第二章~彼氏彼女の事情~⑤
突然のノックに、秀明たちが驚いてドアの方に視線を向けると、見慣れない少女が立っていた。
華奢といっても良い手足は細く伸び、まるで、人形のようだ。
そして、何より、薄く金色がかり短く整えられた髪に、パッチリしたアーモンド型の瞳、スッキリと筋の通った鼻筋は、海外のモデルを思わせる容姿は強く印象に残る。
「あきセンパイ! おはようございます! 入学式まで待ちきれずに、放送部に来ちゃいました!」
声を発した少女は、放送室内の秀明と愛理沙には目もくれず、昭聞に話しかける。
「ちょっと待て、カレン! なんで、春休み中に学校に来てんねん!?」
「センパイ、今日は新入生登校日ですよ! でも、あきセンパイに驚いてもらおうと思って、サプライズしちゃいました!」
カレンと呼ばれた、新入生らしき少女は、相変わらず昭聞以外は目に入っていないといった感じで、自分の話しを続けようとするものの、
「そういうことはイイから! それより、他にも上級生が居てるんやゾ! キチンと二人に挨拶しとけ」
昭聞に、にべもなく諭された少女は、ようやく秀明と愛理沙に気付いた、という風に、二人の方に向き直って
「あっ! これは失礼しました。稲野高校に入学します、鈴木カレンと言います。坂野先輩と同じ深洲中学出身です。よければ、カレンちゃんって呼んでください」
と、自己紹介をする。
カレンの言葉を受けて、
「よろしく、鈴木さん。自分たちは……」
秀明が名乗ろうとすると、カレンは
「ちょっと待ってください! この冴えない感じの先輩は、有間サンですよね!? お隣のケバ……じゃなくて、キラキラな先輩は吉野サンですか? あきセンパイに聞いていたお話しではもっと知的な雰囲気だと思っていたので、ずいぶん印象が違う気がするんですケド……」
と、当て推量を始める。
その様子に昭聞が、呆れた様に
「『ヒトが話しを始める前に、勝手に自分の話しをし始めるな』って、前にも言ったやろう? そっちの冴えない男子は、有間であってるけど、女子の方は、四月から『シネマハウス〜』に出演してくれることになった朝日奈さん。吉野さんは、三月に転校したから、メンバーを募集するってことも伝えたよな?」
と、注意をすると、カレンは、さほど悪びれる様子もなく、屈託なく笑いながら語り続ける。
「あっ、ゴメンナサイ! カレンも放送部で活動する予定なので、ヨロシクお願いいしますね! 有間センパイ、朝日奈センパイ!」
突如として部室にあらわれ、初対面の上級生にも臆することなく、周囲を自分のペースに巻き込むカレンを見ながら、有間秀明は、苦笑気味に「よろしくね、鈴木さん」と、声を掛ける。
一方、自分の容姿に対する悪意を向けられたことに加えて、名前を間違われるという屈辱を味わう羽目になった朝日奈愛理沙は、
「ちょっと、コマシな顔してるからって、調子に乗ってたら、遠慮なく〆るで……」
と、こめかみを引きつらせながら、秀明にしか聞こえない小声でつぶやきつつ、目だけは笑っていない作り笑顔で、
「元気のある後輩が入ってきてくれて、私も嬉しいわ! よろしくね、カレンちゃん!」
最後は、あえて名字で下級生の名前を呼びつつも、上級生らしく余裕のある姿を見せるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます