第2話「覚醒」

 「……ここはどこ?」

 

 本日(?)二度目の目覚めは見知らぬ街道であった。

 街道沿いには手入れの行き届いていない木々が生い茂り、辺りは薄暗くて少し気味の悪い印象を受ける。


 「あのナビゲーターとかいう人はどうやらただのホラ吹きって訳でもないのかもね」


 気が付いたら知らない景色が広がっているのは眠らされている間に連れ去られたと考える事は出来る。

 しかしだ"ボクの体がいきなり小さくなっている"こんな事が出来るのは彼女が超常的な存在……あるいは名探偵と敵対する組織くらいのものだろう。


 もちろん後者はない。

 何故ならボクの前世は探偵じゃないからだ。


 「それよりまずはこの気味の悪い街道を抜けよう、ここが本当に異世界なら魔物が出てくる雰囲気満々だしね」


 そう言って歩みを進めようとしたその時――。


 「あ!」


 ――ボクの目の前に突然ゆるキャラみたいな可愛らしいお顔をした青い半透明のモンスターが現れた!!


 …………なのはいいんだけど。

 どうして体は格闘漫画に出てきそうな筋骨隆々のバッキバキなんだよ!!!!!!


 「気持ち悪ッ!!!!」


 異世界初遭遇のモンスターがガチムチスライムとか最悪だよ……。

 あまりの衝撃のビジュアルに恐怖とかそういうもの全部飛んでいった件。


 しかもそのガチムチスライムはボクとの距離を天地上下の構えを取ったままじりじりと詰めてきてるし、達人か何かかな?

 

 「いや、待てよ? 確かボクには最強能力と最強装備が備わっているはず……なのに」


 そう確か転生前にそういう話をしたはず……なのだが今のボクは布の服に武器一つ持ってないし何かの能力が発動する予兆すら感じない。

 

 ……まさか騙された!?


 「クソッ……」


 今あのスライムと正面でやり合っても勝てる気はしない……というか出来るだけ触れたくない。

 だったらやる事は一つだろう。


 「さいなら!!!!!」


 ボクはスライムから全力疾走で遠ざかる。

 

 スライムは追ってくる様子はない。

 恐らく逃げる者は追わない武の心得でもあったんだろうか、そんな事を考えていたのも束の間目の前に新たな人影が現れる。


 「もうスライムは勘弁し……いや違う!スライムじゃない!!!」


 スライムの放つ闘気とは格の違う覇気とでも言うべきオーラを放つ漆黒の鎧に身を包んだ騎士が一人その場に立っていた。


 騎士は一瞬ボクを値踏みするように目線を合わせた後、遠くに見えるスライムを一瞥し「……去ね」と小さく囁く。

 するとスライムは「サーセンした!」と口にして一礼したあと一目散に街道の外へと逃げ帰っていった。


 (……あいつ喋れるんだ)





 「あの、ありがとうございました」

 「……礼などいらん、しかしそうだな命を救ってやったんだそれなりの対価は頂こうか」

 「あーそういう」

 

 これはまずい……今のボクは無一文だ。

 それに今のボクは価値のありそうな装備も何一つ持ってない。

 そんでもってこの厳つい見た目の滅茶苦茶強そうな黒騎士から逃げるのも難しそうだ。

 

 ……仕方ない。

 無一文である事を正直に説明するしかないか。


 「あのー大変申し訳ないんですが」

 「なんだ?」

 「……その……ボクお金をですね……持ってなくて」

 

 出来るだけ申し訳なさそうに誠意を込めて無一文である事を黒騎士に伝える。


 「……構わん、体で払え」

 「…………?」

 「聞こえなかったか? 対価は体だ、貰い受けるぞ」


 黒騎士はその一言と同時に剣を抜きボクにためらいもなく振りかざす。


 ――ブンッ。

 

