チチンチンチンチチチチチン
yyk
第1話「プロローグ」
――眠り、それは自身の生死の境界が曖昧になっている状態だとオレは勝手に思っている。
「―――――――――はっ!」
意識が覚醒し体の感覚が取り戻され、さっきまで流れていなかった自分の中の時が動き出す。
セーフ、オレはまだ生きてる。
「……いいえ、残念ながら一度死んでいます、原因については存じませんが」
「なんだと?」
誰だ!てか心を読まれたのか?
いやそんな事はあり得ないきっと何かの聞き間違いだ。
オレは記憶にないベッドからゆっくり起き上がりさっきの声の主の方へとゆっくり視線を移す。
そこにいたのは飲み物や食べ物が散乱したデスクの上のパソコンを忙しそうに操作している蒼い長髪に白衣を着た女性の後ろ姿があった。
「あんたは一体?」
白衣を着用しているが病院の人にしては少しばかりファンキーすぎる見た目の彼女に対しオレは当然の質問をぶつける。
オレの言葉に反応した彼女はパソコンの操作をやめ、椅子を回してこちらを振り向いた。
「コホン……初めまして第8192世界、777ポイント地点……ええと確か貴方の言語ではそう、地球に昨日までお住まいだった
「……は?」
……さて、何からツッコもうかな、オレは頭が痛くなってきた。
かく言うオレもSFやファンタジーは大好きでその沼にどっぷりつかり過ぎて周囲から痛い目で見られていた――否、その次元を通り越して周囲にいない人間として扱われてきた程の漢だが……。
しかしこいつはそのオレを初対面で恐れさせる程の実力者であった。
「御剣ヒロさん、私が変人という定義には当てはまりますし、否定はしませんよ」
「な!?」
(こいつさっきからオレの思っている事を言い当てやがる……やっぱり心でも読めるのか)
「ええ、そうですよ」
「……マジかよ」
ナビゲーターと名乗る女性はまたしても考えていた事を読み当て返事を返す。
オレは驚きながら彼女の顔を覗き込む。
顔は色白で透き通る青い目を持つ西洋人形風の顔立ち。
……あっ、意外とオレ好みの美人だった。
よし、そうだなーそれだったら。
(あのー大変失礼ですがバストはいくつでしょうか?)
どうだ! 本当に心が読めるならこんな突飛な質問も当ててくる筈、一先ずこれで彼女の出方を伺う。
「……はぁ、95です、どうやら貴方はそれ以下が気に入らないようですし調整しました……あとそろそろ私の話も聞いてくれると助かります、そんなに暇ではないので」
「オッ……オーケーいいですよ」
ナビゲーターと名乗る彼女は少し呆れた様子ではあったがオレの質問に答えてくれた。
どうやら彼女の能力は本物らしい。
しかし今は彼女の話を聞く方が先決だな。
眠りにつく前のオレは何をしていたのか、彼女は何者なのか、そもそもここはどこなのか聞きたい事は色々ある。
――しばしの沈黙の後ナビゲーターゆっくりと口を開く。
「落ち着きましたか? それではまずは意識がきちんとあるかのテストをかねて質問をしますので回答してもらってもよろしいでしょうか?」
「ええ別にかまいませんよ」
生返事で適当にそう答える。
(意識があるのかテストだって? やはりここは病院か、いやそれにしては女性の言動がおかしい気もする……)
「……では、もしもの話です貴方は自分が死んだ後に別の世界行けるとしたらどんな場所に行きたいですか?」
そんな事を考えている間にナビゲーターが突拍子もない質問をオレに浴びせてきた。
質問の意図が分からないのが正直不気味だが今の所唯一分かる事は彼女は何らかの方法でオレの心を読んでいる。
つまり嘘は通じないという事。
いいぜ、だったらよぉオレの素直な回答を聞かせてやる!!!!
