人工子宮が普及し、多くの女性が生後すぐに子宮を切除するのが当たり前になった世界の、とある高校の少女ふたりの物語。
SFであり青春ものの短編です。思春期年代に特有の感覚、自分の認識の殻を打ち破らんともがく、その息苦しさや焦燥感のようなものがメリメリ胸を締め付けてくる作品。
それはどうしたって身近な大人への反発という形で現れるもので、きっとはたから見たなら「幼い子供の身勝手」とも受け取ってしまえるであろうそれを、きっちり〝わかる〟形で読ませてくれるところが素敵でした。SF部分に絡む常識感覚を軸に据えることで、手癖で良し悪し(共感・非共感)を判断できなくしてくれるこの手際!
主人公であるふたりの少女の、抱えた悩みや苦しみのようなものが好きです。
現実の世界の我々には(少なくともこの形では)持ち得ない、この作品世界であればこその苦悩。
生殖絡みの大変なあれこれから解放され、でも個々人の(当人でなく保護者の、ではあるものの)自由な判断によりあえて残すこともできる——つまりは「単純に生きやすくなったし、ただ選択肢が増えただけ〝のはず〟」の世界に、でもはっきり生じている深い苦しみ。
皮肉にも、なんて言い方ではニュアンスが違うのですけれど、しかしどこまで行っても人の所作であることから逃げない(逃れられない)、この物語のあり方そのものが本当に、重く苦しく気持ちいいです。
個人的にはほのかなディストピア要素も好きです。「親」の役回りを担う存在が、結局最後までどこにも見えなかったところ。ものすごくハッピーな終わり方をしているように見えて、だからこそ背筋が凍るのが楽しい作品でした。
登場人物たちの内面の描写が芸術的ですごく好きでした。
また、親しい間柄でも、バッチリわかり合っているわけでなく、不快さを覚えたりするところが素敵に思います。
この作品は「性」について描かれたSFなんですが、現代社会の中で持たれている「性」への認識を見事に表現されています。
すごく納得できるし、描いて欲しかったことが、いくつもありました。
詰め込んであるというよりは、簡潔に書かれていて、読みやすいです。
LGBTsなど最近話題に上がりがちな「性」ですが、興味のある人にもない人にも読んで欲しい作品です。
そして、出来ることなら「性」について、じっくり考えて欲しいと思います。
『淫紋』という言葉に目を引かれますが、文面以上に考えなければいけない話題なのかなと、思わせられます。色々なことを簡単に分かった気になりたくない。悩みや葛藤や思春期の青さが、この『淫紋』には込められているのだと思います。
お話ではふたりの女子高生がメインとなって繰り広げられますが、決して女性だけの話ではないと思います。男性は「ない」し「わからない」からこそ、知ろうとすることが大切なのだと感じさせられます。
当たり前のことを切り取って、改めて人間らしさを見つめ直す。
SFらしいSF作品であると思います。
ぜひ読んで、自分なりに考えることをお勧めします。