第7話 学校祭準備  語り神崎

本当に終わるのだろうかと考えるのも野暮なのかもしれない。

大学祭まであと1週間。完成しているのは三上先輩のみ。

ひたすらペンを持って進めるしかない。

サークルの皆んなに見てもらって、直せるところは直して、後はひたすら完成させる。

坂下先輩も珍しく(?)静かにしている。手は進んでいないようだけど。

国村くんと五十嵐さんは俺より進んでるようだけど、まだまだ大変そうに見える。

高岡さんはデジタルでサクサクと進めているように見える。

三上先輩は大学祭の作品を既に描き終え、個人用の漫画を描いてるらしい。

すごすぎる。


集中力が切れてきたかも。時間を見ると夕方6時。今日は土曜日だけど、追い込みで朝から皆んなで集まって描いている。お腹も減ってきたなあ。晩ご飯どうしよう。

「みなさんご飯どうします?」

「そういえばもう6時かあ」

「私はもう少し進めたいので.....」

高岡さんがそういうと

「僕も......」

「私も......」

国村くんと五十嵐さんが賛同した。

「じゃあ私たち帰るから里依ちゃんに鍵渡しておくね」

「お預かりします!」

「明日も9時くらい?」

「う〜ん、里依ちゃん達が早く来たかったら9時前でもいいんじゃない」

「わかりました!私は8時に来ようかなと」

「家でもやってもいいけど」

「オレは家だと集中できないから10時くらいに来ようかな」

「俺は9時で......」

「僕も......」

「私も......」

「私も明日特に用事ないし来ようかな。昼以降になりそうだけど」

解散した後、俺と三上先輩と坂下先輩で晩ご飯を食べることになった。

「どこにしようか」

「ファミレスもいいけど回転寿司もいいかなって」

「100円寿司空いてるかなあ」

通りがかりの100円寿司屋に入ると10分待ちだったので、ここで食べることになった。

「神崎くん漫画の調子どう?」

「ペン入れが結構大変だなと......なかなか上手く線が引けないというか.......」

「わかるーオレなんかいまだに慣れなくて、結局ミリペンで描いちゃう」

「慣れると気持ちの良い線が引けて楽しくなるんだけどね。私も最初はそんなんだったなあ」

「まあ、なんと言っても完成させないと」

「ペン入れまで終わったら、トーンとか背景は私と一緒にやろうか。教えながらやった方が早く終わるだろうし」

「三上さんオレは......」

「坂下くんは先輩なんだから、むしろ国村くん達をバックアップしないと」

「ううう、厳しいっす......」

「そんなことだろうと思った。1年の子は私が面倒見るから、集中して頑張ってね」

「イエッサー......」



朝9時に来ると、すでに1年組3人が作業していた。

「うぃっす」「おはよう〜」「おはようございます」「おはよう」

「よ〜し、今日もガンバルゾ!」

ひたすら無言で作業を進める4人。1時間ぐらい経って、坂下先輩が来た。

「おっはー」「ざっす!」「おはようございます」

「先輩今日早いっすね」

「いやさすがにまずいかなと思って早く来ちゃった」

午前中ひたすら5人でもくもくと作業を進めていった。


「よし」

高岡さんがどうやらひと項目終わったようだ。

「飲み物買ってきますけど、皆さん何か欲しいのあります?」

「あ、私も行きます。ちょっと外の空気も吸いたいので」

「うん、皆さんは?」

「僕緑茶のペットボトルで」

「あー

「俺は......エナジードリンク的な何かあれば。なかったらコーラで」

「了解です!」

高岡さんに小銭を渡して、男2人に進捗を聞いてみる。

「2人ともどう?」

「う~ん、とにかくひたすら描いてるって感じです」

「一緒だ」

「俺は何しろ初めて漫画描くので、ただでさえ時間かかりそうで」

「まーとにかく完成出来たらそれだけでも立派だよ。昨年描かなかったり諦めたり結局完成出来なかった人もいたし」

