第10話 闇猫のルーシュ

 スタートゲートに跳ぶとベッドに倒れ込む。

 はー疲れた、ヨークス様って健忘症か?

 領主の所から掻っ攫った酒を取り出し、ちびちび遣りながら夕食を済ませる。

 

 酒を呑みながらぼんやりしていて、猫の子を貰った事を思い出した。

 出ておいでと声を掛けると、するりと影から姿を現し俺の足にスリスリしてくる。

 まるっきり普通の猫じゃん、可愛いねー。

 

 「名前が要るなー、何が良いかな」

 

 行きつけの喫茶店に可愛い女の子が居たが、その名前は恥ずかしいので店の名前にしよう。

 

 「決めた、お前の名前はルーシュ。俺は高塚祐也ユーヤだ宜しくなルーシュ」


 《るっ・・・るーしゅ。ゆーやよらちく》

 

 黒猫がしゃべったので驚いた。


 「お前喋れるの、てか頭に響くんだけど」

 

 《るーしゅ、頭ではなしゅ。声もれる》

 

 「にゃーうぅぅ、にゃ」

 

 「凄いなお前、ヨークス様最高の贈り物だ。これから仲良く頼むよルーシュ」

 

 《わかたゆーや、お腹すいた》

 

 「ミルクは無いぞ、お肉か酒は駄目だな」

 

 《るーしゅ、ゆーやの、ま力がすき》

 

 「魔力って、そうか魔力を込めたら猫になったんだから魔力で生きているって事か、おいで」

 

 膝をぽんぽん叩いて呼ぶと、殆ど予備動作も無くひょいと膝に飛び乗ってきた。

 重さが殆ど無い、幾ら子猫といえども軽すぎるが魔力の猫って事か。

 一人で納得し、頭に掌を翳して魔力を放出する。

 漆黒の猫の体が淡い光に包まれ一回り大きくなったので、びっくりして魔力を止めた。

 ルーシュが、前足で膝をトントンして魔力を催促するので、再び魔力を放出する。

 

 元の三倍くらいの大きさになったとき首を振って下がった。

 

 《うん、これくらいで良いよ。ユーヤ有り難う》

 

 「ルーシュ、さっきより言葉が滑らかになってる様だが」

 

 《始めは魔力が足りなかったんだよ。最低でもこれくらいの魔力は欲しいね。あっ、お肉も食べるよ》

 

 「はは、お肉食べるかい」

 

 《食べる。欲しい》

 

 「じゃー残り物だけどお肉をどうぞ」

 

 皿に残るお肉を薦めると、少し匂いを嗅いで食べはじめた。

 

 「ルーシュは話す事以外に、何が出来るんだい?」

 

 《ユーヤと同じ魔法は全て使えるよ。ユーヤの魔力を受け取っているのだから当然だね。でも今は、魔力の蓄えが無いので大した威力にはならないよ》

 

 「じゃー魔力が要る時には言ってね」

 

 《暫くは今日と同じ位の魔力で、体を少しずつ大きくしてから魔力を溜めるよ》

 

 「分かった、宜しくなルーシュ」

 

 《あいユーヤ、口に出さなくても頭の中で話し掛けて呉れても良いよ》

 

 膝の上に乗るルーシュを撫ぜながら、残りの酒を呑み干す。


 昼前に目覚めたが、呑みすぎたかな。

 

 《ユーヤおはよう、お腹すいた》

 

 膝に乗せて魔力を放出する。淡い光に包まれて又少し大きくなった。

 ヨークス様の贈り物、不思議だよなー。

 

 「ルーシュこの世界に、ルーシュの様な生き物って居るの?」

 

 《多分居ないと思う。ヨークス様やそれぞれの神様達から授けられた者が居たら別だけど》

 

 「大きさは自由に変えられる、それとも出来ないかな」

 

 《出来るよ。大きさは魔力で成長した大きさが限界だけど、小さくなら始めの大きさ迄なれる》

 

 「じゃー、人前に姿を見せる時の大きさをそのうち決めよう。必要な時は別ね。それと同じ魔法が使えるのなら転移魔方陣を造ってみて」

 

 ルーシュの造った転移魔方陣からサランガの森ゲートに跳び、ルーシュにスタートゲートに跳んでもらうが完璧だね。

 これなら領主邸に侵入した時の様な事になれば、ルーシュに潜入してもらって転移魔方陣を造ってもらえば楽勝だ。

 

 周辺の散策に出かけると、ルーシュは周囲を観察し気配を探る。

 時には大木に駆け上がり枝から枝へと跳躍し、幹を駆け登り梢から身を投げて落下してくる。

 見ていて冷や冷やするが、魔力の身体は軽々と躍動する。

 羨ましいくらいだ。

 

 毎日遠くまで出かけては周辺を探索し、時に狩りをしたり木の実を収穫したりと日々太平楽を決め込む。

 ルーシュは虎を一回り大きくした様な大きさになったが、尻尾の太い猫って感じは変わらなかった。

 だが大きくなると幾ら猫だといえども精悍さが出て貫禄があった。

 

 普段ドームの中では体長30cm程の猫の姿になっている、太い尻尾と相まって中々可愛いのだ。

 日々受け取る魔力の量も多くなり寝る前に持てる魔力の全てを渡して寝るのが最近の日課になっている。

 お陰で寝付きは最高、パタンキューである。

 

 今では俺と同じ威力の魔法を放ち、気配察知や直接戦闘では全く勝てる気がしない。

 子猫の姿で熊の最大種の黒熊の眉間を狙い、猫パンチの一撃で倒す様は見ていて阿保らしい。

 

 薬草や蜜など多くの収穫物や獲物がマジックバッグに溜まっているので、サランガの街に向かう。

 街ではルーシュが楽に収まるバッグを作ってもらい、人中でも出入り出来様にするつもりだ。

 バッグの中なら影になるので、自由に影を移動出来るだろう。

 勿論バッグの一部はマジックバッグ仕様になる事は確定、猫以外にも色々出てくるバッグって面白いと思う。

 

 バッグの大きさはルーシュの大きさを体長30cmとして、頭を含めると40センチの寸法になってもらう事にした。

 見た目は完全に猫なので可愛いのだ。

 

 久し振りのサランガの街だ、先ず市場に寄って昼食を済ませてから、ギルドに行くことにした。

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