08.呼び出し①
「意外と早かったですね、囃くん」
神社で俺を待っていたのは、健全な男子ならコロッと恋に堕ちてしまいそうな微笑みをうかべた星乃さんだった。
……あぁ、なんだドッキリのパターンか。
おそらくこの後、星乃さんが俺に愛の告白(大嘘)をして、俺が無様に慌てふためいているところをクラスメイト達がフラッシュモブよろしく次々と出てきて笑顔でネタばらし、ゲラゲラわっはっは!からの俺の醜態を4Kで記念撮影して解散。という流れだろう。全て把握した。人の純情を弄ぶクソどもめ!俺がデ○ノート持ってたら全員秒で記入してやる。死因は“笑い死に”だ!本望だろぅ!?
「囃くん?辺りを凄い勢いで見回してどうしたんですか?首がもげそうで恐いです。
……まさか、見えちゃいけないものが見える系の人でしたか!?」
「あッ…ち、ち、チガウッ、マスッ!…え!?ホ、ホホ、ホシ、ノ、さん…だ、だけ?」
「私しか居ませんけど?……え?私以外居ませんよね?ね!?」
まぁ、俺の推理力なんてこんなもんよ。推理力5か、ゴミめ!
そして、今日も吃音が絶好調だ。あと、なんか無駄に怖がらせちゃったみたい。メンゴ。
しかし、ドッキリじゃないとしたら何なのだ?やっぱカツアゲか?
星乃さんにだったらこっちから貢ぐのも吝かではない。躊躇なくオールインしてやろう。
「コホン。……んっン~、アー、アー。……ぃよし。―――囃くんッ!」
星乃さんは心なしか頬を赤らめ、緊張した面持ちで言葉を探していたが、何かを決心したようだ。
え、なにこの緊張感!?……まさかドッキリじゃなくて、マジの告白なの?マジでッ!?
困らないけど、困るよ!どうしよう!?ハネムーンはどこに行―――
「…あなたが“真夜中の俺ラジオ”のパーソナリティですよね?」
星乃さんは静かに、決定的なその言葉を口にした。
全然違った!!―――っていうか、ド直球で特定されてる方だった!!
え、嘘ン!待って、どうやって特定したの!?
いや、そんな事はどうでもいい、とにかく誤魔化すのだ!ナニが!何でも!全力の!全開で!
「チ…ァ、ア!…オレ、ち、ちが、まッ!!」
「大丈夫、落ち着いて?」
「だかッ…や、ちがッ!ぁ、あのッ!!」
―――やっぱり駄目だ!!
数秒前に固めた決意は、それはもうあっさりと、ポッキリと折れてしまった。
元々上手く喋れない上に、人生で一番テンパってる現在、最初から状況は詰んでいたのだ。
カツアゲの対策なんかじゃなくて発声練習の一つでもしておくんだった!
後悔してももう遅い。星乃さんがどうやって俺の事を特定し、確信を得たのかは分からない。
だが、誤魔化せないのなら、星乃さんに誠意を……そう、誠意を見せるのだ!
「まだクラスの皆には言ってません。囃くんと話をしてからにしようと思ってたので。
それでですね、あの…よかったら私―――」
俺は尻ポケットから財布を取り出すと、星乃さんの手をとって財布を持たせる。
「私と―――ん?…あの、囃くんッ!?」
これで、完ぺ―――しまった!カツアゲ対策で札は靴下だ!誠意を見せるのなら札は必須だ!スーパードクター野口先生に御登場願わねば、この場が乗り切れないじゃないか!!
俺はその場にしゃがみ、靴下にねじ込んだ野口先生を二枚、特殊召喚する。今度は勢いよく立ち上がると星乃さんが持つ財布の上に野口先生を託す。野口先生の「任せときな坊主!」という頼もしい声が聞こえた気がした。
今度こそ完璧だ!見せられる誠意は出し尽くした。だから、この誠意に免じて学校で黙っといてくれないかな。
気付けば、星乃さんの顔が物凄い近くにある。先週も見た、呆気にとられた時の顔だ。何度みても反則的に美しい。
イカン!見惚れている場合ではない。やる事は終わったのだ。速やかに撤退だ。囃 静はクールに去るぜ!
俺は踵を返すと脱兎の如く走り出す。全然クールじゃなかったけど、仕方ない。俺だもの。
「待って、囃くんッ!!!」
踏み出したはいいが、速攻で手首を掴まれ急停止。…あれ?話が違うよ 、野口先生!?やっぱり福澤大先生じゃないと駄目なの!?やはり圧倒的な力関係は覆せないのか!?社会の厳しさを垣間見てしまった。
「なんなんですか、コレはッ!?」
ちょっと怒り気味に、せっかく渡した誠意を返されてしまった。
野口先生の髭が萎れ、「すまねぇな坊主…」と言ったように見えたが、やっぱり気のせいだろう。
「囃くん、少しだけ!少しだけ私の話を聞いて下さい!聞きたいこともあるんですッ!!」
手首を掴む力が少しだけ強まった。
そんな真剣な表情で言われたら、従わざるをえないじゃないか。
俺は観念して星乃さんの話を聞くことにした。
……その前に、野口先生を財布にしまってもいいかい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます