第6話 ベロネフィアの国外南方新島等における調査研究検討会
地下駐車場のエレベーター前で手続きを済ませた
「お弁当を食べ終わるまでは、会議室でお話を聞いていてね。お楽しみの道場は、午後から」
と小声で言い、笑いかけた。
会議室の入り口で立ち止まった
10メートルほど歩いたところで、
女性は目元で
「上杉桃佳さんですね。警察省の
と軽く頭を下げ、桃佳に名刺を差し出した。
少しおずおずと桃佳が名刺を受け取る間に
「
「
「この伊能紗耶香二等尉とは、習志野の士官高校の同期なの。お聞き及びかと思いますが、桃佳さんのように異能をお持ちの皆さんの身辺は、国内では公安が担当させて頂いております」
と言った。
学校の担任から、高等部に進む前に異能者としての登録を警察省が行うことになると聞いていた桃佳は頷いた。登録後、希望するものは高等部の授業の免除を受け、同い年の士官高校の訓練に参加することができるおまけがつく、とも聞いていた。
「なので、道場稽古も、公安さんの管理下でやる必要があるんだよね~」といい頭の後ろに手を組んで口を尖らせてみせた
そして、身体をかがませたまま、桃佳を見上げて「またね~」と愛嬌よく笑うと、立ち上がり、後ろ手を振って去っていく。
その伊能の後ろ姿を見ながら、
「午後からは、桃佳さんは、あの
☆
会議室には入室者が次々と現れ、ロの字状に設置された席が埋まりはじめていた。
頭を下げて上司に挨拶を返した後、桃佳は、目の前に置かれた書類の山に目を向けた。書類の一番上は、『第六回 ベロネフィアの国外南方新島等における調査研究検討会』と書かれた議事次第となっている。次第によると、会は10時半から12時までの90分らしい。
右隣の草下が、「桃佳さんたちには初めての話ばかりとなるけど、基本的には聞いているだけでいいからね。民間の方々もいらっしゃる会ということもあって、一回だけ皆さんに顔見せだけしてもらうことになるけれども」と語りかけてきた。
桃佳たち、という言い方に草下に顔を向けると、草下は桃佳の他にも桃佳の頭上の方にも目を向けながら話していた。草下が話し終えたところで、草下の見ている方に振り返ると、いつの間にかそこに大柄な異国風の男子が立っていた。
「彼は、北方州から来てくれたサンギ君。今回の調査チームで桃佳さんとご一緒ね」と草下が後ろから解説してくれる。
「サンギです。見た目がこんなのなのは、樺太のニヴフだから。普段は天然ガスの穴掘りしている。今回も穴掘り役で呼ばれた。よろしく」と、サンギは自己紹介をして、桃佳を見つめた。
内国と異なり、北辰や樺太などからなる北方州は、多民族である。特に樺太はロシアとの協定に基づく共同統治が行われているため、日本語を第一言語としない者も多いのだという。桃佳は、ニヴフ人と対面するのは初めてだったが、サンギは人の良さそうな男子だった。
桃佳は立ち上がり、
「上杉桃佳です。普段は仙臺で、中学三年生をしています。宜しくお願いします」
と挨拶をして、丁寧にお辞儀をした。
「へぇ、じゃぁ伊達の殿さまと並び立つ、姫さまだ」
とサンギは笑う。姫様だなんて、と言いかけた桃佳に先立ち、草下が
「お互いにお分かりかと思いますが、お二人は今回の調査チームに、異能者枠で特別ゲストとなっていただいています。お二人共、未成年であるため会ではお名前は出しませんが、会の半ばで挨拶をしていただきます。調査行では仲良くお過ごしくださいね」
と、話を引き取った。既に草下と顔見知りだったらしいサンギは、
「広島から来たって言ってた風使いのトッポイのの代役ってわけだ」と、草下に向かっていう。
草下は、「えぇ、そう」とだけ返した。
初めて聞くトッポイという語と、その代役というあたりが気になった桃佳だったが、そこで、部屋のスピーカーを通じ、会を始めるアナウンスが入った。あたりが静まり返り、桃佳は草下に質問をし損ねた。サンギが桃佳の横に座る。
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