 「おわっ!!」


 寸での所で斬撃を躱し後方へと回避する。

 ここが異世界だからなのだろうか?元の世界より体の反応速度が速くなっているのが幸いした。


 「ほう、避けたか」

 「くっ……ヤツは初めからボクを殺す気だったのか」


 着ていたシャツがぱっくりと半分に割れ、切り口から血が滲みだす。

 幸い傷は浅い。

 もしも反応が一瞬遅れていたら今頃体が半分に分かれていただろうと思うと額から汗が流れ落ち、背筋が凍るような感覚に襲われる。


 「……さて次は避けきれるかな」


 ヒュン。


 黒騎士はほんの一瞬で自身の射程までボクとの距離を詰め、さっきの斬撃よりも更に数段速い連続攻撃を繰り出した。


 これは、避けきれ――。


 「ぐわあああああああああ!!」


 黒騎士の攻撃をもろに受けたボクの体は宙を舞い、無残に砕け散った。


 ――衣服が。





 ……そう、衣服が。


 鮮やかな剣技で綺麗に全裸に剥かれたボクはにじり寄る黒騎士から必死に距離を取ろうとするが思う様に体が動かない。


 「クソッ! なんでだ!」

 

 「剣に塗っておいた痺れ薬が効いてきたであろう……小僧、抵抗するだけ無駄だ…………あっやべ私も火照ってきちゃったわ鎧脱いじゃお」

 「へ?」


 そう言うと黒騎士は自身の鎧を一瞬で脱ぎ、中からはビキニアーマー装備のパッキン褐色巨乳のギャルビッチ風の女が姿を現した。


 「ふふーん我の真の姿を見たものは等しく我の慰み者として一生を過ごすのよ光栄に思いなさい!」

 「な!!!!!!!!」


 




 ――聞こえるか、勇者よ。


 「なんだこの声、脳に直接!?」


 ――そなたに黒騎士の魔の手が、危機が迫っておる。


 「いやいや、危機どころか好機でしょ……てか誰あんた」 


 ――え? ワシですか? そのー天の声的なですねーそのーどうやら勇者に危機が迫っていると上司に聞いてですね。


 「は? どこが危機なの? ギャルビッチの慰み者なんて最高の展開じゃん」


 ――いやあの。


 「なんだよ?」


 ――はい!大丈夫です、お楽しみの所申し訳ないです、じゃあワシは力だけ授けて帰りますんで……ごゆっくり。




 「……なんだったんだ?さっきの声」


 不思議な声が力がどうとか言っていたが今はそんな事どうでもいいか!

 それよりも黒騎士もといそこまで黒くないギャルの動きが止まっている。

 どうしたんだ、なにかあったのか? さっさと襲いに来ないのか?


 「……き、貴様何をした……なんだこの力は!!」

 「え?」


 何故だか体の痺れがすっかり消えて、逆にすこぶる体調がよくなったボクはパッと起き上がりギャルがまじまじと見つめていた股間に目をやる。

 

 (なんだか屋外で全裸の状態でギャルに股間を見られている状況は流石に恥ずかしいな)


 突如として、さっきまで吹いていた風が止む。


 次に鳥や動物達は何かを恐れたのか周囲から姿を消し、辺りから完全に音が消える。


 恐らくその原因はボクにあるのだろう。


 「……おいおい冗談でしょ」


 ボクの股間からは無限とも思える程の湧き出る力を感じる。

 一物は人のモノとは思えぬほど天高く膨張しており更には神々しく光り輝くオーラに包まれ周囲にバチバチと閃光が走っていた。

 


 「……すごい、力が溢れる!!!」

 「なんだこの力はッ!……き……貴様ァ!!! この私をモザイクは知る権利に違反している党代表のアリシア・カヲルと知っての狼藉か!!! モザイクを取っ払え!! 叩き切る!!!」


 感傷に浸っているのも束の間、なんかすごいどうでもいい理由で逆上したギャルがボクの股間へと怒りの刃を振りかざす。

 

 しかし不思議な感覚だ。

 先程まで黒騎士に感じていた恐怖を一切感じていない。


 ギィーン!!


 「なに!?」


 ギャルの剣とボクの股間が激しくぶつかり合い火花を散らし、周囲の木をへし折る程の暴風が吹き荒れる。


 「ちぃ!」


 あまりに激しい鍔迫り合いにたまらず引いたのはギャルの方であった。

 

 ボクはその隙を逃さない。


 「もらったぁあああああ!!!」

 「があああああ!!」

 

 通常の剣では決して届かないその距離。

 しかしボクの業物の【一突き】は確かにギャルに捉えていた。 

 

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