21.過去からの手紙
件名:【マヨラジ_感想】 感想というより感謝というか
差出人:ミ★
本文:
俺さん へ。
こんにちわ、こんばんわ、はじめまして。
いつも楽しくラジオを聴いています!
今日は俺さんにどうしてもお礼を伝えたくて、メールしました。
急にお礼と言われても意味分かんないし、怖いですよね。スミマセンm(_ _)m
だから、少しだけ長くなるかもしれませんが私に起こった出来事を書きます。
つまらないかもしれませんが、是非お付き合い下さい。
かしこまった文章は書き慣れていないので、ちょっとおかしくてもご容赦願います。
▼△▼△▼△▼
「……あった」
あれから3時間をかけてメールの束を読みすすめた俺は、目当ての一通をようやく探し当てた。
―――星乃さんからのメールを。
“お礼のメールは送ったことあるんですよ。”ミホシ”っていう名前で”
初めて鳩神社で話した時、こう言っていたのを思い出したのだ。
そのあと色々あったせいでスッカリ頭から抜けていたが、リスナーからのコメントを読んだあと星乃さんが何を書いていたのかが気になって探してみることにした。
”みほし”や”ミホシ”で検索しても出てこないし、いくつか漢字でも試したみたけど引っかからなかったから、送られた時期で絞り込んでそこからは虱潰しだ。えらい時間かかったが、ちゃんと見つかった。記号みたいな名前だが……なるほどな。
小さく震える手と、心を落ち着けて、ゆっくりと続きを読んでいく。
▼△▼△▼△▼
私は14歳の中学二年生(もしかしたら、俺さんも同じくらいじゃないですか?)なんですが、中学一年生の終わり頃に俺さんと似たような経験をしました。
学校近くのコンビニの店内で、偶然クラスメイトが自分への悪口を言っているのを聞いてしまったんです。
その子達は、棚一つ隔てた先に私が居ることにも気付かず、喋っていました。
“調子に乗っている”とか“いい子のふりがムカつく”とか”男子に媚びる態度が気に入らない”とか。いつも教室で言葉を交わす、仲の良い…と、私が思っていた子達から、そんなことを。
周りからそんな風に思われていたなんて、ちっとも気付きませんでした。
そうして気付いてしまったら、これまでの楽しかった学校生活や、友達との何気ないお喋りが、急に作り物のように感じてしまって。
それから、人と話すのがとても怖くなりました。
またどこかで同じように言われるんじゃないかと思ったら、何を喋っていいか分からなくて…。
こう言ったら、相手は何を思うんだろう?どうしたら良く思われるんだろう?
アレコレ考えた挙げ句に出てくるのは当たり障りのない言葉ばかりで。
段々と愛想笑いが増えて、言葉に詰まることが多くなって。
そのうちに、人と話しが続かなくなって、笑うこともなくなりました。
そんな有様だったから、気の置けない友達は一人も居なくなって。
二年生に上がっても、当然状況は変わらずにいて。
学校に居る時間が苦痛で、部活にも行かなくなって、部屋に一人で居るようになりました。
▼△▼△▼△▼
衝撃的すぎて、言葉にならない。星乃さんが、本当に俺と同じ経験をしていたなんて。文章からは、当時の彼女が経験したばかりのより鮮明な気持ちが詰まっていた。
俺の気持ちなんてどうしたって分かるはずがないと、そう思っていた…。その悪口というのは、俺と違って嫉妬や妬みの気持ちから出てきた言葉だったんだろう。……けれど、星乃さんは俺と同じ結末にはならなかった。
▼△▼△▼△▼
何もする気になれなくて、部屋で一人、BGM代わりに適当な動画を流していました。
動画の中で大げさなリアクションして笑ったり喋ったりしている人達に、なんだかワケもなく腹が立ったりして。
でも、少し羨ましくて、妬ましくて……何を見ても、何を聞いてもそんなネガティブな感想しか出てこなくて。
鬱々とした気分でいることが多くて、そんな自分がとても惨めでした。
そんな時です。あなたの動画を見つけたのは。
タイトルだけが映ったシンプルな画面から聞こえてきたのは、私と同年代じゃないか?っていう声で。
何人かで喋っているみたいだけど、よく聞いたら一人だけで。
他の動画とは違う、なんだか気安い空気があって。
だから、あっという間に聞き入ってしまいました。
本当に驚きました。
私と同じ境遇なのに、私と違って折れたりしない。
自分に足りないものを認めて、目標に向かって努力の出来る人。
何もかもが私と違って、とても眩しく思えました。
私も同じだったから、知っています。
立ち止まってしまった後、もう一度歩き出すのが一番難しいんだって。
でも…あなたは一歩目から、全力でした。
決意表明というか努力目標みたいなものをネット上に公開するなんて、思いついても普通は実行出来ません。
毎週投稿される動画から、思い通りにいかない現状に悲嘆しない、決して諦めないあなたの声を聞き続けました。
そうして、気付いたら涙が出てきて。
笑って泣いて、また笑って。暗く沈んでいた気持ちがグッと軽くなりました。
だから、私も見倣うことにしました。
本当に自由なあなたの話し方を。
自分の失敗も笑い話にしてしまえる前向きさを。
そして、絶対に立ち止まらないその決意を。
それからは、誰も彼もに好かれたいなんてちっとも思わなくなりました。
ただ、自分のことをハッキリと口に出して、自分にとって大切だと思ったことは全部試してみることにしたんです。
好きなもの、嫌いなもの、やりたいこと、やりたくないこと、全部を。
それで嫌われるんなら、それでイイじゃん。
その後話さなければいいだけなんだし、って。
取り繕わなくなったら力が抜けて…前より自然に笑えるようになりました。
学校に居るのもイヤじゃなくなったし、好きも嫌いも言い合える新しい友達が出来ました。
私は、今の自分が前よりずっと好きです。
そう思えるようになりました。
その今の私があるのは、全部、あなたのおかげです。
だから、本当にありがとうございました!
