第二章~彼氏彼女の事情~⑨

「そうそう! 有間は言うまでもないとして、私としてはウチの学校に気になる男子とかは居てないなぁ……カレンちゃん、カワイイから、他の学校の男子の知り合いとか多そうやけど、良いヒトがおったら、紹介してくれへん?」


 上級生二名の返答は、カレンを満足させた様で、「そうなんですか!?」「いえいえ、ワタシに、紹介できる知り合いなんて……」と、小声でささやきながら、愛理沙の言葉に、安堵したことを隠せていない。そんな新入生の様子を眺めながら、親しさを込めて、彼女のことをファースト・ネームで呼ぶことにした愛理沙が


「それよりさ! 私は、カレンちゃんと坂野の方が仲良さそうに見えるんやけど! その辺り、どうなん?」


続けてたずねると、カレンは相好を崩して、喜びを隠しきれないといった雰囲気で語る。


「え〜、そんなに仲が良さそうに見えちゃいましたぁ〜? やっぱり、わかるヒトには、わかっちゃうんですね〜」


 三人がそんなやり取りをしていると、料理皿とドリンクを手にした昭聞が、席に戻ってきた。彼が、持ってきた皿をテーブルに置くと、三人の目が丸くなる。その取り皿の中央には、トマトと葉物のサラダが彩りよく置かれ、アスパラガスと三種の前菜が放射状に並べられていた。

 秀明は、


(そりゃ、戻ってくるのに時間が掛かるハズやわ)


と、あきれた表情で、


「ブンちゃん、フレンチのオードブルやないねんから……」


ツッコミを入れると、愛理沙も、


「盛り付けにこだわるにも、ホドがあるやろ……」


と、同調する。

 しかし、昭聞を慕うカレンは、上級生二名とは異なり、目を輝かせながら、


「さすが、あきセンパイです! ちょっと、写真を撮らせてもらっても良いですか?」


と、カバンからレンズ付きフィルムを取り出す。

 そんなカレンの様子に、まんざらでも無い表情で昭聞が応じる。


「まぁ、別にイイけど……」


 友人の言動を眺めながら、


(高梨センパイに言われたくらいで、そこまでするか……)


秀明は、そんな感慨に浸り、一方の愛理沙は、放送部の二人の様子をあきれ返ったといった感じで見つめる。


「カレンちゃんの撮った写真は、焼き増しして、ここのお店のヒトに渡してあげたら? 店頭に飾ってもらったら、良い宣伝になるんちゃう?」


 さらに、彼女が皮肉交じりに発した言葉も、新入生には通じないのか、カレンは、上級生に同意する。


「それは、良いアイデアですね!朝日奈センパイは、色々と見る目があると思います!」


「ア、ハハ、ありがとう。カレンちゃんと気持ちが通じあえて嬉しいわ」


 愛理沙が苦笑交じりに返答すると、隣から秀明が、笑いながら、昭聞に話し掛ける。


「みんな戻ってきたし、始めようか? ブンちゃんが盛り付けに気合いを入れてくれたおかげで、オレ達も、その間に鈴木さんと親睦を深めることが出来たし! 朝日奈さんとオレが付き合ってるのか? とか、聞かれるし」


 その言葉に、昭聞も、


「そんな訳ないやろ!? 朝日奈さんと秀明が釣り合う様に見えるか?」


と、あきれ顔で後輩を諭すように語る。

 すると、カレンは殊勝な雰囲気で、


「勝手に想像して申し訳ありませんでした」


と、謝罪の言葉を口にしたあと、満面の笑みで、昭聞に語り掛けた。


「でも、あきセンパイ! お二人からは、あきセンパイとワタシが、と〜っても、仲良く見えるんですって!」


「そら、そうやろう? カレンとは中学時代に知り合ってから、もう三年近くになるし……」


 先輩の素っ気ない返答に、カレンは、抗議の声をあげる。


「もう、そういうことじゃなくてですね〜」


 同じ中学出身の男女の会話を眺めつつ、秀明は、


(今日は、鈴木さんと自分たちが親交を深めることを優先したケド……ブンちゃん、高梨センパイのことは、どうするんやろう?)


と、友人の身を案じていた。

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