「そうなんすね。こえー」

「誰か有名な人が言ってたけど、完璧に作ろうとするよりまずは終わらせることが大事だっていうの、漫画描いてるといつも思うわ」

「終わらせないと......」

ひたすらペンを進めて昼1時ぐらいになったぐらいか、三上先輩が来た。

「みんなおつかれ~!」

「お疲れ様です」

「差し入れ持ってきたよー」

「マジっすか!?」

「先輩ありがとうございます」

「愛してる~!」

「大げさだなー」

みんなでおにぎりや肉まんを食べながら昼休憩。

「食べながらでいいから、皆の状況を教えてもらってもいい?」

「私はペン入れ終了して、今トーン作業中です」

「私は......ペン入れ今日中に終わることができれば......」

「僕もです」

「俺は......終わるかな.......」

「俺はなんとか今日中にペン入れ終わらせるように進めてる感じ」

「なるほど、じゃあまずは神山くんの手伝おうかな」

「え!いいんですか!」

「初めての漫画で人を描くだけでも大変だろうし、背景描かせてもらおうかな。ある程度描けたら1年の皆のトーン作業とかも手伝ったり」

「ありがとうございます!」

「三上さ~ん」

「坂下くんは余裕でしょ」

「え、そんな.......」

「そもそも坂下くんのギャグ漫画に私が手入れたらだめでしょ」

「トーンだけでも......」

「とか言ってラクしようとしてるでしょ」

「いやマジで手伝ってください、お願いします!」

「後輩くんたち優先ね」

「ふぁい......」


食べ終わったあと、三上先輩が自分のペン入れが終わった原稿にササッと背景の下書きを描き初め、

「神崎くん、ここどんな風にしようか」

「そうですね.......」

先輩にある程度漫画の世界観を伝えたところで、俺の絵柄に合わせて背景を描くという謎の技術で、みるみる形にしてくれる。俺が1ページキャラにペン入れしてる間、2ページ3ページと背景が完成していき、手掛けてる原稿の前のページまで背景が完成したあと、国村くんの原稿を手伝ったり、五十嵐さんと相談しながらトーン作業をしたり、縦横無尽で1年生組の手伝いをしており、超人としか思えない。

三上先輩のパワーに押されてか、今まで以上にペン入れの集中力が増してるように感じ、ひたすらペン入れをしていったら、気づいたら夜7時になってた。

明日はフルで講義が入っているので、もう少し残ってやりたいかも。

「もう7時だね」

「本当だ。俺もうちょっと残ります」

「俺も残ろうかな。もうちょっと進めておきたいし」

「私はある程度目がついたので帰りますね」

「私も朝早いので......ペン入れ帰ってから進めます」

「僕は集中力切れたので帰ります.......」

「よし、明日俺午後から講義無いから、部室先に開けておくわ」

「お願いね。私も講義終わったら向かうから。じゃあ一旦解散で。お疲れ様」

「お疲れさまです!」

あと少し、あと少しでキャラのペン入れが終わる。ひたすら集中して線を引く。

夜になってから集中力が増してるように感じるけど、夜型で仕事してる漫画家さんはいつもこんな感じでやっているのだろうか。夜に仕事する気持ちが少しわかった気がする。

もう1ヶ月ぐらいペン入れをしてたような。最初は線を引く練習をして、実際にペン入れ作業するとなって、緊張しながらゆっくりと線を引いて1ヶ月。ようやく終わるんだ。

「よし!」

終わった。時間を見たら夜9時になってた。

「終わった?」

「はい!キャラのペン入れ終わりました!」

「おめでとー。俺もう少しかかりそうだから先帰ってもいいよ」

「わかりました。すみませんお先失礼します!」

「おう、お疲れ」

あー終わった。漫画自体の完成はまだだけど、大きな山を一つ乗り越えて心の中の充実感が凄まじい。明日から残りスパート頑張ろう。

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