▼△▼△▼△▼
本人を直接知っているせいだろう。その文章は本人の声で再生され、とても真摯な気持ちが伝わってくる。同時に、一昨日の星乃さんの悲しげな顔がフラッシュバックして、また胸が痛んだ。
俺の動画が星乃さんの人生にそこまで影響してたなんて……。嘘みたい話だが、本人が書いているのだから間違いないのだろう。
いや、未だに信じられない。あのくっだらない馬鹿話が、誰かの心を救っているなんて夢にも思わなかった。
そして、俺がいつまでも同じ場所で足踏みしている間に、星乃さんはとっくに俺を追い越していってしまった。俺のことが眩しい?俺には、俺なんか及びもつかないほどに先を行く君の方が眩しくてたまらないよ……。
▼△▼△▼△▼
これで、私の話はおしまいです。
やっぱり長くなってしまいましたね、ごめんなさい。
最後に。
ちょっと厚かましいかもしれないけど、お願いを書きます。
ラジオの投稿は、俺さんに友達が出来たら終了してしまうんですか?
この喋りは友達が出来るまで続ける、と仰ってましたよね。
でも、俺さんに友達が出来ても、ラジオは続けてほしいんです!
更新が停まったら、それは俺さんに友達が出来たっていうことだから、凄く良いことだし、喜ばしいことなんですけど…。
これからも俺さんの楽しいトークを聴きたいんです。
私以外のリスナーもそう思ってます!―――と思います。
それに、俺さんのトークに勇気付けられている人が私以外にも居るはずです。
いえ、きっと居ます。
それは私が保証します。
だから、お願いします!!
それから、もう一つ。
スゴイ幸運が重なって、もしどこかで会えることがあれば……その時は是非、私と友達になって下さい!約束です!
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
これからもあなたを応援しています。
▼△▼△▼△▼
最後まで読んだ。もう一度読み返そうとしたけど、画面がひどく滲んでいてもう読めない。
会ったこともない、名も知らない俺のことを、こんなにも信じてくれてたんだな。そして、約束を守ってくれた。
きっかけは確かに俺だったかもしれない。俺のトークで星乃さんは勇気付けられ、行動を起こせた。それは星乃さんの努力によるところが大きかったはずだが、行動の結果、状況を改善出来た。星乃さんにとって、大げさでもなく本当に俺は恩人だったのだ。
だから俺の事情を知った時、俺に救われた彼女は今度は俺を救おうとして。……俺はそれを拒絶した。
どんな気持ちだったろう。それまでの自分を、立ち直れた自分をまた否定されたような感じだろうか……。俺は彼女を二重に裏切っていたことになる。
それなのに。
星乃さんは、俺を責めなかった。
自分の言動が原因だったと。
俺をこれ以上苦しめたくない、と。
これを先に読んでいれば、彼女を最後まで信じることが出来ただろうか?いや、今更だな……既にやらかしてしまったことを無かったことには出来ない。
俺は、どうしたらいい?
俺に向けてくれた彼女の真心を踏みにじったままで。
俺を信じた君を嘘にして、これまでの生き方を否定したままで。
それで終わって本当にいいのか?
今まで何度も間違えてきたけれど……それだけは絶対に違うはずだ!
このまま本当に友達としての付き合いが無くなってしまうとしても、伝えなくてならない。
君が俺にしてくれた事は正しいのだと。
君が信じたものは間違っていなかったのだと。
彼女の心を曇ったままにするのだけは、絶対にしてはならないのだ。
そうだ。俺がこれからしなきゃいけないことは、伝えることだ。誠心誠意、言葉に出して伝えるのだ。俺の口から。俺の言葉で。
そして…今度は俺から言うのだ。
“もう一度、俺の初めての友達になって下さい”と。
二年前から【囃 静】が、自分と同じように必ずこの状況を乗り越えるのだと、誰よりも信じてくれた人へ。
今、ようやく分かった。彼女は天使でも、悪魔でも、女王様でもなかった。俺みたいなクズを更生させるために遣わされた―――“女神様”だったのだ。
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