第5話「革命軍」

 「着いたわよ」

  

 カレンさんは森を分け隔てたような断崖に位置する巨大な洞穴を指差しそう告げた。

 

 「こんな所がアジトなんですか?」

 「まぁね、周辺には至る所に結界術式が張り巡らされていて革命軍の関係者じゃないとここまでたどり着けないようになっているのよ」


 なるほど、特に偽装されている形跡もない巨大な洞穴がアジトとして機能しているのはそういう訳か。

 

 「この森は古くから【エルフの住まう迷いの森】って呼ばれていて近寄るのを忌避されている場所なのも革命軍が身を隠すにはうってつけって訳なのよ……まぁ団長のアイデアなんだけどね」

 「団長さんはかなり頭の切れる人なんですね」

 「ええ、まぁそれなりに、そうじゃなきゃ私達はとっくにこの世界の闇に飲まれているわ」


 そんな話をしている内に洞穴の入口に辿り着く。

 断崖には巧妙に偽装された階段が至る所に整備されており、そこを利用すれば比較的楽な道のりで入口までたどり着く事が出来た。


 「私よ、誰かいない?」


 カレンさんは人の気配を一切感じない暗がりに向かい問いかけると洞穴の奥からコツンコツンと誰かが近づいてくる足音が響く。

 しばらく待っていると、気弱そうなエルフの女性がこちらに顔を出してきた。


 「……副団長さん、お戻りになられましたか、そちらの少女……いや、少年はどちら様で?」

 「偵察ついでに拾ったのそれでモブィ、団長は今どこに? 話がしたいわ、この子の事についてもね」


 モビィと呼ばれたエルフの女性はその問いに「団長室におられます」と短く返答する。

 これにカレンさんは「分かった」と告げ洞穴の奥へと歩を進めていきボクも付き添う様に後を追う。

 

 

 「副団長さん御無事で何よりです」

 「ええ、ありがとうね」


 「――副団長殿、今後の食料確保ルートについてなのですが」

 「今は急ぎでね、その事については後で話しましょうか」


 洞穴の内部は小さな町と言っても過言ではない程に整備されており、カレンさんは通りがかりの部下と思われるエルフ達から次々に話しかけられるのを軽くいなし、洞穴の最奥に位置する一際大きな建物へと歩を進める。

 

 西洋の神殿を思わせる建物の前にはさっきまで見かけたエルフ達とは雰囲気の異なるメイド服を着飾った可憐な女性がこちらが出向くのを知っていたかのように建物の入り口で待ち構えていた。

 

 「お帰りなさいませ副団長様、早速ですが奥で団長様が御待ちです」

 「ふふ相変わらず話が伝わるのが早いわね」


 メイドの誘導に従い、建物内部の大きな扉の前にボクとカレンさんは立たされる


 「団長様――」

 「おう入ってこーい」


 その声と同時に扉がひとりでに開き再びボク達は歩きだす。

 大きな広間には一本の道を作るようにメイド達が整然と並んでおりボク達を出迎える。

 

 「よう、カレン偵察ご苦労だったな」


 広間の奥の椅子に腰かけている人物がカレンさんに声をかけた。

 エルフ特有の整った顔立ちに長い耳しかし彼女は他のエルフとは違い、浅黒い肌と鈍く輝く紅の瞳を持つダークエルフであった。


 「ええ貴方が働いてない分私が働いているのよユウカ」

 「ははは相変わらずカレンは厳しいなこう見えても私は忙しいんだけどな……よいしょっと」


 ユウカと呼ばれた彼女は椅子から勢いよく飛び上がり、ボク達の目の前に着地する。

 彼女の着ている衣装はかなりきわどくて胸元もゆるゆるなのが非常に官能的で思わず目を逸らしてしまう。


 羽織っていたマント越しにボクのジョイスティックが少しだけエンジョイしかけていたのをあわてて手で覆い隠す。


 「……ふむ、この子が黒騎士をね、森の知らせを聞いた時は奴らも歳だしボケてんじゃないかと思ったがどうやら本当に立派なモノを持っているようだな」

 

 意味深な発言をした彼女はわざとらしく前屈みになり、ボクに手を伸ばす。


 「私は革命軍の団長マタユール・ユウカだユウカでいい」


 ボクはもじもじしながら手を伸ばしめちゃくちゃカッコ悪い感じでユウカさんと握手を交わす。



 

 

 「それで革命軍の目的はカレンに聞いたのかな?」

 「ええまぁ簡単には」


 ユウカさんとの挨拶を済ませ、ボク達は広間から洞穴内部を見渡せるバルコニーに会話の場所を移した。


 「しかし面白い所だろここは、助け出した人間の話を聞く限りこの世界では自分達の常識が通用しないとの事だが」

 「そうですね面白いと思うかどうかは分かりませんが……後々厄介になる転生者達の冒険スタート地点が魔王軍に占領されているなんて、ゲームならその時点で詰んでます」


 メイドに差し出された紅茶をズズッと飲み、ボクは率直な感想を告げる。

 

 「ああ、だからこそ始まりの町を取り返す、これが私達革命軍が……いや全土にいるレジスタンス達が魔王に対抗するためには必要な事なのさ」

 「もしかして、その戦いにボクを加えるつもりなんですか?」

 「ああ、そのつもりだ」

 

 ユウカさんはその問いに今まで見た事の無い神妙な顔つきで返答する。


 「ちょっとユウカ!!」


 この回答に対しカレンさんは慌てて異議を唱えようとするが、ユウカさんは手を上げそれを制する。


 「私は彼と黒騎士との性こ……ゲフンゲフン、立ち合いの行方を森から告げられた、私達の目的には彼は必要な存在だ、それに御剣ヒロくん賢い君なら分かるだろう?」

 「誰かが戦わないといずれこの世界は滅びる……のでしょう?」


 ボクはこの世界に転生する前のナビゲーターとの会話をそして使命を思い出していた。


 「そゆこと、敵の副官黒騎士が敗れた今が好機、作戦開始は三日後とする、私の話は以上だ」

 

 ユウカさんは傍に立っていたメイドにさっきの内容を伝達するように命令しバルコニーを離れていった。

 あまり乗り気ではない様子のカレンさんはしょうがなしにボクの部屋を手配するからしばらくそこで待っていてと告げその場を後にした。


 始まりの町の解放。

 

 その言葉の響きにボクは不安や恐怖よりもワクワクが止まらなかった。

 社会の底辺で部屋の隅で閉じこもっていた世界では絶対に経験できない事なのだから。


 

 

 

 

 

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