺産が残ります。恐らく父の弟、ゲルゴア伯父かと思われます。よく父に借金の申し込みをして断られていましたので」


 「それなら捕まえて聞いた方が早いか。出掛けてくるので、先に寝ていて」

 

 《ルーシュ、そいつら等皆捕まえておいて》

 

 《判った。皆埋めておくよ》

 

 ルーシュの所に行くと、全員首まで埋まってもがいていた。

 

 《ゲルゴアはこいつだよ。埋めたら、ゲルゴアさんどうなっているんだと皆が言ってた》

 

 ルーシュが尻尾で頭をポンポンしている男、面立ちが何となくブランディに似ている。

 

 「お前達、昼間から俺達を監視していたな。何の用事だ」

 

 知らないとか人間違いだとか煩いので「ではゲルゴアって誰だ」と聞いてみる(知っているけどね)一斉に一人の男を見つめる。

 こいつ等アホ過ぎだわ。

 

 「あれっ、知らないだ人違いだと言って無かったっけ。まぁいい、ゲルゴア、お前には色々と聞きたい事が有るんだ。他の奴等は邪魔だから死んでもらうところだが、ゲルゴアから何と言われて仕事を引き受けたのか喋れば・・・」

 

 はい、とっても素直な方々でした。ルクランで冒険者をしているウォーレン率いるパーティー御一党様だとさ。

 ゲルゴアから頼まれたのは、二人を拉致してゲルゴアの指定する場所まで連行する事だそうだ。

 

 ゲルゴアが、真っ青な顔になっている。

 色々尋問してみると兄のゲルアトに借金の申し込みを断られ、毒殺を企んだがウォーレン達には強い毒草を手に入れる術が無かった。

 で、仕方なく無味無臭弱毒のヨウレイ草を高級茶葉に混入していたと吐いた。

 借金申し込みの手土産に高級茶葉を贈る手口だと聞き阿保くさくなった。

 人の道を外れる奴等に遠慮は要らないので、ゲルゴアの見せしめに一人ずつ沈めて死んでもらった。


 ゲルゴア以外の全ての者を埋めて証拠ナイナイし、ゲルゴアは手足を拘束して地下牢に放置する。

 

 ブランディとフェルスに確認すると、ゲルゴアの言っていた事が事実と判明し急いでルクランに向かう事になった。

 こうなるとゲルゴアは放置だ、ゲルアトの代わりにゆっくり死ね!

 

 急いで帰ったが、11日目の夕暮れ時にルクランに到着した。

 ブランディ達の家は、重厚な石造りの三階建てで、窓には鉄格子が嵌まりドアは頑丈な造りである。

 入り口上部には目立たぬ看板が有りゲルアト商会と書かれていた。

 聞けば貴金属宝石を取り扱う中規模の店だと言うが、謙遜も在るのだろう。

 店舗を抜け住居に入ると、質素な雰囲気ながらも材料を吟味していると思われる立派な造りだった。

 

 ブランディとフェルスに続いてゲルアトの寝室に入ると、付いてきたメイドが怪訝な顔になるが無視する。

 ブランディが、メイドに湯冷ましを持って来る様に命じて部屋から追い出す。

 

 《ルーシュ頼むよ》

 

 《任せて》

 

 俺が治癒魔法を使うのを知られたくないので、ルーシュに解毒と回復をしてもらう。

 子猫のルーシュがゲルアトの額に肉球を押し当てると、ルーシュの身体が淡い光に包まれゲルアトにも光が伸びる。

 ゲルアトの全身を包む淡い光が消えると、青白い顔色が血の気を含む顔色に戻り寝息も安定した。

 

 メイドが白湯を持って来たが、ブランディがドアの隙間から受け取りメイドを下がらせる。

 急激な容態の変化は疑念を生むので、2、3日はブランディとフェルスが交代で父親の側に詰めて、メイドを近寄らせない様にしてもらった。

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