第7話 議事

 桃佳は、満席となった会議室内で座っている人たちの顔を眺めた。対角線のあたりに、父の芳佳の顔もあった。いつの間にか、入室していたらしい。芳佳の席の後ろの方には、メディア関係者らしい人たちがカメラや手帳を手にしている。草下が言っていた通り、この会はニュース番組で取り上げられるのだろう。

 

 議事次第通りに、はじめに事務局による配布書類の確認があり、次いで、国立大学の法学科長だという白髪の座長が、会の趣旨を説明する。

 冒頭の挨拶などを除くと、座長の説明は、

『御存知の通り、この新天地で我々が暮らすようになって5年ほど。この地での生活にはいくつもの困難もありましたが、懸念された食糧危機などはさほど深刻化せず、今は平穏にくらせています。しかし、この地が実際にはどのようなものか、そして、どのようになっていくのか、といった事柄への学術的把握は遅れてしまっています。こうした状況を背景に、政府主導のもと、地下の地質構造に特徴がある南方新島を対象とした調査が行われて参りました。本日が六回目の開催となります本会では、これまでの調査成果を踏まえ、現地での掘削などを伴うより大規模な調査についての検討を行う次第です。』

 といったあたり。

 

 その後は、事務局の背広姿の男性が、前回の論点整理や今回の会についての注意事項などを説明した後に、論点1、論点2と議論は続いていく。草下は、「会議は録音され議事録も作られるから、メモは取らなくて大丈夫だし、疲れたら聞いてなくてもいいから」、といったことを桃佳に話していた。けれども、せっかくなのできちんと話を聞いておこうと、桃佳は耳を澄ませた。


 そんな桃佳だったが、会の半ばには、だいぶ疲れてしまっていた。会の開催時間が、普段の授業時間の倍くらいある上に、やはり聞いたことがない単語が多い。内国外の領有権という論点についての、年配の女性委員の長い話を聞くうちに、桃佳は軽く寝入ってしまった。


 けっこう大きく首がカクンとした際に、桃佳は目が覚めた。ちょっと恥ずかしい思いをしつつ、あたりの様子を伺うと、となりのサンギは目を開けてはいるが、寝ているようだった。同じ未成年ということだが、こういう会議の場には慣れているのかもしれない。と、桃佳はサンギに大人なものを感じた。単に、彼の個性なのかもしれないが。

 

 最後の方で、異能者の所轄官庁が話題となったことについて、桃佳は関心を持った。国内では警察省の公安、国外では国防省という、異能者の事実上の所轄関係は、警察軍事外、特に産業領域で異能を活かす道を閉ざすといったことを、委員はとうとうと語る。

 桃佳は、小さな石を右から左に、あるいは上下に動かすといったものにすぎない自身の力が、どんな産業で役に立つのかといったことを考えたこともなかったが、犯罪抑止やテロ防止を担う公安が異能者を管理するといったことには抵抗感があった。その後、縦割り行政がどうこうといった風に議論は進んでいった。

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