第3話
扉を開いた中は暗闇だった。まるでそこから先は空間がないみたいな暗黒。片恋は躊躇いもなく、中に入っていく。
「なぁ、技を磨いてきたってどういうことだよ」
「バトルロイヤルで大切なことはなんだい?」
「相手を倒す強い武器だろ?」
ちっちっちと彼女は指をふりながら言う。
「武器もそうだが、大事なのは機転だよ。生き残るための機転」
ブブブブブブブブブブブブブブ
おもわず耳を塞ぎたくなるような羽音が鳴り響く。
「さて、こんだけ繁殖してしまっては厄介だね」
片恋はやれやれと肩をすくめる。
「どこなんだ、ここは」
扉を開いたあとに目に飛び込んできたのは、どこかノスタルジーな香りの残る町。低い屋根の街並みに、チラホラと個人経営だと思われるような店が立ち並ぶ。
ただ1つ違うのは、人間をゆうに超えるような大きさの蜂がうじゃうじゃと飛んでいることだ。
黄色と黒の縞模様が本能に危険と働きかける。ガチガチと噛み合わせると金属音が鳴り響き、その前足の爪は草刈り鎌のように鋭く。感情を映し出さない複眼は機械的な恐怖を感じさせた。
1匹の蜂がこちらに向かって飛んできた。
「なぁ、あいつこっちに向かってきてないか」
「そりゃ、敵がきたからだろう」
低い羽音が近づくにつれて、ガチガチと顎を鳴らす音も聞こえてきた。
片恋は、腰のポーチに手を突っ込むとするすると黄色と黒でカラーリングされたライフルを取り出した。彼女は肩の高さにライフルを構え、安全装置を外す。ストック部分に頬をつけ、スコープを覗き、高速で迫り来る蜂に狙いを定める。蜂の方も侵入者に対して攻撃を仕掛けるためか、攪乱のためか、鋭く方向を変えながら、迫りくる。
ズドン
という音と共に、片恋はライフルをぶっぱなした。
襲いかかってきた蜂は頭を粉々にくだかれそのまま、足元まで滑り転がってきた。片恋の方を見ると、彼女は顎で向こうをさした。そこには駄菓子屋があった。
「あそこに1度隠れよう」
駄菓子屋の中は、薄暗く人の気配はない。古びた木でできた棚には飴玉やガム、ラムネやきなこ棒など、子供の時に食べた懐かしいものが並ぶ。
「なぁ、bee」
「なんだい」
「ここはどこなんだ!なんで、俺の知ってる駄菓子屋なんだよ」
彼女はこともなげに言った。
「ここは、君んちのパソコンなんだから当然だろ」
「は?」
「ああ、戸惑うのも無理はないさ。bugを可視化したのが、この世界さ。たのしく、コンピューターウイルスをやっつけようってね。さらに言うとこの世界をゲームに落とし込んだのが『デッドワン』だ。つまり、ここがプロトタイプってわけさ」
「プロトタイプ?」
「あぁ、そうだよ。フレイムくん。さっき尻もちをついた時に、痛みを感じただろ?」
「え、ああ」
ツインテールの彼女がにやりと笑う。
「ここでは、痛みがあるし、けがもする。当然死んだら1発アウトの超スリルなサバイバルゲームだよ。緊張感持って戦うと成長スピードが段違いさ」
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