第一章~チェリー~⑥
秀明の煮え切らない回答に、
「ナンか、良くわからないですね……」
最も事情を把握できていない昭聞が、誰に言うでもなく、つぶやいた。
「そうなんよ~。急に今の話しを聞かされたあきクンなら、余計にそう感じるよね~」
会話の流れに乗りきれていない昭聞の立場に配慮した翼は続けて、自身の要望を秀明に伝える。
「だいたい、有間クンが吉野さんに告白したシチュエーションって言うの?その流れ自体が、『あり得へん!』って思うねんな~、わたしは~。舞ちゃんから聞いた話だけでは、わからへんところもあったから、有間クンからも、一昨日どんなことがあったのか聞いてみたいところやね~」
「えっ!? 一昨日の話しの内容まで伝わってるんですか?」
亜莉寿との会話の結果のみならず、その経緯の一部始終まで漏れ伝わっていることに秀明は、少なからずショックを受ける。
その顛末にダメ出しをくらった上に、しかも、コトは秀明個人だけに関わる内容ではなく、吉野亜莉寿という相手が存在する話しだ。
そのようなことを軽々しく他人に口外しても良いものか、秀明が「う~ん……」と、思案していると、意外にも愛理沙からフォローが入った。
「有間、もしかして、吉野さんに気を遣ってる? それやったら、気にすること無いんちゃう? そもそも、吉野さんは、有間の了解なしに、マイマイにこのことを話したんやろう? だから、私もセンパイも、なんとなく話しの流れが掴めてる訳やし。告白された女子の立場からすると吉野さんの気持ちもわからなくはないケド……まあ、『お互い様』ってことで、このことについては、有間も吉野さんに気を遣う必要はないんちゃう?」
理路整然とした彼女の言葉に納得したのか、秀明は
「あくまで自分からの見方になるけど……」
と断りを入れたうえで、三人に、一昨日の喫茶店での吉野亜莉寿との会話について、
亜莉寿から「最後に話しておきたいことがあったら、聞かせてほしい」とリクエストされたため、自分たちの出会った頃のことから思い出話しをしたこと――――――。
その時々の思い出の中で、お互いに想っていたや感じていたことを伝えあったこと――――――。
そして、その流れの中で、自分の亜莉寿に対する《想い》を告げたこと――――――。
などをなるべく簡潔に語った。
その言葉に耳を傾けていた三人は、秀明の回想を聞き終えると、一斉に「フ~~~」と、息を漏らし、彼の目の前に座る昭聞が、真っ先に、
「なるほど、ちょっとわかってきたわ。とりあえず、話しを聞かせてくれてありがとう」
と口を開いた。
しかし、昭聞が続いて何かを言おうとする前に、隣の席の翼が、口をはさむ。
「朝日奈さんは、今の話し聞いて、どう思う~?」
目の前の上級生に突然、話しを振られたものの、愛理沙は戸惑う様子もなく、
「う~ん、個人的な意見を言えば、とりあえず有間の告白の仕方は、ナシ! ですね……それは、付き合ってるカップルが別れ話を回避するために取る手段でしょ? 私からしたら、『付き合ってもない相手に、なんでそんな話ししたん?』って思うんですケド……」
隣に座る男子に遠慮することなく、答える。
すると、翼も彼女自身への敬意を示さない下級生に、無慈悲な鉄槌を浴びせる。
「そう! やっぱり、そう思うやんな! 『有間クン、いったいナニを勘違いしてるん?気持ち悪い』って、思うやんな~」
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