24.呼び出し②
「はぁ、はぁ、はぁ……お、終わった…」
一発録りで、しかも途中からカンペを放棄して勢いで喋りきった。
額にじっとりと汗をかいている。
不格好なのは分かってる。でも、自分の全力を出しきった。
早速、録音データをメッセージと共に奏に送り出す。
『後は頼む』
あ~~、ドッと疲れた。精神的に限界だ……今日はもう寝よう。
PCの電源を切ってベッドに横になると、一分と経たずに意識が途切れた。
▼△▼△▼△▼
翌朝。
体感的には一瞬だったが。もう、いつもの起床時間だ。
着替えて食卓に向かうと、奏が眠そうな顔でもそもそとパンを齧っていた。
「なんか眠そうだな?」
「……兄ちゃんのせいでしょ」
「俺?―――もしかしてお前、もう編集始めたのか?」
「そうだよ……っていうか、もう仕上げたよ」
「ハァッ!?」
「特急料金貰うからね」
「追加で金とんのかよッ!?」
「当然でしょ。
覚悟はしてたけど……あんな恥ずかしい告白、聞かされるとは思わなかったよ!
何であんな身内の恥を聞かされた挙げ句、編集までしなきゃいけないのよ!どんな罰ゲーム!?
兄ちゃんは何なの?羞恥心が死んでるの?それとも、そういうプレイ?」
「―――ッ!」
言われて初めて実感した。アレを妹にも聞かれるとかマジで恥ずかしい。
思わず両手で顔を隠す。ぐぉぉ……どうしよう、死にたくなってきた。
「そんな事にも気付かないくらいテンパってたのは分かったよ。
こんなでも一応、青春してたんだねぇ……。
で、どうするの?まだネットにアップしてないけど、確認しとく?」
「いや、いいわ。朝から悶死したくねぇ……」
泣けなしの勇気を使い切った今の俺ではアレに堪えられないだろう。
枕に顔突っ込んで奇声を上げ続けた後、酸欠で死にそうだ…。
○ナン君もお手上げの変死体が一丁上がりだ。おそらく迷宮入りだろう。
「じゃあアップ終わったら、アドレスとパスワード送るから」
「ぉ…おぅ……」
「兄ちゃん……やっぱやめる、なんて言わないよね?」
「…分かってるよ。ここでやめるのが一番ダセェって言いたいんだろ?」
「なんだ、分かってんじゃん…………んじゃ、頑張って」
こいつなりに心配してくれてたって事かな?いっつも一言多いが、こうして一晩で何とかしてくれたもんな。色々と唯我独尊の傾向が強い妹だが、身内を心配してくれるだけの人間性がまだ残ってたか。お前はとっくに”金欲のデーモン”へ堕ちてしまったとばかり……兄ちゃん勘違いしていたよ。
▼△▼△▼△▼
学校に登校し、授業を受ける。
奏からの連絡待ちの間、ソワソワして今日も授業中ノートをろくにとっていない。
昼休みも半分過ぎた頃、ついにメッセージが届いた。
『これ、動画置いてあるアドレスね。passは”radio”』
星乃さんへメッセージを送るべく、アドレスとパスワードをコピペする。
送信ボタンを押そうとする指が震え、息が荒くなる。
教室でスマホ見ながらハァハァと息荒げてるとか、かなりの不審者っぷりだ……。
結局、送信ボタン押せたのは昼休み終了のチャイムが鳴った時だった。
▼△▼△▼△▼
メッセージを送った後も緊張が解けることなく―――っていうかどんどん増していってる。ヤバい、お腹イタい……。
星乃さんが、アレを見てどう思うのか?
そもそも、見てくれるのか?
メッセージが拒否られてたらどうしよう?
怖い、恐い、コワい……。
ネガティブなイメージばかりが頭をよぎる。
どんな結末になろうとも、受け止めなくてはならない。
俺にはその覚悟があるだろうか?
覚悟ならとっくに済ませたと思っていたが、いざその瞬間が来てみればやっぱり揺らいでしまう。
どこまでも弱い自分に溜め息が漏れた。
放課後。
―――俺は鳩神社へと向かう。
約束なんてしていないが、あの場所で待つのが当然だと思ったのだ。
もう二度と来ることはないだろう…なんて先週思ってたのに、全然そんなことなかったな。
階段を登りきる。緊張が相まって少し息が苦しい。
いつも通り誰も居ない境内で気持ちを落ち着かせ、ただひたすらに待つ。
…………1時間ほど経った頃だろうか。
俺のスマホが震え、新着メッセージを知らせてくれた。
『今から鳩神社へ来れますか?』
俺は即座にメッセージを返す。
『もう居ます』
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