第2話 アキバ体験 語り五十嵐
「デジタル触ったことあるのは、里依ちゃんだけかあ」
三上先輩が1年生達の作画環境を聞き、こう呟いた。
「中学生の頃は画材屋でペンやトーン買ったりしてやってました。高校でPCとペンタブ使い始めましたけど」
凄い高岡さん。なんか本格的だ。私の周りは田舎すぎてそもそも画材屋さんらしきものはなかったし。
「アナログはアナログで面白いんだけど、漫画を本格的に描きたいならデジタルに慣れてた方がいいと思うんだよねえ。簡単に試行錯誤出来る方が気分的にも楽だろうし」
「僕もデジタルに興味があるんですけど、あまり知識がなくて……板タブとかカキスタとか用語だけは知ってるんですが」
そういえば国村くん、私と同じ、高校ではノート殴り書きでって言ってたな。
「ふむふむ……みんなパソコン持ってる?」
国村君と高岡さんが手を挙げた。
「ゆうちゃんと神崎君は買わないの?」
「いや買おうかな~とは思ってるんっすけど、イマイチわからなくて……」
「私も……」
「よし!じゃあデジタル機器と2人のパソコン探しの旅に出るか!」
「え、どこに行くんですか?」
「アキバハラ!」
サブカルの街アキバハラ。
興味はあったけど田舎から上京してきたばかりの自分が1人で行くには億劫だったので、ラッキーといえばラッキーだった。
「俺アキバハラ行きたかったんすよね~。やっぱメイドさんとかそこら中にいる感じなんすか?」
「チラシはよく配ってるね~。メイド喫茶とか興味ある感じ?」
「1回は行ってみたいっすけどね~」
「入場料とかいるんでしたっけ」
「そうそう。大体1時間500円か600円ぐらいかなあ~」
駅に降り立つと自分と同じような学生や日本旅行に来てるっぽい外国人、仕事帰り風のサラリーマンがうじゃうじゃといた。
「まずはヤツバシカメラに行こうか」
ヤツバシカメラに入りペンタブコーナーに向かうと、大・中・小と様々なサイズのペンタブが置いてあり
「よし、みんな空いてるペン持ってパソコン見ながら板をなぞってみて」
先輩に言われた通り黒い板に丸くなぞると、画面に黒い線が現れた。
「お~」
「じゃあ試しにキャラの顔を描いてみようか」
正直人前で絵を描くのは気恥ずかしいのだが、そんなことも言ってられない。
昔からお気に入りのキャラを描いてみたが、なかなか上手く描けない。
「最初薄い色のペンで下書きしてから濃いペンでなぞるといいよ」
試しにやってみたら、確かにさっきよりはマシに描けたかも。
「デジタルには色々な便利な機能があるんだけど、それはまた今度教えるね。今日は描き心地がわかれば十分だから」
慣れれば上手く描けるようになるのかなあ。みんなの方を見てみると、高岡さんが大きい画面に直接キャラ絵を描いていた。
めっちゃ絵うまい……。
「どう液タブ?」
「楽ですね~板タブだとどうしても線引く時にやり直しが何回かありますし。だが高い……」
「ナコム製のはどうしても値が張るからねえ。ネットでは他の安いのもあるからそっちを買う手もあるけど」
「そうですね、お金貯まったら考えてみます」
値段を見たら、小さいのが8万、大きいのが20万でひえ~。液タブって結構値段するんだ……。
「最近だとPCでも直接ペンで画面に描けるものがあるけどね。せっかくだからそれも触っていこうか」
「みんなアキバ初めてだよね。せっかく来たんだし、電気屋だけでなくアニメショップも回ってみようか」
地元のアニメショップは駅前の1店舗だけのこじんまりとした感じだったけど、さすがアキバハラはビル立地で広告がド派手だ。
声優さん?らしき女の人の新作CDを店頭販売してて、人だかりが出来てる。
「ここが、ねこのあな。あっちが男性館でこっちが女性館だから、30分後ここで待ち合わせしようっか」
性別で建物が分かれてるのか。国村君と神崎君と別れ、三上先輩と高岡さんと一緒に女性館に入った。
アニメアイドルキャラの歌が店に流れてて、コンテンツや男性声優さんの特別コーナーがそこら中に陳列されている。
「里依ちゃんは家埼玉だっけ?アキバには来る?」
「あんまり行かないですね~ショップならブクロの方が近いですし。地方のネット友達が遊びに来た時ぐらいですかね」
「私もブクロの方が多いかなあ。ゆうちゃんはこういうお店初めて?」
「じ、地元にこじんまりとしたのはありましたけど……桁違いですね……」
「ふふふ、じゃあ上の階にいこうか」
2階は音楽・映像フロア、3階は本・ゲームエリア、4階は……
「ここから上は同人フロアだね」
4階の同人フロアは、ビニールに保護されてる冊子類が埋め尽くされている。
女の人達が皆本を吟味していて、商業エリアとは異なった空気感を醸し出してた。
「ここにある同人誌は基本二次創作ものが多いけど、オリジナルものはこっちだったかな」
三上先輩についていくと、端っこの方にオリジナルブースという形で同人誌が置いてあった。
キャラものの漫画本やイラスト本だけでなく、技術本や考察本みたいなのもある。
「1年のみんなはまず10月の学校祭用の漫画を描いてもらおうかなと思うんだけど」
三上先輩は私を見てニカッと笑いながら
「どうしてもデジタルに慣れなかったら、鉛筆で殴り描きでもいいから作ってみようか。この人の本とか鉛筆オンリーの漫画だけど、すごい熱気を感じて私好きなんだよね」
手に取ってみると、確かに他の同人誌に比べて線は荒い。でも迫力があって惹きつけられる魅力があった。
「質に拘るのもいいけど、まずは完成させないとね。完成させるだけでも十分立派だから」
そう語る先輩は、いつもの様子とどこか違ったように感じた。
「2人ともお待たせ~!」
待ち合わせ場所にいた男子組がそれぞれ紙袋を持っていた。
「いや~こういう店初めてだったんで楽しかったすよ!」
「そっか~、お?なんか買ったんだ!」
「桃色100%の新刊があったんすけど、店限定の特典があって買っちゃえ!と」
「そうそう!こういう店って限定の特典がついてるからそれ目当てで買う人が多いんだよねえ。同人誌は買った?」
「失われた巨人のやつが結構沢山あったんで見てみたんですけど、見てるだけでお腹いっぱいで……」
「ふ~ん、エッチなもの見たから?」
「そ、そういう意味じゃないです!」
「あははは、ごめんね。あ、まだご飯食べてないしライゼリア寄っていこうか」
ライゼリアでご飯を食べた後、電車に乗ってそれぞれ解散となり、最後に三上先輩と私が残った。
「描き心地はどれが良かった?」
「直接描けるパソコンのですかね……」
「サーフィスプロね。ネットで前の型番のがキーボードとペン付きで10万ぐらいで買えたと思うなあ。絵以外でも書類作成や講義のノート用としても使えるから、便利だし。メッセージでいい感じのリンク先送っとくね」
「すみません色々と……」
「いえいえ。中のソフトとかは無料のやつでも使いやすいのあるし、少しずつ頑張っていこうね」
「はい」
先輩の存在が頼もしすぎてもはや女神様みたいになってきた。
「じゃあまた来週!」
「はい、お疲れ様でした」
電車を降りた先輩が手を振ってお別れとなった。
よ~し、がんばるぞ~。不安でいっぱいの大学生活からおさらば出来そうだ。
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