やる覚悟

第1話

「始めることに遅いも早いもない。やるかやらないか。ただそれだけだ。」

　彼はそう話し始める。

「できない理由を探すのは簡単だ。できる方法を探すのは難しい。だから人はやらない。ならどうするか？　うだうだ考えずに取り敢えずやってみることだ」

　そう言って弦を弾く。

「俺がギターを始めたのは31の時。できない理由なら腐るほどあった。それでも俺は衝動に従ってコイツを買った。工業製品のくせにくっそ高い。約10年汗水たらして溜め込んだ貯金がゼロになった。だから『やらなきゃならねぇ』って覚悟が生まれたんだ」

　1音1音確かめるように彼は弦を弾き続けた。

「住む場所を変えた。仕事を変えた。ギターのために生きると決めて交流関係も全部変えた。そうして10年。ようやくここに立っている」

　音がピタリと止まる。

「愛すべきバカたち。ようやく会えたな」

　爆音が鳴り響いた。淡々と話していた彼が豹変したかのように叫び、唸り、動く。そこには僕が知っている以上に格好いい彼がいた。猛り狂う彼の思いが音とともにぶつかってくるようで、自然と体に熱がこもる。

「まだまだいくぞ！」

　その日が人生で一番『生』を感じた日だった。これが彼のギターを前にしたときの衝動に近いのかもしれない。ならば動き出そう。そして覚悟を持って生き始めよう。彼のように変われるその時を願って。