第二章~彼氏彼女の事情~⑦

「まあまあ、そう焦らずに……オレなんか、あの二人から三回も『見た目が冴えない』的なコトを言われたんやから」


 秀明は、愛理沙を落ち着かせる様に話すが、


「それは、事実やから、仕方ないやん?」


と、隣を歩く同級生は素気なく応じる。

 にべもない返答に苦笑しつつ、


「まあ、それはそうナンやけど……それより、あの二人を見て、朝日奈さんは、どう思う?」


 秀明は、声を潜めつつ、数メートル先を歩く昭聞とカレンを見やり、愛理沙に問う。

 その言葉と視線につられ、愛理沙が前方に目を向けると、二人の距離は髄分と近く、カレンは車道側を歩く昭聞に腕を絡ませようとすらしている。二人の様子を見た愛理沙は、


「あ〜、鈴木さんは、かなり坂野を慕ってるみたいやなぁ」


と、一転して微笑ましそうに語る。

 彼女の言葉に、秀明は、我が意を得たり! といった表情で、


「あ、やっぱり、そう思う?」


と、同調すると、愛理沙の持つ扇子を口元に持ってくるように、手振りで促しながら、さらに声を潜めて、


「――――って、―――――のコトを相当――してると思うねん」


「まぁ、そう見えるな」


「で、その周りに朝日奈さんみたいなヒトが居たら、心配で牽制したくなるんちゃうかと思うんよ」


「う〜ん、私、ただのトバッチリじゃない?」


「確かに、そうなんやけど……(苦笑)。ちなみに、朝日奈さんは、―――――のコト、どう思ってる?」


「ハッ!? 私が――――――を!? ゴメンやけど、あり得へんわ(笑)!!」


「なら、話しは簡単やわ。早いとこ、――――の誤解をといて、朝日奈さんは、―――――のコトをどうも思ってないってことを伝えてあげよう!」


「う〜ん、でも、そんなにすぐ、そのテの話しの流れになるかなぁ〜?」


「いや、多分、大丈夫!――――――は、朝日奈さんのことをかなり意識してると思うから、ランチ中に、必ず『―――――と――――は付き合ってるんですか?』って聞いてくると思うねん。いつもなら、話しが脱線するところやけど、ここで、朝日奈さんが、『それより、――――と――――の方が、――――――に見えるよ』って言ってくれたら、完璧やと思うわ」


「そんな、上手く行けばイイけど……まぁ、でも有間の言いたいことはわかったわ。見た目は冴えてないケド、頭の中身は、まあまあやん!」


「『見た目、冴えてない』って、この十五分くらいの間で、五回くらい言われてるんやけど……オレ、めっちゃられてるやん」


 愛理沙から聞いたフレーズを気に入った秀明が、愚痴るようにつぶやくと、彼女は、笑いながら、


「ま、でも、ちょっと見直したわ。もし、あのコの見た目の良さに騙されて、一緒にランチしたいだけやったら、それこそ『吉野さんに報告しないと!』って、高梨部長と相談しようと思ってたから……」


と、秀明が、もっとも恐れている言葉を口にする。


「い、いや……オレは、あんまり年下の女子とか興味ないから……」


 そう弁解じみた言葉を発した秀明には、


「ふ〜ん、どうなんやろ? だいたい、オトコは、ああいう『守ってあげたい』とか見た目で思わせる女子に弱いからな〜」


と、ジト目で応答し、さらに、


「あと、もし、ランチ中にも、あのコの《おイタ》が過ぎる様やったら、という社会のルールってモノをてあげなアカンから……有間、その時は、止めんといてや」


 物騒な言葉を口にして、左手に持っていた扇子をピシャリと閉じて、その状態のまま右手の手のひらを打ち、パンと快音を響かせた。

 その様子を見た秀明が、無言で


(コ、コワ〜〜〜! 朝日奈さん、見た目も言動も、ヤンキーそのモノやん!? このコも絶対に怒らせたらアカンわ)


と、彼女の横顔を眺めていると、目が笑っていない笑顔で、愛理沙は無言のプレッシャーを掛けてくる。


「ん、有間、ナニか言いたそうな顔してるな? 言いたいことがあるんやったら、ハッキリ言ったほうがイイで?」


「い、いや、オレの話そうと思ってたことは、もう話したから! それより、ブンちゃん達が待ってるから、ちょっと急ごう!」


 幹線道路の歩行者用信号が点滅していることを確認して、秀明は隣に並んで歩く女子に横断歩道を渡り切るように促した。

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