第6話 夏合宿 語り国村
「え、合宿ですか?」
「そ。8月下旬ぐらいに」
漫研に合宿なんてあるんだなとビックリしたけど、漫画の特訓でもするのだろうか。
作家の缶詰みたいに追い込み作業みたいな感じとかになるのだろうか。
「ちなみにどこに行くんですか」
「京都!」
「京都いいですねー」
「マンガミュージアムがあるし、関西ってどんな感じなのかなという興味が私と坂下くんで一致したからね。国村くんって地元関西に近いんだっけ」
「あー、でも距離はあるんで頻繁に行くことはないですね。どちらかというと大阪に行くことが多いかも」
「なるほどねー。みんな集まったら具体的な日程や宿泊先決めようか」
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合宿当日。新幹線で出発するため東京駅で待ち合わせとなった。
「お待たせー」
三上先輩がキャリーバッグを持って駆けてきた。
しかし、みんなおしゃれな服着てるな……。自分も外向き用の服買っておけばよかったかな。
「駅弁買うぞ~!」
「朝から元気っすねー」
新幹線に乗り込みみんながワイワイ話している中、朝が苦手な自分は寝てしまいそうになる。
京都で体力温存しておくということで休ませてもらおうかな……。
「あれー!国村くん寝ようとしてるー!」パシャ
高岡さんもテンション高いな。てか盗撮されたし。
「高岡さん俺らも写して~」
「はいチーズ!」パシャ
そういえば五十嵐さんはテンションについていけてるのだろうか。と思ったら、前の座席が回転し男子女子顔合わせとなった。
「せっかくだしUNOしようよ!」
「お、いいね!」
五十嵐さんの表情を見たらなんとなく楽しそうで安心した。
「国村くんどうした、ゆうちゃんに見惚れて~」
「はい?」
「なおきく~ん」
「えぇ……なんすかこのノリ」
「2人で京都デートしたかったらちゃんとセッティングしてあげるね、ゆうちゃん」
「え……いやあの……」
「ダメですよ先輩、ゆうちゃん困らせちゃ」
「そうだそうだ、五十嵐さんはみんなのアイドルだぞ」
「坂下先輩、もしかして狙ってます?」
「お、彼女持ちが煽ってくるね~このこの」
なんだこれは……怖い……。
下手に否定するとめんどくさいことになりそうだし適当にしておこう……。
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「京都~京都~」
どうやら着いたようだ。電車から出ると、天気は曇っていて湿気が高い。大きめのハンカチを持ってきておいてよかった。
「暑いね~」
「そうっすね~」
荷物をコインロッカーに預け、早めの昼ごはんを食べることにした。京都っぽい食事が食べたいなということで駅の近くにあった定食屋さんを見つけた。
「おばんざいって、お惣菜のことですかね?」
「多分ね」
迷っていると混みそうなのでここにしようかと入ることになった。男子組が日替わり定食、女子組はうどん定食で三上先輩は釜飯セットを注文した。
「京都って和食のイメージがありますけど、ラーメンもおいしいらしいですよ」
「じゃあ夜はラーメンにしようか」
「湯豆腐とか高くて食べれないですからね」
「味噌汁の味付けあっさりしてておいしいね」
「関西風てやつかな。うどんの汁も関東よりあっさりしてるし」
食事が終わり、マンガミュージアムに向かい歩くことになった。
「京都駅からまっすぐ北に進めば着くようですね」
「マップ見ると京都市内ってほんとにまっすぐな道で出来てるんすねー」
のんびりとみんなで雑談しながらひたすら歩いていると、昔の学校のような建物が見えた。
「着いたー!」
そこには芝生の広場があり、ビーズクッションに身を委ねながら漫画を読んでいる光景が広がっていた。
