第二章~彼氏彼女の事情~①

 放送部との会合を終えた後の春休みの有間秀明の生活は、大半がレンタル・ショップ《ビデオ・アーカイブス》での就業に関わる様々な事柄に費やされた。

 三月の最終週の週初めに、学校側にアルバイトの特別許可を申請し、翌々日には早々と申請は許可された(これには、吉野家の影からのバックアップも影響していた様だ)。

 学校から、アルバイトの許可が出たことをその日のうちに、吉野家とショップの店長に報告すると、店舗から、早速「金曜日に店に顔を出してほしい」と、要望が入ったため、秀明は、指定された午前十時に《ビデオ・アーカイブス》を訪問することになった。


「おはよう、有間クン! 朝から来てくれてありがとう! 四月からウチに来てもらおうと思って、なるべく早く事務手続きを済ませたかったから……」


 秀明が、ショップに入店すると、カウンターの向こうから、店長の吉野裕之が笑顔で応対してくれた。


「おはようございます、店長さん。今日は、よろしくお願いします!」


 快活にあいさつをする秀明に、「こちらこそ、よろしく」と返答したあと、店長は、「お〜い、安田クン! ちょっとイイ?」と、店内で返品作業を行っていた大学生風の店員に声を掛ける。

 安田と呼ばれた店員がカウンターに戻ってきて、「はい? なんですか、店長?」と返答すると、店長の裕之が、秀明を紹介する。


「紹介しとくわ。四月から目黒クンに代わって、バイトに入ってもらう予定の有間クン」


「どうも。えらい若く見えますね。有間クン、まだ高校生くらい?」


 安田は、バイトを始めるには年少に思える相手を一瞥してたずねる。


「はい! 四月から、高二になります」


 秀明が答えると、


「へ~! 高校生やのに、エライな。まあ、一緒にがんばっていこう」


と、先輩店員は、さわやかに応じた。


(店員のヒトも、優しそうで良かった)


 胸を撫で下ろした秀明に、今度は店長から声が掛かる。


「じゃあ、有間クン、事務所に来てもらえる? そこで、仕事の内容とか、提出してもらう書類について、説明させてもらうから。あ、安田クン、何かあったら、すぐに声掛けてくれてイイから」


 そう言って、裕之は秀明をカウンター奥の事務所兼バックヤードへの入室を促し、この店舗における業務の説明を始めた。

 比較的負担の軽そうに感じるレンタルビデオ店の仕事であるが、その業務内容は、多岐に渡る。

 レンタル商品の入荷と動作確認および陳列、レジ業務、返却商品のチェック、商品棚への返却、入会登録作業、延滞者への督促電話、外部からの電話応対などなど……。


(う~ん、これだけ覚えきれるかな?)


 若干の不安が顔に出たのか、秀明の表情を見た店長は、安心させる様に声を掛けてくれた。


「まあ、そんなに心配しなくても、ゆっくり慣れて行ってくれたらイイから」


「あとは、保険関係と銀行口座の書類。この用紙に記入して、初日に持ってきて。記入するときに、わからないことがあったら、ご両親に聞いてみるか、それでも、わからなかったら、ウチの店に気軽に電話してくれたらイイから……他に聞いておきたいことはある?」


 続けてたずねる店長に、「いえ、いまのところは……」と、秀明は答える。


「じゃあ、ウチとしては、早速、週明け月曜日の四月一日から、シフトに入って欲しいんやけど、大丈夫かな?」


 その店長の問いに、


「はい、大丈夫です! そのつもりで、予定させてもらってました!」


と、秀明が快活に答えると、店長は、すぐに仕事のシフトや開始時間を伝えてくれた。


「ありがとう! じゃあ、最初の週は、月・火・水と金・土・日曜日の午前中と午後一時までシフトに入ってもらおうかな?月曜日は、午前九時までに、ここに来てくれる?」


 こうして、有間秀明の人生初アルバイトの準備は整っていった。

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