プロローグ~愛の才能~⑦

 翌日の日曜日――――――。午前九時ちょうどに吉野家に電話し、秀明は、両親から《ビデオ・アーカイブス》でアルバイトとして働くことに許可をもらったことを吉野博明に伝えた。


「そうか、それは良かった! これから、店長の方には、僕から伝えておくから。頑張ってね、有間くん」


 弾んだ声で答えた博明に、両親の説得に協力してくれたことへの感謝の言葉を述べて電話を切り、秀明が一息つくと、目の前の電話が鳴った。


 Trrrr・・・

 Trrrr・・・


 タイミングの良さに、一瞬、驚きながら受話器を取り、


「はい、有間です」


と応答した秀明の耳に飛び込んできたのは、隣のクラスの女子の声だった。


「もしもし、有間さんのお宅ですか? 県立稲野高校一年の朝日奈と言います。秀明クンは、いらっしゃいますか?」


 秀明のイメージ以上に丁寧な口調であることに、こみ上げてくる笑いをこらえながら、明るい口調で応える。


「はい、有間秀明ですけど。お電話ありがとう朝日奈さん」


「あぁ、有間! 良かった、有間が出てくれて! 有間に伝えたいこと・・・・・・っていうか、話したいことがあって、昨日も電話させてもらってん」


「うん、母親から聞いたよ。ごめんね、昨日は電話に夕方まで家にいてなくて――――――。それで、あらたまって話しって・・・・・・」


 秀明が聞き終わらないうちに、愛理沙は、


「あ〜、電話よりも直接会って話したいな〜、って思うんやけど・・・・・・有間は、今日時間ある?」


「うん、大丈夫! 今日は、朝日奈さんの電話を待つために、予定を空けてたからね」


 笑いながら応える秀明に、愛理沙は意外そうな声で、


「へぇ〜。嬉しいこと言ってくれるやん」


と、言ったあと、ニマリと笑って、秀明に問う。


「そんなに私からの電話が待ち遠しかったん?」


「そうやね〜。隣のクラスやのに、連絡してくれようとしたのは、『どんなことなんかな〜』って気になってたし」


 朗らかに応える秀明に、やや冷めた口調で


「あぁ、そういうことな」


と、愛理沙は返答し、気持ちを切り替えるように、秀明にたずねた。


「――――――で、ヒマしてるんやったら、会う場所と時間を決めたいんやけど・・・・・・有間、今日の午前中に梅田に出て来れる?」



「うん、行けるよ! 今から準備しても十時には、梅田に着けるんちゃうかな?」


「そっか! じゃあ、ちょっと余裕を持って、十時半に阪急梅田のBIGMAN前に集合にしよっか?」


「了解! 朝日奈さんの話し、楽しみにしてるわ!」


 愛理沙の提案に応じた秀明は、自分の声が弾んでいることに気づきながら、母親に、これから出掛けるので、「今日の昼食はいらない」ということを告げて、出掛ける準備に入った。

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