そのまま寝てしまっている人も少なからずおり、完全な憩いの場となっている。
「なんかこういう景色、昔の絵画で見たことあるなー。ルノアールだったかな」
マンガミュージアムというぐらいだから、絵になるような雰囲気になるように作られた空間なのかなと思いつつ建物の中に入った。
中の雰囲気は落ち着いてて時代を感じるというか、どうも昔の学校の雰囲気を再利用してミュージアムにしたらしい。
最初は6人で一緒に回っていたが、漫画のジャンルによって部屋が異なるうちにいつの間にかみんなとバラバラになった。
ゆっくりと展示物を見渡していると、手形の石膏が置かれているのを見つけた。
どうも有名な漫画家の手形が一同に置いてあるようだ。誰もが知ってる巨匠から最近売れっ子の人までずらっと並んでいる。
1つ1つ見ていると、五十嵐さんも手形を見ているところだった。
「あ、どうも」
「どうも……」
手形をじっと凝視してるように見ていて誰なのかなと名前を見てみたら、少年マンガで数々のベストセラー・ロングセラーを生み出した女性漫画家の巨匠だった。
「私、先生のマンガを小学校の時に見てから、今でもよく見返すんです……」
五十嵐さんが自分から語りかけている……初めての体験だ。
「今でも週刊誌でバリバリ連載してるから本当にすごいよね」
「ええ、漫画家以上に人間としての力強さを感じます……手形見てみたら結構力強い手に見えますね……」
確かに他の漫画家の先生を見渡すと細い手の人も見かけるが、この先生の手は力仕事をしていそうながっしりした手形だ。
マンガの個性は作品だけでなく、手そのものにも現れて出てくるんだろうか。
五十嵐さんはまだまだ手形をじっくり見ていたいようなので、じゃあと声をかけて他のブースを回ることにした。
ある程度館内を見回ったところで、次は南禅寺に向かうことになった。
このまま東側にまっすぐ進めば着くと言うことで、歩いて行くことになった。
「マンガミュージアム、美術館というより憩いの場って感じで楽しかったねー」
「そうですねー、みんな広場でのんびりと漫画読んでましたし」
「しっかし、京都歩道デカすぎじゃね?自転車どころか車1台通れるし」
「本当ですねー。整備がしっかりしてるといいますか」
東に進んでいくうちに景色が緑豊かになってきた。
「もうそろそろだね。なんか高い湯豆腐屋さんばっかりあるね」
「本当だー。そういえば、晩ご飯どうしましょう」
「なんか泊まるところの近くに美味しいラーメン屋さんあるらしいし、そこでいいかも」
「京都ラーメンいいっすねー」
南禅寺の入り口に入ると広い通路が現れ、観光客が次々と写真を撮っていた。
外国人観光客で等身大のキャラ人形と一緒に写真を撮っているグループがいて、景色とのアンバランスが絶妙に感じた。
やたら大きい建物(三門と言うらしい)は入れるようなので、入場料を払って急な階段を登った。
展望スペースについた。京都市内の様子がよく見えて、涼しい風が入り居心地がとても良い。
「いやー絶景ですねー!」
「石川五右衛門も同じこと言ってたようだよ」
三門を降りてさらに中に入ると、古いレンガの建物が見えた。
「お寺の庭に洋風なものが出てきたよ。水路だって」
「へー。雰囲気があっていいね」
いかにもレトロな感じが風情があってかっこいい。
さっきの人形を持った外国人が通りかかって、写真をお願いされたので撮ると、こっちも撮ってくれるようなので、6人全員集合で水路の写真を撮ってもらった。
「ありがとうございます」
「コチラコソ!アザース!」
意外な返答にちょっと笑ってしまった。
泊まりのゲストハウスに向かうと、外国人と自分達と同じような学生が多くいるようだった。重い荷物を置いて皆で近くの京都ラーメン屋へ向かい、帰りに近くの銭湯に寄った。
「京都だけどやたら海外の人が多くて、日本ぽくない感じが面白いよな?」
