第4話 出会い
「――ふぅ取り敢えずこれでよし、っと」
ボクは激闘の勝利の余韻に浸る間もなく気絶していた彼女を木陰まで担いでいき、元の装備に着替えさせる。
敵だとはいえ街道のど真ん中に全裸の女性を放置していくのは流石に気が引けたからだ。
「さてとここなら目が覚めるまでは誰にも見つからないだろう……それよりもここからが問題だな」
そう、彼女の事はそこまで気にしなくていい問題はボクだ。
何故ならばボクはさっきの戦闘でアリシアに衣服を細切れにされたせいで着替えは無く未だに生まれたままの姿になっている。
この格好で助けを求めた所で……うん、考えるのをやめよう。
「とはいえこのままこの場所で何もせず過ごすのは得策じゃないな、アリシアがいつ目を覚ますかも分からないしね」
取り敢えずこの街道をまっすぐ進めば人のいる場所にはたどり着くだろう。
そこでどうにかしてボロキレ一枚でも手に入れば変質者の称号は無くなる。
「そうと決まれば早速出発しよう、とその前に」
空を仰ぎ太陽の位置を確認する。
「夜になるまではまだ少し余裕はあるな」
ファンタジー世界の鉄則に夜は危険というものがある。
それ故できれば夜になる前に安全な人間の生活圏に辿り着きたい……が今のボクにはその前にどこかで衣服を盗み出す一仕事がいる。
そしてその作業を白昼堂々実行に移すのはリスクが高すぎるのが悩ましい所だ。
「最悪全裸の盗人として牢に入れられる事も覚悟しなければ」
そんな事を考えつつ街道沿いに広がる木々の間をコソコソと隠れながら移動する事、数時間。
森を抜け辺りには開けた草原とその奥には大きな城壁に囲まれた町の景色が眼前に広がる。
「これはまずい……予想以上に大きな町に辿り着いちゃったぞ」
正直小さな集落程度なら忍び込むのは容易い。
しかしあの町は出入り口らしき場所は分厚い扉に固く閉ざされ武装した門番によって厳重に守られているのが見える。
あれでは近づく事さえ無謀と言える。
「クソ! 異世界では服を着る事すらこんなに難しいのか!!」
再び敵に会うリスクを負って街道の反対方向へ進むのは危険すぎる。
かといってあの厳重な警備の町に侵入するのは骨が折れそうだ。
「畜生こんな事考えている内にも日が傾きかけている!どうする!」
半ば自暴自棄になりかけたその時、ボクは背後に何者かの気配を感じる。
「誰だっ!」
まさかアリシア!? ヤツが追ってきたのか?
ボクは街道をまっすぐ歩いていただけに過ぎないからヤツが目を覚まし痕跡を追ってきた可能性は十分に考えられる。
「――ふむ、大した感覚の持ち主だ、あの町から逃げ出してきただけの事はある」
「え? あの町?」
声の主はアリシアではなかった、それに逃げ出してきたとは一体どういう事だ?
「ぐっ」
ボクは急いで槍を構える。
槍は現在ヘナヘナで萎れている状態、とても戦闘に耐えられるとは思えないが無いよりはマシだろう。
「おっと失礼、武器を下げてはくれないか?、申し遅れた私は革命軍副団長カレン・ジヴリールという者だ安心しろ、私は君を助けに来た」
カレンと名乗った女性はボクの視界の外にあった木の背後から姿を現しゆっくりと近づいてきた。
金髪蒼眼整った顔立ちにとんがり耳、ついでにパツンパツンな胸……間違いない彼女はエルフだ。
しかしエルフに出会った事に感動する前に彼女が本当にボクの味方なのか疑問を解決する方が先である。
「あ……あなたは一体? ボクを助けに? それはどういう事なんですか?」
「ああそれについての説明はあとで話す、取り敢えずここは危険だ急いで退避しよう……あと、そうだ……私のマントをやる!これでも羽織ったらどうだ? 流石にその恰好はまずかろう……」
そう言うと彼女は自身の着ていたマントをボクに投げ渡した。
「あっありがとう!」
ようやく着る物を獲得出来たボクは一先ず悪い人(ビッ〇)では無さそうな彼女に付いて行く事にした。
彼女はこの森に深く精通しているようで街道から大きく離れた整備されていない道なき道を一切の迷いもなく突き進んでいく。
しばらくの間彼女の後を歩き続けた後、道中に現れた澄んだ水が流れる小川で小休憩を取る事となった。
焚火を囲みボク達はお互いがあの場で出くわすまでの経緯を共に話し合う。
「――それでは君は【始まりの間】ではなくこの森から直接この世界にやってきたと?」
「そういう事になりますね」
興味深げにボクの話に耳を向けるカレンさん。
「さっきも話したが通常君達のような異世界人は始まりの町にある始まりの間に転生される、いや魔族が占領した今となっては生贄の間とでも言うべきか……そこで転生した瞬間に捕らえられ女は強制労働者に男は慰み者にされているのが現状だ……時空のズレが起こったのかいずれにしろ君は運が良かったな」
「……本当に酷い話ですね、それ」
どうやら彼女達、革命軍とやらの目的は始まりの町で奴隷となっている異世界人の救出と町の解放であるようでボクは逃げ延びた奴隷の一人であると思われていたらしい。
「しかしあの黒騎士を撃退するとは本当に面白い少年だな君は、新月の闇と恐れられた彼女はあの町の占領軍の副長だぞ……残念だが私では勝てなかった相手だ」
「あのビッ〇ってやっぱりそんなに強い敵だったんだ……」
ボクがそう言うと何故かカレンさんは頬を赤らめ「あぁ……初めてだったのに……あんなに激しく」とポツリと呟いた。
(あいつ両刀だったのか……)
確かに純潔を重んじるエルフとクソビッ〇の対決の勝敗は目に見えているか……変な事聞いちゃったかな。
「コホン……そんな事はどうでもよい! 話はアジトに着いてゆっくりとする事にしよう、さぁ行くぞ!」
「それでヤツはどう激しかったんですか?」
「……うっ、うるさいッ!!!」
凛々しくて気品があり大人の色気が漂うカレンさんが頬を赤らめうろたえているギャップがすごく可愛いなと思いながら、ボクは再び彼女の後を追いかけ革命軍のアジトを目指していくのであった。
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