第2章「雲の王国ピュリア」西暦2034年5月1日

第16話「クリスタルウォーズ」

「姫さんゲームをやめなさい授業始まるわよ、はい皆この間のテストを配りまーす」


 生徒数名が心地よい掛け声を放った。


「はーい」


 ◆


 時間は夜、学校が終わって人々が家に帰りつくころ。


 天上院家は居たって普通のいえである、ただ場所が日本ということでアメリカ人の普通の家とは違うかもしれない、2階建てでアメリカ人が見たら広い面積は無く少し狭いかもしれない。


 だが日本の一般的な住宅、といえば日本人はわかるだろう、そんなドラ〇もんののび家的な家だ。のび家と違う事はインターネットが繋がっていてパソコンがある、未来の秘密道具の代わりにVR機がある、と言った違いがあるだけという感じだろう。


 そんな中天上院家は家族会議をおこなっていた、座っているのは咲、姫、父親のてんじょういんだい


 場はめっちゃ深刻! と言う風ではなくちょっと場の空気が冷え切って緊張するといった形だろう。


「姫、私はお前の将来が心配だよ」


「何言ってんのさ私この年で就職してんだよ? バリバリプロよ?」


「そうだがゲームなんて安定しない職業父さん心配だよ何年続くかわからない、やっぱり今のうちに転職しなさい」


「はぁ!? お父さんマジで言ってんの?」


「それか婿探しだ、さっさといい旦那さんを見つけて安定した生活を…」


「それこそマジで言ってんの!? 私中学一年生よ! 13歳よ!?」


「咲も姫のようになれとは言わん、だがもう少し成績をだな」


「あーまたお姉ちゃんをダシにして、そう言うの差別って言うんだよ!」


「そうだぞ! さ・べ・つ! さ・べ・つ! さ・べ・つ!」


「姫!お前はもう少し女性としてのおしとやかさをだな!」


「何それ? 食えるの?」


 母も口をはさむ。


「そうよこの前部屋をのぞいたら二人して寝てるし」


「寝てない! 二人してゲームをやってたのだ!」


 父親の方が「なんだと?」と言う風な意外そうな声を出した。


「なに? 咲までