第二章~彼氏彼女の事情~⑥

 しかし、昭聞の次の一言は、秀明と愛理沙をさらに仰天させる。


「あ、ちょうど良かった! ついでに紹介しとくわ。さっき、話しに出てた『ミュジパラ』のMCは、カレンに担当してもらうから」


 この発言には、上級生らしい体面を繕おうとしていた二人も、


「「えっ、マジで!?」」


と、声を合わせて、驚きを隠せない。

 そんな秀明と愛理沙の様子にもお構いなしに、カレンは、満面の笑みで応えるのだった。


「はい、『ミュジパラ』の方も、応援ヨロシクお願いいします!」


 終始マイペースで周りの人々に遠慮しない姿には少し気後れしつつも、年上の人間にも物怖じしないカレンの言動に興味をもった秀明は、


「ところで、ブンちゃん。これから、昼ご飯を食べに行こうって話しになってたけど、せっかくやから、鈴木さんにも一緒に来てもらう?」


と、提案をする。


「ホントに!? イイんですか?」


 真っ先に反応したカレンは、提案者の秀明ではなく、昭聞の方を見てたずねる。


「オレは、別に構わんけど、二人ともイイんか?」


 一方の昭聞は、同級生の二人、特に愛理沙に気を遣ってたずねた。

 そして、愛理沙は、


「ちょっと、有間! 勝手に話しを進めんといて……」


と、抗議の声をあげようとしたものの、即座に手を合わせて、小声で耳打ちしてきた秀明の


「ゴメン! 朝日奈さん、すぐに理由は説明するから!!」


との一言に抵抗することを止めて、


「まあ、アンタらが、そう言うんやったら……」


渋々といった感じで了承する。

 そんな上級生たちの様子をうかがっていたカレンは、三人にお礼の言葉を述べる。


「みなさん、ありがとうございます! 特に、有間センパイ! 見た目はあんまり冴えてないですけど、アイデアは冴えてますね!」


「あ〜、ハハ。どういたしまして……」


 カレンの遠慮ない言葉に、秀明は引き気味に苦笑いしつつ、そう答えるのが精一杯だった。


 ※


 秀明の提案もあり、ランチを囲むことにした四人は、稲野高校から徒歩五分の場所にあるショッピングモール・つかしんに向かう。

 幹線道路になっている県道脇の歩道の幅に合わせて、前方を歩く昭聞とカレンの姿を見ながら、愛理沙は先ほどの会話を思い出したかの様に、秀明に抗議の声をあげた。


「ちょっと、有間! あとで、説明するって言ってたケド、どういうことなん!? 私、あのコに、めっちゃディスられたんやケド!?」


 春先とはいえ、快晴の陽射しをキツく感じたせいか、それとも、あまりに不躾な下級生の言動で頭に血が登ったためかはわからないが、愛理沙は手元のカバンから、小洒落たデザインの扇子を取り出し、直射日光を避けるように、額の辺りを仰いでいる。

 苛立たしさを隠せないでいる愛理沙の様子を隣でみつつ、


「ゴメンゴメン! ちゃんと、説明するから……ところで、朝日奈さん、いま言ってた『ディスる』って、どういう意味?」


 秀明が、そんなことをたずねると、愛理沙は丁寧に解説をしてくれた。


「『ディスる』は、ディスリスペクトの略。相手に失礼なことを言うとか、軽んじる、って意味。HIP−HOP系の音楽を聞くヒトたちから生まれた言葉」


 彼女の返答に、


「あ〜、なるほど! リスクペクトの反対語か……」


秀明は、一人納得する。

 そんな様子にまたも苛立ったのか、


「そんなコトより、さっきの説明!」


と、愛理沙は秀明に、話しの続きを要求した。

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