クロネコが呼んでいる

@yasunari616

第一話

黒猫『全身の大半が黒い体毛で覆われている猫の総称。』


猫愛好会の人気が非常に高いが、


"黒猫が目の前を通ったら不吉なことが起きる”


"黒猫を飼うと不幸が訪れる”などと言われている。


こんな迷信じみた話を皆一度は聞いたことがあるであろう。


実際これらの話は迷信で、逆に幸運をもたらしたり、福猫としてい愛されている。


しかし、これは世間一般の話。


僕は違う。


昔誰かから教わった。


"今後君は黒猫と絶対関わってはいけないよ”


"君に必ず不幸をもたらすからね”


ぼんやりとした記憶の渦の中心にあるこの言葉。


一体いつ。どこで。誰が。僕に向けて発した言葉なのか――いや、言葉ではなく何かの本の一部分を取り出し、頭の中で音声化したのかもしれない――分からない。


どっちを信じる?


一般的に信じられている話と、


よくわからない記憶の言葉。


「今はそんなことを考えている暇はないか」


そう心の中で唱えて――心の中で唱えたつもりだったが声に出ていたかもしれない――この"戦場”の中、足の回転を早めた。


もうどっちだっていい。


そう、不幸や幸運なんてどうでもいい。


今はただ、この両腕に抱えた一匹の黒猫を助ける為に走れ。ひたすらに走れ。





「くそがよぉ!!!」


誰もいない真っ暗な部屋に怒りの噴火の音がこだまする。


「高校生の書く小説なんて誰も見やしないのか」


"高校生”なんて大きな主語を使ってしまって申し訳ないが、今は少々ムシャクシャしてしまっているので許してほしい。


何せ、6時間ぶっ通しで書いた小説が『Pv2、ハート0、コメント0』。


画面と30分程にらめっこしても相手は無表情でこちらを見ている


確かに勉強の息抜きがてら――勉強の息抜きなのに6時間も書くのは自分でもどうかと思うが――始めた小説は完成度は低く、面白味も少ないかもしれない。


だが、時間を掛けて書いた物が読まれないというのは無性に腹が立つものだった。


何がいけなかった?


まぁいいや


「小説読んでる奴なんて友達いないボッチだろ」

※あくまで個人的な意見です。


こうやって自分でなく、読んでいる他人を否定することによって自己を正当化するのは僕の――というか人間の――悪い部分だ。


「散歩行くか」


小説や勉強を長時間した後には必ずと言っていいほど散歩に行く。


まぁ、ルーティンみたいなものだろうか。


現在の時刻は午前2時近く。


あまり遠くには行けないな。


無心でぶらぶらと歩き始める。


やはり散歩はいい。


思考力が高まっている気がする――あくまでも僕の矮小な思考力であるから、あまり大層なことは考えつかないのだが。


10分程歩いたところであろうか。


知らない――いや、見たことない――場所を歩いていた。


「あれ?」


「ここ、どこだ?」


普通の一軒家のように見える物には漏れなく蔓や葉が絡みつき、明かりは無い。


道路は割れ、母なる大地が顔を出している。


自分の文章力では表現し難い不気味な建造物が幾つかあり、


空にはいつもと同じような星達が蠢いていた。


それに先程から「きしきし」という音が聞こえる。


なんなんだよこれ...


仮にも生まれて育った街――そもそもこれを人間が住んでいる街と同じ扱いをしていいのだろうか――の中で間違うなど、断固としてない筈なのだが


かつ、かつ、かつ


突如として女性のヒールのような音が聞こえる。


音が近づいてきたわけではなく、急に現れた。


そんな疑問とは裏腹に、この異質な空間に誰かいるという安心感。


できるだけ大きな声で、そしてできるだけ腕を大きく振って叫ぶ。


「おーい。誰かいるのか?いたら返事してくれーー!!」


よかった、取り敢えず一人じゃ...


「え?」


先程まで元気に振っていた腕がない。


心臓が途轍もない速度で鳴り始める。


次の瞬間、腕があったはずの場所から大量の血液が....


「うああああああああああああああああああああああ」


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


何で腕がない?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?


血が、熱い、息が、


「あら、随分と痛そうね。その腕」


なんだこいつは。


なんでここに?


「まぁ、"どうせ化物”。どうなったっていいわよね」


化物?


何を言っているんだこいつは。


「な、何なんだ...腕を..吹っ飛ばしたのも...お前か?」


「へぇ。喋れたのね。でも、口の聞き方には気を付けた方がいいわね」


その瞬間、何もなかった筈の空間に"幾本もの刀”が出現した。


「次は右目」


彼女の号令と共に刀は標的である僕の右目に突っ込んで...


「ぐああああああああああああああああああ」


「うるさいわね」


「右足」


「あああああああああああああああああああああ」





「はぁ..はぁ..」


どれくらいの時間が経った頃だろうか見当もつかない。


ただただ目の前に居るであろう――もう目は潰されてしまっているので推測でしかないが――彼女によって身体をいたぶられた。


が、生きている。


もう死んでしまいたかったが、生きている。


「なんで生きているの...!」


「俺...も...分か...い」


「心臓だって、脳だって、貫いたのに..」


「やはりあなたは”化物”ね」


そこから先は覚えていない。



















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