第19話「エンペラー視点」
こうして夜がふけていくのであった。
咲がログアウトしたあと近衛遊歩/エンペラーはまだEMOの中に居た、地図とスタンプラリーを広げ再びコンパスのように道を示す光が天空を指す、するとそれは現れた。
雲の王国ピュリアだ、まだ遠くて空気遠近法で薄く見える程度だが確かにあった、エンペラーはその空飛ぶ島を見ながら物思いにふける。
びっくりしたまさか同級生の女の子に出会うなんて……どんな確率だよ……、うっぴー見つけるより確率低いんじゃないか? 天上院咲か、学校に行けば会えるんだよな、会って話をしてEMOやクリスタルウォーズの事を話せば仲良くなれるかも……。
姉の姫も何か仕事をやってるのは知ってたがゲームの仕事をやってるなんて知らなかった…大人だな…。……いや、その前に学校へは行けない……今更どの面下げて学校へ行けばいいんだ……見知った嫌な奴は居るしそいつにおちょくられるのが関の山、目に見えている。
何も起きないはずがない、いや……行ってみなければわからないけれど気持ち悪がられるのは確実だ…嫌だ…行きたくない……僕にそこまでの勇気はない…やっぱりやめよう…。
それよりピュリアだ、せっかく見つけたんだし咲と祝いたかったけど居ないんじゃしょうがない、明日にはまたログインしてくるだろう、こんな場所だ、あとから来る人もかなり苦戦するはずだから人が大勢来るのは望みは薄い……。
情報がほしいのは関の山だが咲と情報を共有するのが良いだろう、そうだここまで付き合ってくれた恩返しの意味も込めて先に探索しておくという手がある、まずどうやって空を飛ぶかだ。
あ…でも運営の姫が居るから何とかなるのかな…? ええいどの道僕がたどり着けないじゃないか!やっぱりまず空を飛ぶ方法を探そう、んで明日咲がログインしてきたらそれをそれとなく教える、うんいい方法だ、それで行こう。
VRMMOゲームEMOの中でゲームをする近衛遊歩/エンペラーは広大な草原のを歩きながら物思いにふけっていた。さてどうやってあの雲の王国ピュリアにたどり着こうか……。
何かの技で空を飛ぶとかあればな~……確か格闘家が2段ジャンプ出来たはずだけどずっと連続でジャンプするのはほぼ飛んでるのと同じだし…魔法使いで何かなかったかな?ん~記憶にない…。
空には……鳥と、なんかよくわからない小さいドラゴンと、でっかいトンボ、アレに乗ればいいのかな?でも野生の馬に頑張って乗るようなものだし……。
どこかに村があればそういう観光とか貿易とか盛んでたどり着ける所があるのかもしれない。まずは雲の王国まで歩いて、それに近い街を探そう。エンペラーは一人だ、故に掲示板を読むことはあっても自らチャットに参加することは無い。
ましてや何も情報がない未開の地、ネットのウィキにもまだメインクエストはイフリート戦までの大体のデータしかなく、自分たちの力で情報を集めるしかないのだ。完全に未開の地を手探りで探す冒険者である。歩くこと30分、村らしい村をみつけた、ここに何か情報があるかもしれない。
そんな中よく見ると村が襲われていた、盗賊だ、何ともわかりやすい、冒険者が盗賊達を倒して何かお礼がもらえるというチュートリアルをエンペラーは思い浮かべた。エンペラーはゲーマーらしく一般市民を攻撃している盗賊の前に入り一般市民をかばうように構えた。
「なんだてめえ! 何もんだ!」
「名乗るほどのものじゃない」
次の瞬間弾丸が盗賊の頭にクリーンヒットした、ヘッドショットだ、ゲームらしく盗賊はポリゴン片になって砕け散り、銃声の音が聞こえたので他の盗賊たちも集まって来た。
エンペラーのレベル15、盗賊のレベルは8と言ってみれば雑魚だボスらしき盗賊の頭もレベル9とレベル的に見てもエンペラーの敵ではない。だがこのゲームはあの無理ゲーEMOだ、油断は出来ない、エンペラーは気を引き締め本気で戦闘を開始することにした。
雑魚盗賊が二人ブレードを持って接近してくる、職業がガンナーであるエンペラーはカッコよく二丁拳銃を持ち腕を交差させるように2発弾丸を放つ。
一流は無駄な弾丸を打たないというどこかの漫画で見た知識を生かしてエンペラーは無駄弾を撃たない。盗賊の頭は勝つのは無理と判断して女性の人質を取ることにした。
「てめえ冒険者だな! 動くなこの人質がどうなってもいいのか!?」
「キャアやめて撃たないで!」
普通の警察なら撃たないとか銃を置くとかなんだかんだで撃つとか盗賊だけクリーンヒットで撃つとか色々考えられるがエンペラーは違う。
問答無用、エンペラーは人質ごと撃った。次の瞬間ポリゴン片になりそうな人質をライフボトルで蘇生しなおした。彼はゲーマーだ、間違えて人質を撃ちましたと言っても現実の殺人ほど心を痛めない、むしろ逆で無感情に人を殺せる。
ましてや製作者が作ったNPCだ、偽者の心だ、どこまで行ってもデータでしかない、そんな人間に感情移入するはずもなくエンペラーは特に心を揺さぶられることもなく人質ごと盗賊を撃った。
結果として盗賊を倒した事だけがデータとして残り村人に感謝される始末である、そんな一度殺された村人から発せられる言葉はある意味違和感の塊しかない言葉だった。
「ありがとうございます、お礼にうちのトンボなどいかがでしょうか、これで空を飛ぶことが出来ます」
「案外あっけなかったな…ああもらうよ、ついでの村の中の物物色していっていいかい?」
「………」
村人は無言を貫く。
(反応がないな?これ以上のデータがインプットされてないのか?なんとも浅い人間だな。)
「んじゃ遠慮なく物色させてもらうよ」
それから10分後
「薬草と回復アイテムのだんごだけか…なんともシケてんな……」
(これじゃどっちが盗賊なのかわからないな…まあいいや探索なんてゲームじゃ基礎中の基礎だ同情の余地なんてない)
ある意味咲が見たら激怒するし、咲には全く出来ないプレイスタイルだった。遊歩には罪悪感の一欠けらもない、そんな事を感じていたらゲームなんてプレイできないからだ。
トンボは現実世界の普通のトンボではない、馬ほどに大きく、人を乗せるために飼いならされているトンボだ、空を飛ぶ生物なら鳥やドラゴンが居るが。
人を乗せて飛べるほど大きな鳥はこの辺りには居なく、ドラゴンだと扱いが難しくレベルが足らないとかそんなメタ的な説明をされた。なによりトンボはこの地方では代表的な乗り物だと説明された。
トンボを手に入れ乗る、そして一直線に空を飛ぶ、ここまで障害物なし、誠に晴れやかな空中散歩日和だった。
そうこうしている内に雲の王国ピュリアについた、早速このことを咲に報告しようとも思ったがフレンド登録もしてないし今ログインしてるのかログアウトしてるのかわからない。
探索をするもの良いがもういい時間なのでここでログアウトしてゲームを終了させ寝る事にする。
「明日は咲と別れた所で咲を待とう」
そう呟きながら寝室で寝た。
翌朝8時、近衛遊歩は学校に行く勇気もなく今日もEMOを開始することにした。VRMMOゲームEMOの中でゲームをする近衛遊歩/エンペラーは雲の王国ピュリアで物思いにふけっていた。
とはいえ咲がログインするのはおそらく速くて学校が終わった夕方の3時頃だ、それまで7時間もある、さてその間に何をやるか……。
まず道具屋や武器屋、この王国の探索かな、この王国は広すぎる、空を浮遊するこの王国は人口も多く交易も盛んだ、中央にはお城が立っていてそれを取り囲むように街がある。
その大きな島を取り囲むように東西南北の小さな島が連結して下り階段があって登り降りが出来るようになっている。
これらは全て浮いている、なぜ浮いているのだろうか? 見た感じ雲の上に建築物を立てているような形であるからして浮いている雲が頑丈でそれで立てたのだろう。
細かいことを気にしていても仕方ないので、と言うかゲームだから何でもありなわけだがこういうファンタジックな世界は好きだ。
どうやらここに住む? 飛んでる? ドラゴンはトンボを主食にしているらしく野生のトンボが食べれれる姿をたまに見る、人間が乗ってるトンボは何故か食べられない。
何かバリアみたいな物でもあるのだろうか? 聞いてみると〈黄灰のお香〉というお香を焚きその煙の臭いのおかげでドラゴンが近寄らないんだとか。
じゃあ僕のトンボが食べられなかったのはかなり運がよかったのかもしれないな。
まあそんな世界の情景や人物像なんてどうでもいいどうせ街をあと5個移動して楽園エデンへ行かなけりゃならないんだ、そんな事するなら武器や防具を強化する方がいい。
どうせエデンの神だっけ? はむちゃくちゃ強いんだろうしこの先の冒険を進むには強さが必要だ、強くなれば戦闘が楽になる、そうだやっぱり先に武器屋に行こう。
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