第2話 商店街での休息

奇妙な女性から逃げ続けた正幸は、気づけば町の商店街まで来ていた。

「はぁ…はぁ…ここまで逃げれば大丈夫か」

長い間走り続けたのにも関わらず、正幸はあまり疲れた様子ではなかった。

「さて…どうすっかな…帰ろうにも家は反対側なんだよなぁ」

今来た道を戻ればあの女性と鉢合わせになると思ったのか、正幸は商店街に入り時間を潰す事にした。


商店街は夕飯の買い出しで多くの人が買い物に来ている。

店から匂う揚げ物に目を向けると、思わず腹が鳴った。

「ちょっとくらい食べても…大丈夫か」

夕飯前ということもあり躊躇ためらうが、空腹には勝てなかった。

店の奥に居る店主に声を掛けた。

「すいせません〜コロッケ一つ」

「はいよっ!コロッケね!」

奥から顔を見せたのは、先程まで追いかけっこをしていたあの女性だった。

「………はぁっ!?」

正幸は驚いて尻もちをついた。

「ん?あっ!お前さっきのやつじゃねぇか!!久しぶりだな!十分ぐらいしか経ってねぇけど」

女性も気がついたのか、明るい笑顔で話しかけた。

「お…おまえ!いつの間にここに…」

「知らねぇのか?この町には秘密の通路があってだな…って!秘密なのに言いそうになっちまったじゃねぇかコノヤロー!」

「お前が勝手に喋ってんだろうが!」

その奇想天外ぶりに、正幸はくたびれていた。

「っていうか!なんでお前が揚げ物売ってるんだよ!?」

「ああ…ここのおっちゃんとは知り合いなんだけどさ、ちょっと用事があるからって留守番を頼まれたんだよ」

「そうか…なら謎も解けたし俺は帰るわ」

「おい…待ちな…」

突然声を変え、耳元で囁いた。

「コロッケ…串焼き…メンチカツ…揚げたてだぜ?」

「っつ…!お前…!」

「今ならソースをたっぷりと…どうだ?」

魅惑のささやきに正幸は逃れられなかった。

お金を勢いよく台に置き、勢いのままに叫んだ。

「コロッケ一つ!」

「まいどっ!アツアツのうちにおあがりよっ!」

素早い手付きでコロッケを小さな紙袋に入れ、ソースをたっぷりとかけた。

早く食べようと、正幸は座れる場所はないかと辺りを見渡した。

「おいおいおいおい!なにしてる、早く食っちまえよ…」

店の目の前を指差した。

「こ…ここでか!」

「誰も見てねぇって…」

言われるがままにコロッケを口へと運んだ。

「う…うめぇ!!」

噛んだ瞬間、口の中に肉汁が溢れた。

さらにソースが混じり、ピリリとした辛さが口の中に伝わった。

「なんていうかこのソース…普通のとは違う?」

「よくわかったな!このソース作ったの私なんだよ」

「お前が!?」

そう言った女性の言葉は、簡単には信じられないが、今の正幸にはそんなことどうでもよかった。

おいしさに夢中で、コロッケを食べ続けていた。

「ふぅ〜ごちそうさまでした」

「いい食いっぷりだったな!それより、その紙袋開いてみな」

先程までコロッケの入っていた紙袋を指差した。

「なんだよ、まだなんかあんのか?」

「ああ…とにかく開いてみろ」

正幸は期待を大きく膨らませ、ソースを拭き取り紙袋を開いていった。

そこには“入部届け”と大きく書かれた文字が現れた。

「いや〜!ここで会ったのも何かの縁ってことだし、うちの部活に入ってくれ!」

「おわぁぁぁ!!」

絶叫しながら、正幸は紙を細かく破いた。

「何やってんだぁぁ!!」

正幸は再びにげだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る