09.告白?

 星乃さんが、良く通る声でゆっくりと語りだす。


「―――えぇと、二年前の事なんですが。

 私、その頃にちょっとヘコむ事があって性格が暗くなってたんですね。そんな時に偶然、囃くんのラジオに出会って。涙が出るくらい笑ったら、沈んでた気持ちが軽くなって。おかげで、前向きになって悩みも解決出来ました。

 そう、私、マヨラジ開始当初からの大ファンなんですよ!……あとでサイン下さい。


 ―――んっン!それでですね。

 もし直接会えたら、ずっと、お礼を言いたいなって思ってたんですよ。

 ラジオで喋ってた内容から、実はすごく近くに居る人なんじゃないかと、ぼんやりと思ってたんでけど。でも顔も名前も分からなかったから、無理だろうなって諦めてました。

 あ、でもお礼のメールは送ったことあるんですよ。”ミホシ”っていう名前で。……読んでくれました?力作だったんですけど。


 ―――んっン!話がそれました。

 高校に入って最初の自己紹介で、囃くんの声を初めて聞いた時、あれもしかして?って思ったんです。しばらく観察してたんですけど……そもそも囃くんは誰とも喋らないし。だから、ずっと確信が持てませんでした。ラジオの時とのギャップが凄かったですから」


 えと、ちょっと待って待って。

 星乃さん、ラジオ開始当初からの熱心なファンで……しかも、高校入ってすぐに声だけでバレてたの、俺!?今まで泳がされていたなんて、恥ずかしぃー!顔が熱い!今すぐに“どこでもドア”でお家に帰りたい!

 ……ていうか、ファンの間だと略称はマヨラジなのね。あと、サインなんてないです!


「―――だから、ちょっと試してみることにしました。

 クラスの友達にラジオを教えて、囃くんの反応を見てみよう、って。……それで確信しました」


 あんな“ラジオ”ってワードが出るたびにビクビク反応してたら、そりゃあバレるか。……にしても、俺の平穏を奪ったのは意図してのことだったのか。悪気が無いのか分かったけど、ほんのちょっぴり怒りが湧いてしまった。

 仕返しに、頭の中で星乃さんを思う存分☓☓する―――断じてエロい事は考えていない。いや、本当に!う、嘘じゃないよ!?……ちょっとだけだ。


「―――それで今日、どうしても聞きたいことがあったんです。

 どうして学校では正体を隠して一人で居るんですか?ラジオのことを話せば、すぐに友達出来る気がするんですけど。

 何か友達を作らない…作れない理由があるんですか?それを今日、どうしても聞きたくて」



 あぁ、そうか。

 星乃さんは、俺自身があの動画を作って投稿していると思っているのだ。いや、普通はそう思うよな。やっぱり、ラジオを拡めたのは良かれと思ってのことだったワケだ。けれど、そこには重大な誤解がある。俺はラジオの存在を隠すどころか、全く知らなかったのだ。友達も、作らないんじゃない。そこには理由なんて何も無い、単純に作れなかっただけなのだから。


 この誤解を解かなきゃ!ちゃんと説明しないと!どんなに辿々しくても、俺自身の口から。


「……ホ、ホホッ、ホシッ…さん!オ、オレ…俺、はッ!―――」



 ▼△▼△▼△▼



 本当に、自分でもハッキリ分かるほど酷い喋りで星乃さんに説明をした。

 小学校時代のトラウマ。中学から始めたトーク練習。あのラジオのリスナーである星乃さんなら知ってる事かもしれないけれど、全部だ。

 そして、俺がラジオの存在を知ったのがつい先週で、妹に録音データを勝手に利用されていたこと。他人と話すことを目標に練習していたのに、結局上手く喋れず全くの無駄だったこと。これ以上ラジオを続けるつもりはないこと。

 最後に……ただただ、俯いたままひたすらに謝るのだった。


「ゴメ…ゴメン…なさぃ…」


 途切れ途切れな上に声量もバラバラで、クソみたいに聴き取りづらかっただろう。いつの間にか、みっともなく鼻水まじりの涙も流していたようだ。本当に無様極まりない。それでも、星乃さんは嫌な顔をせずに最後まで黙って聞いてくれた。


 嘘偽りのない正直な気持ちを伝え終わると、空は既に赤に宵が混じって暗くなり始めていた。もうすぐ完全に日が沈む。呼び出されたのは俺の方だけど、星乃さんをこんな時間まで付き合わせてしまったことに罪悪感が湧く。


 上手く伝わったかどうかは正直分からない。けど、これで来週から星乃さんが学校内でラジオの話題をすることは無くなるだろう。少し時間はかかるだろうが、更新の停まったラジオの存在は次第に皆の話題から消えて行くことだろう。これで、元通りだ。俺はこれまで通り、クラス内で居ても居なくても同じ空気でいられる。


 星乃さんを送って帰った方が良いのだろうか?いや、俺に送られたら逆に迷惑になるか。顔もまともに見れないし、もう喋る事もない。とにかく、話は終わったのだ。今度こそ帰ろう。



「―――囃くん」


 帰ろうとして脚を一歩引いた瞬間、星乃さんに名を呼ばれ、俺は少しだけ顔を上げる。


「私と、友達になりませんか?」



 ………………天使か?

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