第三章~恋する惑星~⑦
「えっ!? お客さんと、そんな話しをして良いんですか?」
驚いた様子で質問を返す秀明に、裕之は、こんな説明で自らの考えを披露した。
「ウチみたいな小規模の店舗は、常連さんをたくさん作って、ビデオを借りに来てもらわいなとダメやからね。目利きの出来る店員が薦めてくれる作品が面白かったら、他のビデオ店よりも、この店を選んでくれる可能性も高くなるやろう? そういう所にチカラを入れるのが、この店のコンセプトやねん。それに、有間クンなら、ウチの店名の由来もわかるやろう?」
店長の説明に納得し、最後の問い掛けにも答えを確信した秀明は、
「なるほど……そうだったんですね」
と、つぶやく。
一人で納得しているバイト店員の同級生に対して、《店名の由来》のくだりが良く理解できなかった愛理沙は、店長とアルバイト店員にたずねる。
「このお店の《ビデオ・アーカイブス》って、何か意味があるんですか?」
彼女の問いに、裕之店長は、「その質問を待っていた」と言わんばかりのしたり顔で、
「ウチの店のことをどれだけ理解してるか確認してみたいし、せっかくやから、朝日奈さんに説明してあげて、有間クン」
と、新人バイトに話しを振った。
「えぇ!? ボクが答えるんですか?」
再び驚きの声をあげる秀明に、店長は
「今後のバイト代の査定に響くから、しっかり答えてな」
と、冗談とも本気ともつかない返答で応酬した。
「マジですか……」
秀明は、困惑しつつも、愛理沙に解説を始めた。
「朝日奈さん、クエンティン・タランティーノって映画監督は知ってる?」
「う~ん、聞いたことないかも」
「そっか……じゃあ、去年の年末頃から放送されてる『NO!しゃべりタランティーノ!』ってセリフを言う外国人が出演してる携帯電話のCMはわかる?」
「あ~、それは見たことあるわ!変な外国人が、しゃべり過ぎの容疑か何かで取り調べされるCMやろ?」
「そうそう! その変な外国人が、タランティーノ監督。で、クエンティン・タランティーノは、映画監督になる前に、アメリカのレンタル・ビデオ店で働きながら、その店で何万本も映画を観つつ、将来のために、コツコツと映画の脚本を書き溜めてたらしいんやけど……そのタランティーノが働いていたビデオ店の名前が、《ビデオ・アーカイブス》って言うんよ」
「へ~、そうなんや!」
「タランティーノは、お店で働いてた時も変人店員として有名だったらしくて、トム・クルーズ主演の『トップガン』を借りに来た客に対して、フランスの『冒険者たち』っていう、全くジャンルの違う映画を《アンタは、絶対にコレを観るべきだ!》って薦めたりしてらしい……」
「それは、何か理由があるの?」
「前に、朝日奈さんに『スラムダンク』をスポーツ漫画としてだけじゃなくて、男性同士の友情を超えた友情の描写に胸を熱くして読んでるヒト達もいるって話しをさせてもらったことがあると思うねんケド……『トップガン』も『少年ジャンプ』の漫画みたいに、主人公とヒロインとの恋愛の描写より、主人公とライバルとの争いの描き方の方が熱いんよ。で、メッチャ美人な女優がヒロイン役にも関わらず、ヒロインは添え物程度のあつかいで切磋琢磨するライバルとの熱い絆がメインに描かれてるって部分は、フランス映画の『冒険者たち』にも共通してるねん。まぁ、これは、リュック・ベッソン監督の『グラン・ブルー』あたりにも言えることやけど……と、最後の話しは、どうでもイイか(笑)」
秀明が、滔々と語るのを店長と同級生である客の二人は、「一人で、ようしゃべるな~」と苦笑いに似た表情で聞いている。
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