第17話「エンペラー」
現実世界では勝てなくてもゲームの世界では確かに、人に勝てるのだ、最強になれるのだ。……だが、こんなことを続けていたら本当に死んでしまう……そう悟った。
「引退かな、でも他にやることないや……」そんな中ネットサーフィンをしているときに見つけた記事が。
「エレメンタルマスターオンライン?無理ゲー? へえ絶対に出来ないゲームか…クリスタルウォーズももうやることがないし…やってみるか」
ただ長く遊べるゲームをやりたいというのが理由となった。始めに序盤のクエストなのに10000ゴールド集めてじゃんけんに勝ったら情報がもらえるという無茶。これはもはやコツコツゴールドを溜めてじゃんけんをするしかなかった。
次に出現率8192分の1の確率で現れる珍しい喋るうっぴーを見つけるという完全に運しか絡まない無茶。これが一番きつかった、コツコツコツコツ一ヵ月かかった。
即死攻撃付きでダメージ1しか与えられないイフリートのHPを500減らすという無茶。
正直これが一番楽だった、普通のクエストでよくあるし、何より攻撃がフレアと普通の攻撃の2パターン、パターンさえ読めれば後は簡単だった。
時間はかかったけど。そんなこんなをしている内にうっぴーの群れを『清めの香水』でどけ、ゆったり草原を歩いていると。
ドカーン! と爆発音が聞こえた、慌ててそちらの方角に行ってみると女性が黒焦げになっていた。
「けほ、けほ、何よこれ~……!」
「大丈夫ですかー!」
思わず声をかけてしまったエンペラー、エンペラーは人と接するのが苦手で、しかも女性は異性と言う事でなおさら声をかけにくい。しかしここはあのメインクエストを終わった後の次のステージの道のりだ。
ここにいると言う事はあのじゃんけんやうっぴーやイフリートを倒した実力者と言う事。自分と同じ選ばれた存在…こんな何が起こるかわからない所でしかも一人、並みの実力者ではないだろう、と言う過大評価をしつつ。
少しでも情報がほしいからエンペラーは女性に声をかけてしまったと言う事だ。
「あーよかった、人が居た……」
「何があったんですか?」
「ん~見た感じ地雷ポイの踏んだ」
エンペラーは咲のHPを見る、見るとサキという名前とHPが半分まで削れているのが見える。
「HPが半分削れる地雷か…即死じゃないだけありがたいと思うべきなのかな…」
「もうなんなのよこのゲーム!お姉ちゃんのバカー!」
なぜそこで姉と言う単語が出てくるのか…関係者か?と思考をめぐらせてしまうエンペラー。
「あ……あなた……エンペラーさんって言うんですね」
咲は遊歩の頭の上の名前とHPバーを確認した、したらこの間話題に上がったエンペラーさんと言う事に驚いた。いや…もしかしたら同性同名の偽者かもしれない、ネットゲーム全般に言えることだが同じ名前の人は案外多かったりするからだ。
有名なゲームのキャラクターの名前とか漫画のキャラクターの名前とかアニメのキャラクターの名前とか、はたまた映画のキャラクターの名前だったりとか。
「失礼ですがエンペラーさんってあのエンペラーさんですか?」
いやまあここに居る時点であの無理ゲーをクリアしてると言う事は容易に想像はついたがやはり違っていたら恥ずかしいし、やっぱり聞くことにする咲。
「あの……というと?」
「えっとVRMMO『クリスタルウォーズ』でプレイヤーランキング1位を取って栄養失調で5回病院に行ったっていうあのエンペラーさんです」
「………嫌な噂の広まり方してるな…」
「え……ってことはやっぱり噂のエンペラーさん!?」
「うん…その噂のエンペラーさんで間違いないよ、ちょっと噂の広まり方が気に入らないけど」
「わっほーい! 有名人に会っちゃったー!」
「そんなに有名じゃないよ…僕なんか…」
(学校にも出れない臆病者なだけさ…)と言おうと思ったがやめた。
「いやいや有名ですよ、紅の夜総団が噂にしてたんですから」
「紅の夜総団って……あの運営集団のギルド?」
「そうですそうです、だから…あの…誇っていいと思いますよ」
咲はニコっと笑顔で答えて見せた、そのしぐさに若干どきりとしてしまう遊歩、だが(ん?)となった。
(と言う事はこの子は紅の夜総団と知り合いなのか?)っと。
「あの…質問なんですけどあなたはあのメインクエストをクリアしたからここに居るんですよね?それと紅の夜総団とはどういった関係で?」
(あ…)と思った咲、
。
そのことを話すと自然と姉の姫のことも話さなければならないのは容易に想像がついた。
(でも別に口止めをされてるわけでもないし何か実害があるわけでもないし喋っちゃってもいいよね)と浅はかな気持ちで思った。
「あ……えっと……え~、ここに居る理由はイフリート倒した後皆と別れたんですよね、皆っていうのはギルド四重奏、ルネサンス、仮面舞踏会の面々で、でお姉ちゃんは今仕事中だから私一人が攻略中って感じなんですよ、でー姉のほうが…その~紅の夜総団なんです、はい」
長々と喋ってしまったがこう伝えるほかないしこれ以上の説明もないと思った。
「へーお姉さんが……」
これで合点がいった、さっきの「お姉ちゃんのバカー」の意味がようやく分かる、普通運営に愚痴るものだが。
この子もこの子で環境的に異常なのだろう、と思う遊歩。自分も普通じゃない、相手もある意味普通じゃないと言う事から親近感が沸いた。
「あ、じゃあ私も質問、どこ出身なんですか?」
「………なぜです?」
「え、いや~その~エンペラーさんって現実世界でよく倒れるんですよね、姉が運営しているEMOでも倒れられても困ります、次倒れたら死ぬ人ナンバーワンですし!だから私が居る時は倒れる前に言ってくれれば速攻で駆けつけるなり電話するなりしますよ!死なれたら困りますし!」
「………」
「で…どこ出身なんです?日本語ってことは日本だよね、せめて県名ぐらい教えてよ」
「……神奈川」
「神奈川県! わーお同じだー!」
「でもこれ以上はプライベートだし…」
「お願い! もう一声! 市はどこ? これも何かの縁だよ!」
「……、平塚市」
「一緒! うおーすっごいミラクル! 奇跡だよこれ! あたし桜ヶ丘中学校あなたは?」
(何でこの子はネット中でこう堂々と住所を言えるんだ…危ないぞ…でもまて…桜ヶ丘中学校って僕が通ってる所じゃないか…桜ヶ丘中学校でサキ?さき…咲…、………まさか)
「お前もしかして……天上院咲か?」
「え……!」
「姉ってもしかして……天上院姫か……」
「うえ!?」
完全な見バレである、まるで漫画にでもありそうな展開だ。
「あなた、もしかして……」
「オレオレ……近衛遊歩」
「………」「………」
「誰だっけ?」
「おい」
遊歩は悟すようにツッコミを入れた。
「同じクラスじゃないか…まあ存在感も薄かったし引き籠って学校に行ってなかったけどな」
「引き籠り……あーもしかして根暗君!? あのきもくて何考えてるかわからないやつ!?」
まさかのあだ名である、いきなり現実に引き戻されたような錯覚に陥る。
こっちの世界では無敵のエンペラーなのにこっちの世界でも根暗君と言われた日には僕の人生終わった……と思ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます