幼馴染のデレた顔を見ようと思います

月之影心

幼馴染のデレた顔を見ようと思います

 僕は佐久さく光喜こうき

 僕には幼少の頃から仲良くしている幼馴染が居る。

 暗めの茶髪をショートボブにしていて、お目目パッチリのすっと通った鼻筋とキリッと結ばれた唇にしゅっと尖った顎の、とにかく別嬪さん。

 加えて、おっぱいぼーんのウェストきゅっのヒップどーんのナイスバディでいつも僕を悩殺してくるんだ。

 ちょっと性格がキツいところが玉に瑕って言う人も居るんだけど、僕はそれも含めて可愛いと思ってるし、寧ろそこもチャームポイントだと思うんだよね。


「何ブツブツ言ってんのよ?」


 胸元にワンポイントのあるTシャツと薄い水色のホットパンツで床にぺたっと座って雑誌を読んでいるこの子……飯山いいやま美星みほしが僕の幼馴染。


「美星の魅力を読者の皆様にお伝えしたくて。」

「何メタい事言ってんの?てか何で呼んでもいないのにアンタが私の部屋に居るのよ?」

「何でって、僕が美星の事が好きだからに決まってるじゃないか。」

「それはどうも。」

「はっはっはっ。いつもながら美星はツンデレだな。」

「1ミリもデレてないからね。」


 とまぁ、大体毎回こんな感じ。

 可愛いだろ?

 もうちょいデレが出てくれてもいいとは正直思ってるんだけどなかなかデレてくれないんだ。




 だから僕は美星をデレさせる作戦を決行しようと思う。


 一番は僕が美星にかっこいいところを見せるのがいいんだろうけど、残念ながらそんなところなんか無い事は自覚してる。

 まぁ敢えて言うなら学校の成績については常に上位をキープ出来ているのでそれなら勝てる!

 いやいや……美星と勝負するわけじゃないんだから勝とうが負けようが作戦には関係無い。


 まずはストレートに気持ちを伝える作戦。

 これが無いと始まらないからね。


「美星。」

「ん?」

「僕は美星が好きだ。」

「知ってる。」

「世界中の誰よりも美星の事を愛している。」

「知ってる。」

「何があっても一生愛し続ける自信もある。」

「だから知ってるって言ってるでしょ。」

「美星は?」

「は?」

「美星は僕の事をどう思っているの?」

「嫌いではないよ。」

「好きって事?」

「嫌いじゃないって言ったの。聞こえてるよね?」

「はい……」


 僕の愛溢れる会話の間、美星は雑誌から一度たりとも目を離さずに僕との会話を楽しんでくれていた。

 まぁ微妙だけど多少は気持ちも僕に向いてくれているだろう。

 ここは続けざまに次の作戦……スキンシップ作戦だ。


「美星。」

「何よ?」

「手を握ってもいい?」

「何でよ?」

「握りたいから。」

「?……はいどうぞ。」


 雑誌を膝の上に置いて手を差し出してきた。

 僕は美星の手をきゅっと握った。

 美星は目線を雑誌に落として読書を再開した。


 ……5分経過。


「ありがとう……」


 僕は美星の手を離す。

 美星は僕が握っていた手を雑誌に戻して読書を続ける。


「どう?」

「へ?何が?」

「いや……僕が美星の手を握ってどう思ったかな?……と。」

「あ~……別に何とも……雑誌捲りにくかったかな。」

「そう。」


 少々反応が鈍い……照れているのかな?

 まぁ、スキンシップは少し早かったかもしれない。

 となれば、お次は気遣い作戦。

 僕は美星の部屋を出て階下へ降りてキッチンへと向かった。


「あら、光喜君来てたの、いらっしゃい。」

美星の母おばさんこんにちは。お邪魔してます。」

「いつも美星と仲良くしてくれてありがとうね。」

「いえいえ。此方こそ仲良くしてくれて嬉しいです。あ、お茶貰ってもいいですか?美星が喉乾いてるかなと思って取りに来ました。」

「まぁまぁ、何て優しいのかしら。光喜君くらい美星も気遣い出来ればいいんだけどねぇ。」


 基本的にうちの両親は礼儀作法にうるさいので、自然と身に付いた年上キラーテクを駆使して美星の母親は既に篭絡済みだ。

 最大の難関の父親も、休日にDIYを手伝ったりして好感度アップしていて、彼女の父親に言われたい台詞第1位(当社独自調査)の『君のような息子が欲しい』も頂いている。

 こういうところに抜かりは無いよ。

 おっと、美星が待ってるね。


 僕はトレーにお茶とお菓子を載せて美星の部屋へ向かった。


「お茶とお菓子持って来たよ。」

「ありがと。」


 テーブルの上にお茶とお菓子を置くと、美星は雑誌から目を離さずにお茶を取って口に運び、元の位置に戻しては隣のお菓子を取って口にひょいっと放り込む。

 実はお茶やお菓子を置く位置も緻密に計算して、美星が姿勢を変えずに手が届く範囲に収めてある。

 こうした気遣いは結構ポイント高い……と思うんだけど、美星の表情は全く変わらないんだよなぁ……。


 僕は再びテーブルを挟んで美星の正面に座って、雑誌に熱中してる美星を眺めながら次の作戦を考えていた。




「ふわぁ~……」


 少し陽が落ちてきた頃、美星が雑誌をテーブルの上にぽんと置き、両手を上げて欠伸をしながら大きく背伸びをした。


「寝る?」

「ううん。ちょっと気分転換にコンビニ行って来る。」

「分かった。じゃあ行こう。」

「何でアンタまで着いて来るのよ。コンビニくらい一人で行けるわよ。」

「いや、道中何があるか分からない。突然バイク集団に囲まれて襲われるかもしれないだろ?」

「どこの世紀末よ。常に治安ランキング上位のこの街で何も起こらないって。」

「犯罪者はそういう楽観的な意識の人を狙ってるんだよ。心配だから僕も行くよ。」

「勝手にすれば。」


 美星が立ち上がって机の上のポーチを手に取る。

 僕も立ち上がって部屋のドアを開けてエスコートする。

 その僕を、美星がじっと見ていた。


「ん?どうしたの?僕の事が好きで好きで堪らなくなった?」

「全然気にしてなかったけど、アンタ結構大きくなってたんだね。」


 僕のは完全無視だ。

 そう言えば幼い頃の僕は美星よりも背は低かったし、何ならクラスの中でもちびっ子の方だったけど、第二次成長期を迎えた中学生の頃に一気に伸びて、いつの間にか美星より頭一つ分くらい高くなってたんだよな。

 それなりに美星より背が高いのは分かっていたけど、並んで歩く機会って案外無かった為か、こんなに差があるとは思わなかった。


「ふぅ~ん……」


 美星が僕の頭のてっぺんから足の爪先まで吟味するように眺めていた。


「見直した?」

「さてコンビニ行こっと。」


 少し頭を屈めて美星を覗き込むような姿勢で尋ねてみたけど、美星はこれも完全無視でショートボブの茶髪を揺らしながら僕の前を通り過ぎた。

 通り過ぎる時にふわっといい香りが鼻腔を擽る。

 美星の香りに僕は至福を感じていた。


「行かないの?」

「あ、行きます行きます。」


 危うく異世界に飛ばされたまま放置されるところを、美星に声を掛けて貰えて助かった。

 僕は美星に着いて階段を降りて行った。




 美星の家から歩いて10分掛からない所に普段からよく利用するコンビニがある。

 コンビニに入ると、美星は一直線にお菓子の陳列棚へと向かい、お気に入りのチョコレートを3種類ほど手にすると、これまた一直線にレジへと向かった。

 精算を済ませた美星が店員さんに『ありがとう。』と言ってコンビニを出て、来た道を戻って行く。


 この迷いの欠片すら無い、且つ無駄の無い動きもまた、美星のいい所……かどうかは別にして早過ぎない?


「ま、待ってよ。」

「ん?」

「い、いつもながら、早いね……」

「そぉ?コンビニは買い物をする場所よ。涼む場所でも暖を取る場所でも立ち読みをする場所でも入口付近でダベる場所でも無いわ。買い物が済んだらさっさと帰るべきよ。」

「それはそうだけど……ほらもうちょっと『これにしようかな』とか『ねぇねぇこっちとこっちだったらどっちがいい?』みたいな……折角二人で来たんだから。」

「あ~、そう言えば一緒に来たんだっけ?」

「酷くね?」


 スタスタと歩く美星の横に並んで歩くが、身長の差か、僕が普通に歩いているとどうしても美星を追い越す形になってしまうので、僕は歩く速度をいつもよりほんの少しだけゆっくりにして歩いていた。


「ふふっ……」


 美星が微笑む。


「え?僕と一緒に居てそんなに楽しくなってきた?」

「いつの間にか私より大きくなって……遅れないように私に一生懸命くっついて来てたアンタが……と思ったら何だか可笑しくなってきたのよ。」

「あ……僕歩くの早かった?ごめんね。」


 美星が足をぴたっと止める。

 美星より2歩程前に出てしまった僕は慌てて足を止め、美星の方に振り返った。


「どうしたの?」


 美星は無表情のまま僕の顔をじっと見ていた。


「アンタは……いつも私を気に掛けてくれるんだね……」


 僕は美星の方へ体を向けた。


「そりゃあ僕は美星が好きだからね。」

「どうして?」

「どうして……って……」

「どうして私の事が好きなの?私はアンタに何もしていないのに……」


 美星が今まで見た事の無いような不安そうな顔になっていた。

 僕は少し驚きつつもにこっと笑顔を作る。


「何だ、そんな事か。美星は僕に何もしていなくなんかないよ。いつも一緒に居てくれる。小さい頃から今までずっと。僕が怪我をした時は一緒になって泣いてくれた。僕が風邪を引いて寝込んだ時も一緒に寝てくれて……あの後美星に僕の風邪が感染っちゃったのは申し訳なかったけど……。いつも一緒に居てくれてるじゃないか。」

「それで私を好きになった……の?」


 じっと僕の顔を見ながら話を聞いていた美星が、ゆっくりと、履いている靴の半分の長さずつ、僕に近付いて来る。


「美星を好きになった理由がそれかと言われたら……それも一つだけど、それだけじゃないね。僕が美星を好きになった理由は……」


 美星は僕の目の前……少し体を動かせば触れる程まで近付いていた。


「美星が美星だから。それだけだよ。」


 美星が僕の胸に額をこつんと当ててきた。


「ホントに馬鹿だよね……は……」

「ははっ……馬鹿……なのかな?……って久し振りに名前呼んでくれたね。」

「うん……ばぁか……」


 美星の腕が僕の背中に回され、美星がきゅっと抱き付いてきた。


 多分、今の美星は誰にも見られたくないくらいデレた顔になっているのだろう。

 見たかったけど、またそのうちチャンスもあるだろうと思うから、今日は見られなくてもいいか。


 僕はいつの間にか僕よりだいぶ小さくなっていた美星の背中に腕を回してきゅっと抱き締め返した。


「僕は、美星が好きだ。」


「知ってる……」


 遠くの山に隠れていく夕陽が、二人の影を少しずつ伸ばしていた。

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