06.初心
家に着いたところで何もする気になれず、家でゴロゴロしながらこれからどうしようかを考える……考えたところで多分なにも出来やしないだろうけど。
ちなみに奏はまだ両親に打ち明けていないようだ。なにビビってんだ、チキンめ。
……そういえば、この間はオープニングトークだけで再生を止めたので、自分の動画を一つとしてまともに見てない事に気付いた。
ほとんど加工されていない自分の声が流れてきたせいで漠然と“俺だとバレるかも!?”とビビっていたが、よく考えたら学校でまともに喋ってないし、ましてトーク練習時のテンションなんか一度も晒してないハズだ。
奏のことだから、簡単に特定されそうな情報はちゃんと伏せるように編集してある、と思う。妹の事は微塵も信じていないが、こういう保身に関してだけならわりと信頼できる。
だが一応、学校の連中が俺のことを特定できそうな致命的なことを口走ってないかだけは確認しておこう。俺は少しでも安心が欲しいのだ。
心底聴きたくないが、仕方がない。俺はPCを起動すると“真夜中の俺ラジオ”を検索する。
ソースデータがあるのにわざわざ自分の動画検索して見るとか、何なのだろうか。
最近のを確認する前に、記念すべき(?)第一回目がどんなだかを聴いてみる事にした。
既に嫌な汗が全身から出始めている。
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=真夜中の俺ラジオ 第一回=
「あー、あー。テステス。どうも、俺です!…ちゃんと録れてる?」
「まぁ別に録れてなくてもいいけどな。どうせ俺しか聞かないんだから」
「記念すべきトーク練習一回目だし、あとで反省会すんだから、録れてないと駄目だろ」
「多分録れてっから、さっさと始めるべ」
「……つってもさ、何すんの?」
「決めてねーのかよ!?」
「だって今日の晩飯食ってる時に急に思いついたんだもん!」
「もん、じゃねぇよ。可愛くねーわ、ボケ!」
「適当に喋ったのを録音して後で自分で聴いてみよう、ってとこまでは覚えてるんだが」
「そもそも、何でこんなこと始める気になったワケ?」
「それ、聞いちゃう?」
「実は……聞くも涙語るも涙な出来事が過去にありましてな」
「なに髭なでるジェスチャーしてんだよ、下の毛すら満足に生えてねーくせに。
大した事でもねーんだから、勿体ぶってねぇでさっさと喋れや」
「酷くない!?」
※※※
「小学生の頃な、俺結構喋るの好きだったのよ。喋る、っていうか皆を笑かすのが、かな?」
「その頃、無駄にテンション高かったもんな」
「俺、自分じゃ結構…いやかなり面白いヤツだと思ってたのね」
「ありがちだけど、根拠もない自信に溢れてたんやな。そのせいで自己評価が天元突破してたと」
「あー、うん。……でな、ある日の放課後、皆を驚かせてやろうと思って教室の掃除用具入れに潜んでたら……クラスメイトが俺の悪口言ってるの偶然聞いちゃったのよ」
「山●と渡●な。アイツらはいつか確実にアレして、アレします!」
「木●も追加しといて!あと別件で、た―――
※※※
「んで?」
「俺の事を散々スベってるだの、テンションがウゼェだの言って笑って馬鹿にしてたヤツらがな、次の日普通に話しかけてくんだよ。いつも通りへらへら笑ってさー」
「嫌ってるくせに話しかけてくるとか意味不すぎなんですけど」
「その見事なスベり芸が見たかったのでは?」
「まさか、あのスベり芸にファンがおったとは……」
「そんなん狙ってねぇよ!」
「んっンー。で、話戻すと―――お前らが俺をどう思ってるか知ってんだぞ、って最初は凄いムカついてたのね」
「どう復讐してやろうか、めっちゃノートにアイディア書き出してたよな」
「そういや、あのノートどこやった?しばらく見た覚えないけど……」
「おぃ、見つかったらマジでヤベェぞ!?絶対ポリスメンに亀甲縛りにされちゃう!」
「”お縄になる”って言いたいのか、そのポリスメンが特殊すぎるのか、判断がつかないんだが…」
※※※
「…えッ、マジで見つかんないんだけど!?」
「捨てた覚えはないから絶対どこかにあるはずだって!」
