第6話「姫蜘蛛」
「――今回君が相手する敵の首魁アラクネロードはオスを見つけると六本生えている脚で相手の体をガッシリ掴んでその身を食い千切りながら交尾する残虐非道な淫乱怪物だ、君も【性近戦】が得意ならくれぐれも気を付けた方がいい」
「ちょ!? その話聞いて気が変わりました!嫌です!!そんなヤツとぜっっっっっったい戦いません!!!」
――遡る事数十分前、作戦決行前日の早朝未明にボクは始まりの町奪還作戦の最終打ち合わせに参加する運びとなっていた。
「――それで今回の作戦で一番厄介になるのは敵の首魁、蜘蛛の魔物アラクネロードだ残忍な性格で戦闘能力自体も私と張るくらいの力を持っている」
会議に参加していたのは革命軍団長ユウカさん、副団長カレンさんを始めとして団長直属のメイド部隊と革命軍上層部のハイエルフに救い出された転生者。
これらの代表がそれぞれ数名程度、卓について顔を合わせている。
「――今回の作戦、敵兵力は約1500こちらは500、しかし敵の大多数はゴブリンで構成されており質の上では我が軍が圧倒しており戦術的な勝利は確実であると思われます――」
ハイエルフの代表が作戦概要をつらつらと述べていく。
「ゴブリンの相手は我らエルフ部隊が引き受けます、捕まっている村民や転生者の解放は地理に詳しい転生者部隊がその他支援活動をメイド部隊が行うのを基本といたします」
この説明に異議を唱える者は無く、会議は順調に進んでいく。
「そして今作戦の最大の障害となるアラクネロードに関してですが……団長殿」
エルフの言葉に続くようにユウカさんは声を発した。
「今回のアラクネロード討伐はここにいる助っ人、転生者御剣ヒロに任せたいと思う」
「おおう、それは大変な役目ですね」
「すまんな、私を除いてヤツに勝てる見込みのある者はお前しかおらん」
ぽっと出の部外者であるボクは密告を行う可能性が否定しきれないとする革命軍上層部による判断で作戦内容が直前まで秘密にされていたというのもあるがいきなりの大役抜擢に少し驚いた。
「ちょっと驚きましたね、なんでボクがアラクネロードの相手を? 確かに今まではアラクネロードだけではなく副官の黒騎士がいた為手が出せなかったてのは納得できますけど」
「何が言いたい?」
ボクは決して革命軍を疑っているわけではないが疑問に思った事を聞いておかないとスッキリしないタチなのだ。
「副官黒騎士がいない今、アラクネロードを倒すのはボクである必要は無い筈です、それこそ同程度の実力のあるというユウカさんが使える仲間を引き連れ敵と対峙するという選択肢も十分に考えられると思うのです」
その質問に痛い所を付かれたとバツが悪い表情を浮かべるユウカさんは観念したかのように返答した。
「そのすまん私はな蜘蛛アレルギーなんだ……アレを見ると腰が抜けて戦いどころでは無くなってしまう……それが私達が今まで始まりの村奪還を行えなかった最大の障壁の一つなのだ」
「ええ……」
なるほどそれはボクがアラクネロードと戦わざるを得ないって訳か……しかしこの世界の魔王もなかなかの策士だな。
新規の転生者への妨害、そしてそれに抵抗してくる革命軍団長の弱点であるアラクネロードの配置、まるで"最初からこうなる"事を知っていたかのような用意周到さだ。
「はぁ……そういう事ならしょうがない僕がやりますよ」
「おお!そうかありがとう、それでは敵の注意する所を教えよう――」
――そして、ボクが駄々をこねる所に繋がる。
「――嫌です! 絶対嫌ですからね!」
「勿論そう言うと思ったから、作戦内容は秘密にしておいた……てへっ!」
「てへっ、じゃないですよ唐突に何キャラ変しようとしているんですか!そんな可愛い仕草しても騙されませんよ!」
今回ばかりは相手が悪すぎる。
ボクの武器である槍【ロンギヌス】とでも仮称しておこうか、攻撃力は申し分ないがこの槍の射程は最大でもたかだか2メートル対するアラクネロードの体高は3メートルを優に超え、相手を絡め捕る遠距離攻撃の糸を使えるらしい。
仮に【性近戦】に持ち込めたとしても肉体を食い千切られる死への恐怖でロンギヌスが委縮してしまえば頼みの攻撃力でさえ目も当てられない事となる。
「……しょうがない、では団長、プランBを実行しましょう」
「うむ、仕方あるまい」
ボクの拒絶により会議が行き詰まり停滞。
その状況に業を煮やしたエルフ部隊の代表がユウカさんに別の作戦を進言する。
良かった!どうやらボクの意見は受け入れられて――
「――御剣ヒロの敵陣強制転移を許可する」
「は? はあああああああああああ!!??」
ユウカさんの一言を合図にボクの視界は暗くなりどこかへ引っ張られる様な感覚だけが体に与えられる――。
「我らも後れを取るな、すぐに転移して敵陣へ乗り込むぞ」
「ははッ!!!」
ボクが強制転移されたのちユウカさんの激励に鼓舞された革命軍兵士達も続々とアジトから敵地への転移を開始していく。
「ここは?」
時間にして数秒だっただろうか? 視力を取り戻したボクが立っていたのは中世ファンタジー世界ではあまり見かけない畳張りの広間。
ここは現実世界かと一瞬思ったのだが広間正面の上座に陣取る異形によりその考えは打ち砕かれる事となる。
「おや、こんな時間に妾の遊び相手が来るとはのう……どれちこうよれ」
雅な言葉遣い、長い髪を彩る派手な髪飾りに着崩した着物が妖艶な色気を感じさせる半身人間で半身蜘蛛の魔物。
間違いない、こいつがアラクネロード。
「くっ」
恥ずかしいなんて考えていられない。
革命軍特注のいつでも【抜ける】ボク専用ズボンのジッパーにすばやく手をかける。
「恥ずかしがっておるのかえ? それとも腰が抜けたのか、まぁよいならば妾が引っ張ってやろう」
アラクネロードは誘惑的な笑みを浮かべそう言い放つとこちらに向かい蜘蛛の糸を勢い良く噴射する。
「はぁぁ!」
ボロン! ヒュン! スパンッ!
ボクはその攻撃を躱し、半起動のロンギヌスで糸を切断する。
しょうがないなぁ全く、ここまで来たら戦うしかないか――。
ボクはロンギヌスを構えアラクネロードに見栄を切る。
「ほう、どうやらお主はいつもの餌ではないようじゃな」
「ボクはお前の餌なんかじゃない……ボクはお前を倒しに来たッ!!」
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