第一章~チェリー~⑤
「お疲れさま~。注文したメニューが来るまでちょっと時間があると思うし、先に始めようか~?」
そう切り出し、四人の会話の主導権を握った翼は、
「――――――と、その前に、せっかく来てくれた朝日奈さんには申し訳ないねんけど、わたし、先に、有間クンに聞いておきたいことがあるね~ん」
などと、本題から外れた話しを秀明に振ろうする。
「ナンすか? 正直、高梨センパイに聞かれることって、イヤな予感しかしないんですけど……」
秀明が、頬づえをついた不遜な態度で返答すると、
「あ~、そういう態度とるの~? なら、わたしも、遠慮なく聞けるわ~」
と、手心を加えないことを宣告し、怜悧な笑みを浮かべて言い放つ。
「で、吉野さんへの《告白》は、上手くいったの?」
これが、初耳の昭聞は、驚愕の表情をたたえ、梅田駅からの移動の間、秀明を質問攻めにしていた愛理沙は、笑いを噛み殺し、そして、秀明は、「あ~、やっぱりそのコトか」と、苦虫を噛みつぶした様な表情で、上級生にたずねる。
「質問に答える前に、こちらからも聞かせてもらって良いですか? センパイの情報源は、吉野さんですか? それとも、正田さんですか?」
「ん~、有間クンに答えてあげる義理はない気もするけど、まあイイか~。わたしに話してくれたのは、舞ちゃんやね~。言ってなかったかも知れんケド、わたしと舞ちゃんは、従妹同士なんよ~」
このセリフには、聞き手の三人が、ほぼ同時に声を挙げる。
「「「えぇ、マジですか~!?」」」
「センパイ、マイマイと従妹サンなんですね~。何か、一気に親近感が湧きました~」
翼の発言を肯定的に捉えたのは、愛理沙のみで、男子二名は、上級生が語ったサプライズに、呆けた様な表情を見せるのみである。
特に、秀明の恋バナ、親しい上級生とクラスメートの意外な血縁関係という、サプライズのダブルパンチを受けた昭聞は、驚きを隠しきれず、
「いや、え~と……全然、話しについて行けてなくて、スイマセン」
と、女子二名に謝罪したあと、目の前の友人に向き直って
「秀明、おまえ、翼センパイと正田さんが、従姉妹って知ってたん?」
と、問いかけた。
この問いに、秀明が、
「いや、オレも全然知らんかったわ……」
そう答えると、
「そうか……それより、おまえ、吉野さんに告ったんか……そっちの方が、驚いたけど……」
昭聞のつぶやきに、秀明は、
「あぁ、そうなんやけど、な……」
と、返答するより他に、言葉が続かなかった。
男子二名が、呆気に取られた様に、コミュニケーション不全に陥っている傍らで、高梨翼は、遠慮なく追い打ちのパンチを繰り出す。
「有間クン、わたしの質問に答えてもらってないんやけど~」
秀明が、どのように答えたモノか……と、逡巡していると、横から朝日奈愛理沙が、口をはさんだ。
「センパイ、横からで申し訳ないんですケド……私が聞いても、有間は、その質問に答えてくれないんですよ~」
その言葉に翼も反応し、
「あ~、朝日奈さんも、舞ちゃんから聞いてたんや~。結局、舞ちゃんにも肝心のことは伝わってないみたいやし、気になるよね~」
と、返答すると、愛理沙も、「ですよね~」と同調する。
そして、
「「で、どうなん?」」
女子二名は、これまでにない真剣な口調と表情で、秀明を凝視してたずねる。
その視線に気圧されながら、秀明は、
「いや、だから、さっきから朝日奈さんには答えてるけど、オレにも、わからへんねんて……」
と、応じて、最後は、小声で、つぶやく様に返答した。
「OKをもらった訳ではないけど……一応……断られた訳でも、無いと思う……」
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