「でも、隠すとしたらココしか…」
「やべぇよやべぇよ……」
「あ、録音しっぱなしになってんじゃん」
※※※
「んで?」
「しばらくは普通に付き合ってたのよ、ソイツらと」
「でも、段々怖くなったんだよな」
「そうそう。なんでコイツら、あんなディスってた俺と普通の顔して喋ってんの?って」
「心の中じゃあ今もクソミソに罵倒してんだろうなぁって思ったら、もう何喋っていいか分かんなくなっちゃってさー」
「まぁ、俺のスベり散らかしてる姿見て、後で嗤ってたんだろうけどな」
「それからだよな、全力で後ろ向きな性格になったの」
「だって自分としてはメッチャ頑張ってたつもりなのに、あんなクソ評価だったんだぜ?」
「で、ろくに喋れなくなった、と」
「まぁそれだけじゃなくて、同じ時期に妹にも酷い裏切りをされ―――
※※※
「んで?」
「そんなワケで中学入ってもグダグダだったワケよ」
「この頃にはもう、他人とまともに喋れない体になってたっけ」
「見事にリセット失敗してたよな」
「超ウケるんですけど」
「……ちょっと泣いてきてイイ?」
※※※
「ただいま。うっかり漏らすとこだったわ」
「小便かよ!泣いてねーじゃねぇか!」
「涙は下から出しといた」
「どっから出してんだよ!?」
「んで、なんやかんやあって今日、これじゃ駄目だ!って思ってさ」
「ようやくトーク練習に戻ってくるワケね?」
「その通り!テンションだけでスベり散らしてっからバカにされんだよ!
―――だったら、本当に面白ぇ奴になれれば解決なんじゃねぇの?って!!」
「天才か!?」
「だろぅ?」
「そんなワケで…とりあえず何かやってみようぜ!って事で、テキトーに喋りの練習をします!」
「最低でもリアルで友達出来るまでは続けろよ、俺」
「おぅよ!」
「普通に話すリハビリもしないとな」
「…で、具体的にはどうすんのよ?」
「それを今から頑張って考えます!!」
「最低限ソレ決めてから始めろよ!やっぱグッダグダじゃねーか!」
「まるで成長していない……」
「今日の反省会、もう始めちゃう?」
「……はい」
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一番隠しておきたかった第一回目のトーク練習からバッチリ入ってんじゃねぇか!!死にてぇ―――ッ!!
所々にピー音も被せてあるが、奏の編集技術がまだ拙かったせいか、結構ズレちゃってるしよ!いや、わざとか?
っていうか、第一回目の時点で既に複数人で喋ってるようなやり方出来てたのね。
確か、こんな感じでボケたろとか、こんな話ふってきたらこう返そうとか、一人で色んなタイプを演じてみた結果、この一人会話劇みたいな喋りになったんだっけ…。
一応致命的すぎる箇所はカットしてあるし、編集でテンポも良くなっているが、そんなもん評価したくない。
ちなみに、視聴者のコメント欄もチラリと覗いてみた。
◆コメント欄 ―――――――――――――――――――――――――――――――
“こんなアレなものを恥ずかしげもなく公開してるとか、控えめに言って頭オカシイ”
“俺達はいったいナニを聞かされているのだ?”
“最新回から来ました。まだ友達出来てませんよ、俺さん!”
“こうして、俺氏の伝説が幕を開けたのだった”
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
……違うんです!妹が勝手に投稿しててッ!
なんでこんな昔のアイドルみたいな言い訳してんの、俺。
俺も大概だけど、妹が全ての元凶なんだよ!……俺は悪くねぇッ!!
クソ!安心するどころか、開始当初の一番アレな感情が濃縮還元された気分だぞ!!
この例えようもない気持ちはどう発散すればイイの!?
“YAH○○!知恵袋”に投稿したら、誰か的確に答えてくれるのだろうか……。
こんな時に親族ですら相談出来そうな人が一人も居ない自分の孤立っぷりに、溜息が出た。
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