「中世ファンタジーっぽい異世界で究極最強能力と装備を持ってから転生しておっぱいの大きくてオレにデレデレな女の子達とのハーレム大冒険がしたい! あっ……あとオレはイケメンって言うより可愛いショタがいいんだよね、それと男はいらねぇけど年を取らない男の娘の存在は許す」
「…………」
オレの渾身の回答に対しナビゲーターさんは無反応のままパソコンの方に向き直る。
畜生それが一番ダメージを受けるんだぜ、ナビゲーターさん。
彼女は慣れた手つきでキーボードを叩き一つのページを開いて不敵な笑みを浮かべた。
「……ありますよ……そうですかやはり6553"7"世界を選ばれましたか」
なんだ? この流れをオレは知っている。
まさかまさかまさかまさか、いやあり得ないそんな事少なくとも現実では!
「さっきからの怪しい言動といいその質問といいあんた、まさか」
「ふむ私が【狂人】かあるいはひょっとして、もしかしたらすごーく薄い確率で【神】だったりして、そう思ってらっしゃるんですね? まぁ両方正解という事にしておきましょうか」
なんだ……と。
こいつアッサリ認めたぞしかし狂人であり神だと? 意味が分からん。
「貴方達の価値観及び宗教観でしたら世界の創造主が神である筈でしょうか? そういう定義なら私は神に値する存在になりますよ」
「世界を作ったねぇ……面白い話だ、もしかしてそのパソコンでとか?」
冗談半分でオレはパソコンを操作する彼女見つめそう問いかけた。
「鋭いですね」
「……まじなんだ」
こちらを振り向かずにナビゲーターは短くそう呟く。
「ふん、世界はコンピュータープログラムで動いているとでも言いたげだな」
「概ねそうですね、ヒロさんはそういう風に思った事はありませんか?」
「そうだな、生物が電気信号で動いたり脳は2進数で物事を考えたり神経ネットワークの構造が銀河と似ているだとか……他にも時間、空間、速度には限界があるし物質が分子というドットの積み重ねで出来ているとか不思議だなって思った事はあるな」
オレは思っている事を素直に話した。
ヤツは戯言を語るただの狂人でしかないし、これ以上の会話は無意味であると思うがオレはこの場を離れないでいた。
「【転生】を見せてもらってからでも遅くはない、賢明な判断ですね」
オレの心を読んだナビゲーターはなにやら作業をしながら顔だけをこちらに向けてそう呟く。
「そういう事だ、おっと待ってくれ最後に一つあんたの目的はなんだ?」
ナビゲーターは画面に映し出されていた御剣ヒロと書かれたファイルを65537と書かれたフォルダにドラッグしようとした手をそっと止めた。
「いいでしょう簡単にお話しします……私は私を作り出した者の存在が知りたいのです、その為に私は神の誕生を観測しようと幾重もの世界を作り世界の監視を始めました」
「神が神を探す研究をするなんて馬鹿げているな」
先程ナビゲーターが言っていた事を思い出す、自身は神であり狂人。
あながち間違ってはいないという事か。
「そして世界を無尽蔵に作り過ぎた結果【バグ】が発生しちゃったんですよね、古いゲームのバグと理論は同じです……機械というものは限界を超える計算をさせた場合とんでもない結果を弾き出し不具合を起こします、それが【現実】で起きて……その結果本来は存在しない世界である65537世界を作り出しました」
「そこへオレを送るって事はその世界のバグ取りをオレがやれという事か?」
「本来なら8192世界での死人の貴方は即時ゴミ箱行きですが、65537世界は中世ファンタジーっぽい異世界で胸が大きくて貴方に好意を抱くであろう女性が大勢います、そして尚且つ男性は存在せず男の娘のみ存在……まさに貴方の願い通りでありこの仕事を任せるには計算上最も適任ですから特例で第二の人生を授けようと思っているわけです、ショタ化もおまけで認めます」
まぁどうやらナビゲーターとやらの目的もそんなに悪い事じゃなさそうだし、行けるんなら行ってやるか65537世界とやらに……まぁ無理だろうけど。
「では準備はよろしいですか?」
――カチッ。
パソコンからのクリック音が聞こえた次の瞬間。
突如オレの体はつま先から徐々に感覚が消え、その場からの消失を始めた。
「え!!おい!!」
「尺の都合上ささっと貴方を転生させます、それでは65537世界でお会いしましょう」
「尺って、おい!! 作者どうなってん――」
ナビゲーターのその言葉を最後にオレの感覚は消え失せ意識も深い闇へと落ちていった。
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