04.現実逃避

 糞、あのアマッ!結構いいパンチ持ってやがる。的確に急所をカウンターしてきやがった。体中が痛ぇ。

 まさか返り討ちにあうとは思わなかった。いつの間にあんな力をつけていたんだ……おそろしい子!


 あの後、取っ組み合いの喧嘩の末に一つの成果を得た。

 奏に、これまでの嘘を両親にちゃんと話すことを約束させたのだ。渋々、本当に渋々了承していた。そういや、途中で“公開をやめさせたきゃ金を積め!一ヶ月1万円で公開を停止してやろう!”とか言ってたっけ……なんて往生際の悪い生物だろうか。


 結局、例の動画アカウントを消させることは出来なかった。だが、俺自身がトークの録音をやめることで、何とか更新を停めさせる事にだけは成功したのだ。ハッハッハ、ザマーミロッ!

 いやもう、あんだけ好き勝手やってた糞ビッチに対して出来ることがコレだけとか、情けないにも程がある。


 ちなみに、録音データが入っているフォルダを確認してみたら、知らぬ間に見事に共有化してあった。気付けよ俺!!



▼△▼△▼△▼



―――そんな事より、どうすんだよ明日から!

 夕食後、俺は自分の部屋で頭をかかえ、深い絶望と後悔に苛まれる。

 カースト上位の連中があの動画を話題にしてたんだぞ。しかも、我がクラスのカリスマ、一番のインフルエンサーっぽい星乃さんが拡めてるらしい。よりにもよって自分のクラス内で流行るとか、逃げ場が無ぇじゃねぇか!

 あまりにの出来事に今日は教室で下手をうったが、学校でほとんど喋った事ないからバレるワケないと思う……だが、万が一、億が一にも可能性がある時点で全然安心出来ない!

 しかも、元凶であるところの動画アカウントはまだ生きている。こんな公開処刑の状態で平常心でいられるか!?無理に決まってる。こんな緊張状態が続いたら、学校でお腹痛くてずっとトイレに籠もりっきりになること間違いなしだ。

 そしたら、“トイレの住人”だの“ベルフェゴール”だのというの二つ名まで授与されてしまうではないか!!……ベルフェゴールはちょっと格好良くないか?と思った俺は、中二病も併発しているらしい。


 そもそも何で俺はあんなトークを録音してたんだ!?コンナハズジャナイノニィ!

 あんなものさえ無ければこれからも植物のように穏やかな日常を送れていたハズなんだ!何を血迷ってこんな事を始めたのか、二年前の俺のところにタイムマシンで駆けつけて言ってやりたい。

 ”そのマイクを離せ!社会的に死ぬぞ!!”と。

 あと、”お前が小二から集めてるギザギザの十円玉は将来何の自慢にもならないから、今すぐ十円ガムとでも交換してもらえ!”と。

 そもそもタイムマシンが無ぇじゃん、バカめ……あーぁ、俺の子孫は何時になったらネコ型ロボットを派遣してくれんだよ?使えねぇ連中だな!

……待て。逆に言えば、俺には子孫が出来ないって事の証明ではないのか!?思わぬ所で知りたくもない真実に到達してしまった。ショッキング!



 いつもの癖で、また被害妄想が暴走してしまった。

 悩んでいても事態は一切好転しない―――そう!今すべき事はただ一つ。

 兆が一、京が一にもクラスで特定された場合にどう誤魔化すか、その対応策を考えるのだ!



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=緊急脳内会議=


「はい、じゃあ何かアイディアある人~?」

「シンプルに、“似た声の人が居るもんですね”でいいんじゃね?」

「パクリじゃねぇか!よりにもよって妹の!死ねッ!」

「そこまで言わなくてもいいじゃない…」

「シカトすればいいのでは?」

「いや、無理でしょ。そんな対応したら速攻でボコよ?」

「そうだよ。俺の雑魚さは身に沁みて分かったろ。なんせ、妹にも負けるんだぜ?」

「クラスメイト相手じゃ秒ももたねぇわ。よってたかってZ指定だっつの。黒塗りモザイク必須だぞ」

「結果的にいつも通り上手く喋れなくて、シカトと同じような結果になる、に1000ペリカ」

「いっそ異世界転生に賭けて、トラックに飛び込んでみるとかは?」

「そんなん、試したところで確実に○ッチのかっちゃんパターンやぞ!」

「奏がたっちゃん役か。死んでるんだぜ?ってとこで爆笑しそうだよな、アイツ……想像したらムカついてきた」

「ともかく、俺がヤッても無駄死にしかならんて!やめとけ!」

「いや、でも案外かっちゃんも異世界で南似の美少女とよろしくやってる可能性が微レ存」

「得意の剛速球で魔王とかシバキ倒してたりしてな!」

「何それ、すごい読みたい!」

「真面目に考えろよ、このポンコツども!」

「じゃあお前がまともな案出せよ」

「知能レベルが同じなんだから、察しろよ!」

「逆ギレかよ。小魚食えば?・・・効果あるかは知らんけど」

「アレだ。もう二度と事情を聞こうと思わないような返しが出来ればベストだ」

「…例えば?」

「そうね。止むに止まれぬ凄い重い事情がある、とか」

「生き別れの母さんを探すために発信している、とかドゥよ?」

「俺、両親と同居してんじゃん」

「そもそも、毎回なんのメッセージ性も込めてねーじゃねぇか」

「せやな」

「じゃあ……聞かれた時に引くぐらい大泣きすればいいのでは?」

「それだッ!!」

「いや、ないでしょ!?」

「そんで、失禁すればパーフェクトだな」

「あぁ。もう完璧に死ねるな!再起不能、完全敗北だ!」

「たしかに、コレさえやっときゃ二度と話しかけられんな」

「これ以上恥をデコるのはよせッ!!」

「でーじょうぶだ、マイナスにマイナス足してもマイナスのままだから!」

「どこも大丈夫じゃないよッ!?」

「今日はもう疲れちゃった……眠いよパトラッシュ」

「マイペースだな、お前!今寝たら明日死ぬぞッ!?」

「…で、結論出た?」

「仮眠をとって頭をスッキリさせよう」

「寝てる間に小人さんが解決してくれるかもしれんしな!」

「寝言は寝てから言え」


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 ふと気付けば、マイクに向かっていつも通り録音していた……習慣って恐い!!

 そして、トークの練習がいつの間にか現実逃避の方法になってしまっていることに気付き、愕然とする。

 録ったばかりの音声を速攻で消去すると、ベッドに倒れ込んだ。


 これはもう、真面目にお医者さんのお世話になるコースで確定なのではなかろうか。

―――良かった、動画で稼いだ金はこのためにあったんだな。まだ妹から一銭も貰ってはないけれど…。

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