第一章~チェリー~⑩

 朝日奈愛理沙の参加が正式に認められたことと、四月からの『シネマハウスへようこそ』の放送内容にもメドが立ったことで、四人の会合は終了となった。

 バーガーショップから駅の改札口へ向かう間、よほど意気投合したのか、翼と愛理沙は、ずっと二人で話し込んでいる。その様子を見ながら、昭聞は、後ろを歩く二人に聞こえないように、秀明に話し掛けた。


「なあ、秀明。話しを戻して悪いけど……おまえ、よく吉野さんに告る勇気があったな。正直、ダメ元やったやろ?」


 秀明は、苦笑しつつ、


「う〜ん。勇気があった、っていうのは、ちょっと違うかな? 情けない話しやけど、亜莉寿と二人で話してた会話の流れでそうなった……って感じやったから。まぁ、ダメ元っていうか、自分の気持ちを伝えたところで、『ゴメンナサイ』か、良くても『オトモダチでいましょう』って言われるだけやと思ってたのは、ブンちゃんの想像通りやけど……でも、女子二人から、あんなコトを言われるとなぁ〜。正直、今の自分が、相手にとって、どういう存在なのか、ワカランようになるな」


と、答える。

 友人の返答を聞いた昭聞は、「そうか……」と、つぶやいた後、これまでになく熱心に語りかけてきた。


「でも、これはオトコ側の希望的観測かも知らんけど……オレには、吉野さんが、おまえを《キープ》扱いするようなヒトには思われへんわ。いや、これは、おまえをフォローしてるとかじゃなくてな。もし、女子の意見を聞いてみたかったら、正田さんに相談してみたら? あのコなら、翼センパイや朝日奈さんよりも、吉野さんの考えてるコトを把握してると思うし、何より、吉野さんから直接話しを聞いた当事者やしな」


「そうやなぁ〜。アドバイス、ありがとうブンちゃん!」


 応じる秀明に、昭聞はポツリと独り言の様に語る。


「自分には、まだ、おまえみたいな勇気が無いからな……」


 そのささやく様な声を聞くともなしに聞いていた秀明は、隣を歩く友人に感謝しつつ、


(ブンちゃんは、亜莉寿を評価してくれているのに……自分には、ブンちゃんが、あの部長のどんな所に魅力を感じてるのか、全然わかってないな〜)


と、申し訳なく感じた。

 もし、友人の想う相手が、彼の気落ちの強さに相応しい性格の持ち主であれば……。

 自身のコトを置いてでも、彼のその《想い》が報われてほしい、と思わずにはいられなかった。

 そして、前日に続いて穏やかな陽気に春らしさを感じながら、駅へと向かう道すがら、翌月の発売日に向けて、音源が解禁になったばかりのスピッツのニュー・シングルの歌詞の一節が、秀明の頭に浮かんだ。


♪君を忘れない曲がりくねった道を行く

♪きっと想像した以上に騒がしい未来が僕を待ってる


(想像した以上に騒がしい未来か……)

(う~ん、これからの一年が、高校一年の出来事以上に騒がしい日々になるなんてことは、さすがに無いとはおもうけど……)

(でも、校内放送に関しては、同じくらい楽しめそうなメンバーが集まって良かった)


 そんなことを考えながら、有間秀明は、高校二年を迎える春休みを楽しんでいた。

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