10.友達の作り方
―――ホワッツ?今なんと言った?
「私と友達になりましょう!
―――実は今日、最初からそのつもりだったんですよ」
「…え?……は!?」
「囃くんのこれまでの努力は決して無駄じゃないと思うんですよ。
……というか、私がさせません!」
なに言ってるのこの人?……“友達”?あ、あぁ、聞いたことあるぞ、確か空想上の生物の名だっけ。それとも、どこかにあるユートピア?
「そうですね、具体的には……あ!私と会話の練習をしてみませんか?―――って聞いてます、囃くん?」
「…アッハイ」
どうやらマジで言っているらしい。
星乃さんと友達?俺が?……え、幾ら払えばいいの!?ローン組める!?―――待て、落ち着け!舞い上がるな、バカめッ!
分かったぞ、きっと壺か絵画を買わされるパターンだ!間違いない。……で、いくつ買えばいいのかね?
違う、そうじゃない!ド底辺の俺と最上位の星乃さんとじゃ、全く釣り合わない。俺と関わってるなんて知れたら、星乃さんのためにならないだろう。
断ろう。とっても惜しいけど……正直、また泣きそうになるくらい嬉しかったけど。この天使を、これ以上俺如きに付き合わせる訳にはいかない。俺に、星乃さんの時間を割かせるほどの価値は間違いなく無いからだ。
「ぁ、あ、あの!…あの!ホホッ、ホ、ホッシノ、さんッ!」
「はい?」
「オ、オレ、とッ……か、かわるとッ…・そ、その…アレが、アレで…えっと…だ、だから」
必要な単語が全然出てこない。年寄りか!?シッカリしろ、星乃さんのためにちゃんと断るんだ。
「と、とと、トモ、ダチ、には―――
「―――言い忘れていました、囃くん。
……断ったら、学校で正体をバラします」
―――あれッ!!?誰だよ天使認定したの!全然違ったよ、畜生!悪魔じゃねーかッ!!ちょっ、ちょっと、星乃さん?話違くない?俺、凄い感動してたのに。返して!俺の気持ち返して!……壺?買わねぇよッ!ふざけんな、クーリングオフだッ!
どうしてこうなった。断るという選択肢は既に無く、道は一つに限定されている。その行き先の表示は“グッバイ”だ。
「そういうワケで、これからよろしくお願いします。ネッ!囃くん♪」
「……………………」
「囃くん?……返事は?」
「……アッハイ」
―――女ってコワいッ!!まさかこの歳でそんなことを理解らせられるとは思わなかった。っていうか、何でこんな輝くような満面の笑みで他人を脅迫出来るの!?今まで完全に騙されてたよッ!
でも、騙されてたってイイじゃない?こんな可愛いんだもの。……とか思ってしまう自分も存在している。騙されていると分かっても貢ぎ続ける駄目男の気持ちまで理解してしまった。
いやしかし、経緯はアレだが―――遂に、念願の、待望の、高校初の友達が出来た!…のか?段々嬉しい気持ちが炭酸の泡のように次々と湧き上がってくる。やったぜ、マジかよ!しかも星乃さんだぜ!?キャッホーゥ!もぅ死んでもイイッ!
きっと夢、これは夢なんだ!目覚めたら机の上でマイク片手に涎垂らして寝惚けてる俺が居るんだ!……なんかマジっぽい。やめよう、リアルな想像は。
「早速ですけど、連絡先の交換をしときましょうか」
お、おぉ!?コレは伝説のイベント“連絡先交換”!友達という名の契を交わす、神聖にして不可侵の儀式!
俺は震える手で自分のスマホを星乃さんに手渡す。手汗がヤバい!ビッチョビチョだ!
星乃さんは慣れた手付きでササッと登録完了して、俺にスマホを返してくる。小学校卒業時にリセットして以降、家族以外登録された事がなかった俺のスマホに今“友達の証”が!
感動に打ち震えながら、スマホに登録された星乃さんのアドレスを凝視していると、早速一件のメッセージを受信する。新着メッセージ有りの表示を見るのすら久しぶりだ。俺は喜び勇んでメッセージを開く。
『今日からよろしくお願いします。これから練習頑張りましょうね、囃くん!
―――絶対に逃がしませんよ』
まさかの病み属性持ちだった。
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