第3話 逃れられない運命
すっかり日が落ちた頃、奇妙な女性から逃れた正幸は帰路に着いていた。
「はぁ〜…疲れた、なんだったんだあいつ…」
ため息を漏らしながら、今日から新しく暮らす新居に着いた。
正幸は学校が始まる前まで田舎の祖母の家に行っており、この新居に来たのは初めてのことであった。
「ただいま〜」
正幸の声に、小さな弟が出迎えた。
「お帰り兄ちゃん!」
十歳の弟は、正幸とは違って愛嬌のある男の子だった。
「あらお帰り、学校どうだった?」
後に続いて母親が出迎えた。
可愛らしい笑顔が特徴の母親は、正幸とはあまり似ておらず、唯一似ているのは綺麗な黒髪だけだった。
エプロンを身に着けた母親は食事の準備中だったのか、片手には菜箸を持っていた。
「二人ともただいま。引っ越しの片付け終わった?」
「えぇ、もう大体終わったわ。あなたも自分の部屋の片付けはしときなさいよ」
「悪いな、俺だけ引っ越しの手伝いできなくて」
「いいのよ、おばあちゃん孝行も大切なことだしね。それよりも、今日の夕食はコロッケよ」
「コロッケ…うっ!頭が…」
あのおかしなな女性との事件を思いだし、頭を押さえた。
「あっそうだ!お隣さんね、昔にここで住んでいた時の知り合いだったのよ。ほら、佐藤さん。あなたが昔一緒に遊んでいた幼なじみの子の」
「幼なじみ…佐藤…?」
「もう…忘れてるの?あんなに仲良くしてたのに」
「一つ思い出した!その佐藤に学校のプリント届けねぇと!」
学校の先生から頼まれた事を思い出し、正幸は急いで届けようと玄関の扉に手をかけた。
すると、外にはチャイムを押そうとしていた先程のおかしな女が立っていた。
「うわぁぁぁ!!」
あまりの驚きで正幸が尻もちをついた。
「ん?またお前か、なんでここにいるんだ?」
「こっちのセリフだ!」
「あら、
母親が言ったその名前に、正幸は聞き覚えがあった。
「……今、
「ええそうよ。さっき話した幼なじみの子」
「………
「ええそうよ」
「こいつかよぉ〜〜!!」
大きく息を吐くように、正幸は言葉を出した。
「……そういえばお前どっかで見た覚えが…まぁいいや、この度はお引越しおめでとうございます」
急に礼儀正しくなり、
「いやちょっと待て!普通こういうのって引っ越しした側が挨拶するもんだろ?」
「小さい野郎だな、挨拶にルールなんてねぇだろうが!」
「それもそう…か…?」
「礼儀正しくて良い
すると静は、その場にしゃがみこんだ。
「ここであったのも運命ってことだし!私の部活に入ってくれよ!」
「嫌だ」
「なんだよ!?私がこんなに身を低くして頼んでいるってのに!」
「身を低くするってそういうことじゃないと思うぞ」
「そうか…じゃあ……おにいちゃん〜おねがい〜」
突如幼い子どものような声を出して、正幸を勧誘した。
「そういうことでもない!」
「違うのか…じゃあどうすりゃあいいんだよ!?」
「帰れ!」
「正幸!そういうこと言わないの!ねぇ静ちゃん?あなたがさっきから言っている部活は何をするの?」
「慈善活動です!」
「あらいいじゃない!正幸、あんた入ってあげなさい」
「なんで…!」
「どうせ暇でしょ、小遣い減らされたくなきゃ入りなさい」
先程までの優しい笑顔は消え、厳しい顔つきで母が言った。
正幸は奥歯を噛み締め、怒りで母を睨みつけるが、無駄だと察したのか肩をがくりと落とした。
「入ります…」
「よっしゃあ!ありがとうおばちゃん!じゃあ正幸!今日からお前は私の右腕だぁ!」
天井に届きそうなほどに高く跳び上がり、拳を掲げた。
「じゃあ今日は帰るわ、バイビー」
「あっ、おいプリント」
「私の部屋の窓開けておくから投げ入れてくれ、急いで帰らねぇと母ちゃんにゲンコツされる」
プリントを受け取らずに、静は一目散に家へ帰っていった。
走りゆく静を見た正幸は大きくため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます