第18話「カッコ悪いよ」

「そのあだ名は、なんていうか傷つく……」


「え……ああごめん、ってか5回も入院してたの? 私知らなかったんだけど」


 話の口調が若干丁寧語から慣れ親しんだ人への口調へ変わった、リアルの女、しかもクラスメイトと会話してる……遊歩は若干緊張気味に話す。


「学校もそこまで個人情報は漏らさないだろう」


 リアルでの天上院咲はなんていうか普通の子だ、良くもなく悪くもなく、ただ少し美人というか…それぐらい、どこにでも居る普通の女の子、それがまさかこんな形で話すなんて……。


 リアルでの近衛遊歩は見た目は普通だがなんていうか行動がキモかった。


 現実だと「……ッ……ッ……ッ」とか「うへ、うへ、うへ……」とかとにかく何を考えてるのかわからない子だった。


 何を言いたいのかはっきりせず悪ガキ共にいじめられてるような感じ、私はそんな喧嘩の仲裁に入る勇気も度胸もなくただ流すままに流した、女子としてはある意味、普通に振る舞ったつもりだ。


 それがまさか噂のエンペラーだなんて……。互いに状況処理のための静寂が訪れた、重く冷たい空気が頬を撫でる、固まっていても仕方ないので会話を続ける。


「あ……あ~、それにしてもどうしようか。これじゃあ進めない」


「………ッ、ん……ああ……」


 見るとただただ水平にだだっ広く広がる緑の草原が横たわっていた、だがここの地面の下には地雷が埋まっているのは確定的に明らか……これではどう転んでも進めない……。二人は途方に暮れるのであった。


 水平にだだっ広く広がる緑の草原が横たわっていた、だがここの地面の下には地雷が埋まっているのは確定的に明らか……これではどう転んでも進めない……。


「即死じゃないのがありがたいな、一度街に戻って大量に回復アイテムを買おう、二人居るから蘇生アイテムも、それで地雷を食らったら回復する、地雷を食らったら回復を繰り返して何とか前へ進むしかない」


「回り道して地雷が埋まってる所を避けるってのは」


「どの道、回復アイテムは多いい方がいい。地図の通りまっすぐ突っ切ろう」


 スタンプラリーの紙はコンパス替わりになっていてラ〇ュタの飛〇石見たいな光が空を指している、この先に次の目的地がある。


「ん~なんか近衛君って……ゲームの世界でははきはき喋れるんだね……」


「うん……そうだね、これが現実世界でできれば誰も苦労はしないさ……」


「じゃあ一旦街まで戻って回復アイテムを買いまくろう~!」


「おー!」


元気のいい掛け声に二人は満足して元来た道を戻った、そして何事もないまま回復アイテムを買いあさり、再び地雷の草原へと舞い戻って来た。


 そこから先は奇行の連続だった、直進しては爆破され、直進しては爆破されの繰り返し、回復のだんごをバクバク食い、たまに2回連続で地雷を踏んで瀕死になったら瀕死を蘇生させるアイテム〈ライフボトル〉を使った。


 だからあまり二人の距離は遠くちゃだめで二人ともほぼ密着状態で前に歩いて行った、そんな中サキとエンペラーは思った。何だゲームの中では結構息が合う……、もしかしたら。


((結構相性いいのかも…! ))


 そうこうしている内に1時間後。


「ぜぇ……ぜぇ……」


「もうやだ……まだ続くのこれ……?」


 そうこうしている内に咲は勉強をしなければならない時間になってしまった、咲は時計を見る。


「私そろそろ落ちるね」


「だめだ、こんなところで落ちてもしものことがあったらまた教会からやり直しになる」


「はあ!? 私がいつやめたっていいでしょ!? どうせ遊びなんだから!」


 遊歩は「遊びなんだから」と言う言葉についカッとなってしまった。自身が昔言った「僕は……遊びでやってるような奴らには負けません」と言う言葉が強くフラッシュバックする。


「遊びじゃない! 」


 強い否定だった。


「!?」


 それに咲は驚く。


「…………」


 一瞬の静寂。咲は姫に言われたことがある「遊びじゃねえんだよ!」状態の人にはならないと約束した、だからここは否定しなければならない、絶対に。


「いいえ、ここは声を大にして言わせてもらうわ」


「遊びよ!」


「遊びじゃない!」


「遊びだったら遊びなんだってば!」


「遊びじゃないったら遊びじゃない!」


「はぁ、はぁ、はぁ……」と荒い息を吐いた、何故か双方一歩も譲らない、咲と遊歩は思った。


((前言撤回! 全く合わねえ!! ))


「何でよ…そんなんだから栄養失調で倒れたりするんじゃない、たかがゲームなんだから適度に休んで」


「僕にはコレしかないんだ…僕にはゲームしかないんだ、僕は…ゲームをやってそれで死ぬんなら本望だ!」


 強い口調、強い意志、譲れない想いがひしひしと伝わる、だがそれが正しく伝わってるかは別問題だ。


「それ……カッコ悪いよ……」


「それは…女にはわからない……男の世界だ」


 …………。


「はあ……宿題が……今回だけだからね! 都合のいい所までやるだけだからね!」


 今回は咲が折れた、これが正しい選択だったかどうかはどうしても疑問が残る、咲は結局宿題が出来ずに成績が落ちるという代償の元、この選択を取ったのだから。


 そうしててくてく歩いていくうちに10分が経過した、今のところ爆破の前兆はない。


「どうやら抜けたみたいね」


「そうみたいですね………」


「んじゃ私はログアウトするからリアルがあるし」


「おつかれさまです」


 何とも殺伐とした雰囲気の中での別れであった。


 ◆


「はーなんなのよあいつ」


「ん~どうした~」


 咲はゲームをログアウトし現実世界へ帰って来た、姫はVR機〈シンクロギア〉をつけながら半透明画面モードを使いパソコンとVRゲームをどちらも操作していた、主にゲームバランスの設定のためだろう。


「近衛遊歩っていたでしょ」


「あーいたな~学校に一人はいるいじめられっこ、確か学校にきてなかったよな」


「エンペラーだった」


「んあ?」


「だからエンペラーだったのよその近衛遊歩が」


「あー……、確かに学校に来なくなった時期とエンペラー騒動の時期は一致するな~」


「なんかこ~あれよ、幻滅よ幻滅。もっとカッコイイ人を想像してた」


「そりゃあ仕方ないだろ、ゲームの性質上ゲームで強い人は現実世界では弱いって人はよくあるパターンさ」

「そうかな~……」


「そういうもんさ、要はどこに時間を使ってるかってだけの問題でさ」


「う~ん……でもさー、それだったらゲームの世界でも強いお姉ちゃんは何で現実世界での成績も良いの?」


「……さあ?」


「さあって……」


「アレじゃないか?かけた時間の絶対量が違ったり、気合が違ったり」


「気合って……」


「あーそれと咲、ギルド作らないのか?この前作りたいとか言ってたし」


「あー……それもあったわね」


「なんて名前にするんだ?私も入るぞ」


「ん~放課後クラブとかにしようかな~とか考えてる、ほら。どの道学校があるじゃない、だから必然的に学校の放課後にゲームをやるはずだから、もちろん学生意外の人も大歓迎」


「ふ~んなんか普通だな、なんかもっと奇をてらった名前になるかと思った」


「変に奇をてらって。わけわかんないのになるよりいいでしょ?」


「ふ~ん……それもそうだな」


「うん……勉強するのに10分のロスか…あんまりかかんなかったわね…」


「ん? 何の話だ? 」


「ううん何でもないこっちの話」


「せっかくだから近衛君も誘ってみたらどうだ?」


 と茶化すように言う姫。


「えーでも、あの根暗君だよ?」


 と、茶を濁すように言う咲。


「でもあのエンペラーなんだろ? 現実世界の性格はともかくネットでの実力は本物だ、誘っておいて損は無いんじゃないか?私も見てみたいし」


「う~ん、う~ん……」


 かなり悩む咲、結構話して相性はいいかな~っと思ったがかみ合わない所もあった、遊びじゃないって所も引っかかるし、何より男子とチームか……。


「う~ん……」


「まあ咲のチームだ、咲が決めればいいさ、私はそれに従う、ただし! 妹に恋愛目的で近寄ってくる蛾はぶっ潰すがな!」


 急に熱気の入った熱弁を語った姉姫、姫の妹愛は本物のようだ。


「そ……! そんな人は入れませんよ! う~んでも近衛君か~……」


「いや! 可能性のある蛾は全部ぶっ潰す! おのれエンペラー! 妹のハートを鷲掴みするのはこの私だ! やっぱエンペラーはなし!」


「お姉ちゃんさっきと言ってることが違う!」

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