第3話 野獣と遭遇

 気を静めて周囲の気配を探り、ピリピリした感覚のする方を注意深く観察すると、居た!

 灌木の陰に隠れる様に佇む影は、猪? にしてはでかいし角迄有るじゃん。

 大きいのは判るが、此処からでは実際のサイズが判らないので観察を続ける。

 のそりと動いた猪は、灌木を押し分けて俺の方に近づいて来る。

 見つかっていたのか、気配察知に感謝する。


 覗き穴から観察を続けていると、一瞬躯がぶれたと思ったら〈ドーン〉とドームに体当たり。

 すげぇー、スピードと威力が半端ない。

 あんなのに突撃されたら即死間違いなし、高塚祐也二度目の死を迎える・・・享年二日って洒落にならんぞ。

 

 二度目の突撃に危険を感じ、覚悟を決めて猪の眉間を狙い雷撃魔法を打ち込む。

 〈パリパリドーン〉って音と共にコロリと横倒しになる猪、南無合掌。

 解体なんて無理! お肉はグラム単位でしか認めない!

 ドームの上部から頭を出して周囲を観察、安全を確認してからドーム解体して外に出る。

 こんなのは街で売ろうと思い、マジックバックにポーイしてお片付け。


 怖いねー、死にたくないので慎重に行こう。

 おっ果実発見、んーと鑑定かんていと・・・食用可だが、激不味で毒にも薬にもならないって。

 おい、味の鑑定が出たけど酷い結果だよ、これを食べる動物か鳥は味覚音痴だな。

 

 透き通った綺麗な葉の繁る草、鑑定結果は飲み薬の基本薬草と出たので換金の為に収穫する。

 周囲には様々な薬草が生えているが、面倒なので薬草と鑑定に出たものは同一種類毎に束ねてバッグにポイ。

 地面に何か大型獣の牙が二本と頭蓋骨だが角付きだよ、売れる予感がするので収納っと。

 

 大型の獣が歩くのか踏み固められて歩き易いが、傍らの木には高い所に爪痕がザックリついている。

 ときたま怖い気配がするので、息を殺してそーっと避けて通る。

 

 六日目に塩が無くなったが人家の気配は無く、出合うのは猛獣や鶏兎くらいだ。

 だが姿形は鶏なんだが俺の身長よりでかいし、そいつが俺をつつきに来るんだから堪らない。

 餌と間違えている様なので、俺の餌にする為にマジックバッグに入ってもらう。

 そんなこんなで森をひたすら東に進み、九日目に初めて人の姿を見た。


 * * * * * * * *


 いきなり出会ってお見合い状態だ。

 虎人間と、見るからにエルフに狐耳らしき者、猫人確定の四人組。

 虎人はロングソードを肩から斜めに担いでいて、エルフはラノベ定番の弓を構えている。

 狐耳のおっさんは槍を構えていて(かっけぇーなー)猫人はショートソードの二本持ちだ。

 危険な気配がなかったので油断した。

 

 取り敢えずご挨拶(言葉通じるかなー)こんにちはー(爽やかに)此処は何処ですかぁ(馬鹿な質問してしまった)。

 突然俺と出くわして身構えていた四人が吹き出す。

 失礼な奴らだ。


 「道に迷ってと言うか、人家の有る方角はどちらか判りますか?」

 

 「お前一人なのか?」

 

 「はい一人です。何処か街に行きたいのですがご存知ですか」

 

 「知っているしこれからそこに帰る所だが、本当に一人なのか」

 

 「はい。一人ですけど、何か問題でも」

 

 「信じられないのさ。この危険な森を、一人で彷徨っている奴がいるなんてな」

 

 「確かに怖い森ですけど、街の方角を教えて下さい。それと良ければ塩を分けて貰えませんか」

 

 又背中がチリチリするので、周囲を見渡して危険な気配の方を注視する。


 「どうしたんだい」

 

 唇に人差し指を当てて静かにする様に促す。

 手遅れだ見つかってしまったようで、のっそり姿を現したのは熊五郎だ。

 今回のは漆黒の毛並みに、赤い瞳がワンポイントのチャーミングな奴。

 四人組が身構えるが、俺が熊五郎の足下に穴を開ける。

 四本の足全てが埋まり慌てる熊の足を固めると、身動き出来ずに咆哮する熊五郎。

 煩いのを無視して顎下に土の槍を造り、突き上げて終わり。

 マジックバックに仕舞って皆に向き直る。

 

 「えーっと、街の方角を教えて下さい」

 

 「お前・・・今、何をした」

 

 「熊は怖いので、殺して仕舞っただけですが何か」

 

 「それより街の方角を」

 

 「判った判った、俺達も帰るから案内してやる」

 

 「有り難う御座います。無事に街に着いたら、今の熊をお礼に差し上げますね」

 

 〈ヘッ〉

 

 何か間抜けな返事が聞こえたが、武士の情けで聞かなかった事にする。

 聞けば猪三頭とオーク一匹を狩ったが、手持ちの食料も少ないので帰る相談をしていたところだったらしい。

 ラッキーだね。

 

 これから向かう街は、コリアナ伯爵の領地で領都のサランガって街らしい。

 街に向かっている時にまたもや猪だ、土魔法でドームを造り皆も中に入れて突撃に備える。

 二度程〈ドーン〉と体当たりの音が響き、猪が少し離れてこちらを睨んでいる隙を狙い、雷を一発〈パリパリドーン〉で御臨終。

 マジックバックにないないする。

 

 「お前って、割と非常識な部類の人族だな」

 

 失礼な虎のおっさんの物言いには、街まで案内して貰う弱身でジャパニーズスマイルで流す。

 

 陽が暮れてキャンプの準備に掛かるが、四人用のドームを作って差し上げる優しい俺。

 沢山捕れた角付き兎ちゃんを差し出して解体してもらい、この世界発の肉料理を堪能、塩味が最高です。

 寝る時には、俺専用のドームでお休みだ。

 

 合流して五日目の昼過ぎにサランガの街が見えた、街まで14日も掛かってたが無事に着いてやれやれだ。

 四人組の冒険者パーティーの一員とは異質な格好なので、仲間とは見なされず銅貨二枚を徴収された。

 途中で聞いた冒険者ギルドについて行き、彼等は買い取りカウンターへ。

 お礼の熊さんは、それを受け取るのは流石に気が引けると断られたので、猪を受け取って貰った。

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