プロローグ~愛の才能~⑨

 愛理沙が案内した場所は、阪急梅田駅と同じ建物に入居している喫茶店だった。

 つり看板の店名には、『紅茶専門店 Cafe L’Arc〜en〜ciel』と書かれている。店名を見ながら、秀明は、


「ラルク・アン・シエル? これって、フランス語?」


 中学生の頃、とあるゲームソフトの影響から、フランス革命史にハマり、『ベルサイユのバラ』他のコミック等を読破していた秀明は、独り言のようにつぶやいた。すぐに、そのつぶやきに反応した愛理沙は、


「へぇ〜。有馬、よく読めたな。『ラルク・アン・シエル = 空に架かるアーチ』で、《虹》っていう意味やって」


と、見慣れないスペルの読み方を間違えなかった隣の男子に感心しつつ、店名の意味をスラスラと答える。彼女の言葉に、大きな関心をもった秀明が、


「朝日奈さんこそ、良くそんなこと知ってるな〜。フランス語に堪能なん? もしかして、フランス人の血を引いてるとか?」


冗談を交えてたずねると、


「良く、わかったな有間! やっぱり、私の高貴な美貌は、フランスの血が流れてることを隠されへんかったか……」


愛理沙は、真顔で、そんなことを言う。


「えっ、マジ!?」


 彼女の言葉に驚きの声をあげた秀明に対して、愛理沙は、醒めた視線を向ける。


「そんな訳ないやん……なに、真に受けてんの」


「いや、朝日奈さん、スタイルが良いから、ホンマのことかと思ったわ」


などと、感想を述べる秀明をよそに、愛理沙は、「まあ、どうでも良いけど」といった様子で、喫茶店の店員に、


「二人です」


と告げ、案内された席に腰を落ち着かせる。自分に続いて秀明が席に着くのを確認した彼女は、


「さっきのこのお店の店名のことやけどさ――――――。ここのお店、私の好きなバンドと同じ名前やねん。有間、ラルク・アン・シエルって、バンド知ってる?」


と、たずねた。

 秀明が、「え~と。何か、聞いたことある様な……」といった感じの反応を示すと、愛理沙が解説する。


「一昨年メジャーデビューしたばっかりやねんけどな! 『ぐるぐるナインティナイン』のテーマ曲にもなってた『Vivid Colors』って、曲は聞いたことない?」


「あっ、その曲なら聞いたことあるわ! 良く聴いてるFMラジオの音楽番組で流れてたから! メロディーとボーカルの声がイイ感じやな、って思ったから」


 彼が、楽曲の感想を述べると、先ほどは、自身に向けられた誉め言葉にまったく反応しなかった愛理沙が顔をほころばせた。


「そうやろう! イントロから歌詞に入るところとか、メッチャ良いねん! 有間も、良くわかってるやん!」


「CDで聞くのも良いけど、ラルクはライブが、メッチャ良いねん!あ~、またライブに行きたくなってきた」


 饒舌に語る彼女に興味を持ったのか、秀明は、たずねる。


「朝日奈さんは、良くライブ観に行ったりするの?」


「うん、去年の秋に大阪であったライブにも行ったで!でも、私はコンサートホールで観るライブよりも、ライブハウスで楽しむ方が好きかな? アーティストを身近に感じられるし。だから、ラルクがメジャーになってくれるのは嬉しいけど、ライブハウスで演奏を観れなくなるのは寂しいねんなぁ~」


 またも饒舌に語る彼女の表情を眺めながら、秀明は、


(確かに、朝日奈さんなら、ライブハウスとかに行っても似合うやろうな~)


などと考えていた。そんな秀明の想像を感じ取った訳ではないだろうが、


「あっ、まだ注文もしてないのに、しゃべり過ぎたな」


熱く話してしまった自分自身に対する照れ隠しなのか、愛理沙は、話題をそらす様に、テーブルのメニューを差し出し、


「ここのお店は、紅茶が美味しいで。有間は、どれにする?」


と、注文をうながした。

 二人の様子を察して注文を取りに来た女性店員に対して、常連客のオススメにしたがった秀明は、アイスロイヤルミルクティーを、愛理沙自身は、ホットキャラメルミルクティーをたのんだ。

 注文が終わって、一息ついたのか、愛理沙は、秀明にこんなことをたずねる。

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