坂下先輩が髪を洗いながら話しかけた。
「確かに異世界って感じですよね」
「日本古来の建物って日本人より面白く感じるでしょうし、俺も色々イメージが湧いてきますね」
「漫画のネタとして?」
「そうっす!とは言っても形にするのはまだまだっすけどね」
「俺も形にしてかないとなあ、学校祭近づいてきたし。国村くんはどんな感じ?」
「うーん、色々考えてますけどまだ悩んでますね」
学校祭は10月下旬だからあと2ヶ月ちょっとか。東京に戻ったら進めないとなあ。
「さかしたくーん。朝食の時間何時から何時だっけー?」
女湯の方から三上先輩の声が聞こえた。
「7時から9時!」
「ありがとー」
銭湯って上の空間が男湯と女湯空いてるんだな。知らなかった。
「ゆうちゃん背中洗ってあげるよ」
「え!?いや悪いですよ……」
「いいからいいから」
五十嵐さんと高岡さんの声も聞こえた。
「あ~俺が女だったら三上さんと背中洗いごっこ出来たのかなあ」
坂下先輩が小声で呟いたけど返答に困る。
「背中洗うだけでいいんですか?」
「どうした武志くん!?」
「五十嵐さんと高岡さんも」
こっちに話を振られそうで恐怖を感じたので、逃げるように風呂場のほうに向かった。三十六計逃げるに如かず。
朝。朝食は軽いバイキングのようなものが出るようなので、男三人でバイキングスペースに向かった。
「おはよ~」
三上先輩だ。女子三人組は先に食べてたらしい。
自分たち以外皆外国人なので、海外に旅行したのかと勘違いしてしまいそう。
バイキングも洋食オンリーで、パンやスクランブルエッグ・ウィンナー・スパゲティ・サラダ・ジュースなど置いてある。
「帰りの新幹線12時だから市場でお土産見たり食べ歩きしてたらいい時間になるかな」
「ぶらぶらしてたらいつの間にか時間過ぎてるでしょうしね」
食事が終わった後ゲストハウスを旅立ち、市場の方へ向かった。
「かき氷が食べたい!」
「私も!」
「俺も!」
朝からジメジメした暑さがあるからか、あれよあれよと流されるままにかき氷屋に入ることに。
「は~い、おまっとさんね~」
出されたかき氷はどれもトッピングが山盛りに積まれて、食べ応えありまくりだ。
自分はそこまで食欲がなかったので、抹茶アイスにしたけど。
「いたふぁきまーす」
「坂下先輩がっつきますねー」
みんなむしゃむしゃと食っていて豪快だなあ。ひとり丁寧に食べてる五十嵐さんがものすごい上品に見える。
「国村くん、ゆうちゃんのかき氷欲しいの?」
「え、いやアイスで十分ですよ」
「食べます?」
「いや本当に大丈夫です。ごめんなさい気を使わせて」
「じゃあ俺食べていい?」
「だめ」
「なんで三上さんが否定するの……」
「だめです」
「高岡さんまで……みんなかき氷のように冷たいなあ……」
全員食べ終わった後、市場に向かい物色タイム。
自分はお茶の葉っぱと漬物の盛り合わせを購入。
「国村くん渋いね~」
「京都っぽいかなあと。神崎くんの卵焼きもふんわりしていて美味しそう」
「へへへ。厚揚げとかも買っちゃおうかな」
女性陣は和菓子やら扇子やらなんやらいっぱい買ってるぽい。坂下先輩は……
「日本酒ですか!」
「なんとなくね。みんなにも呑んでもらおうかな」
「冒険しますね~」
それぞれ購入し終わったところで駅へ。駅弁と飲み物買って、無事新幹線に乗車。
「いやー楽しかったですねー」
「ほんとにねー」
「みんな大富豪しようぜ!」
「坂下先輩元気っすね~」
「ルールどうします?革命あり?」
「革命ありだけのシンプルルールにしましょうか。ゆうちゃんカード混ぜてくれる?」
「は、はい!」
こうして無事京都合宿、というか京都旅行は終わり。皆さんお疲れさまでした。
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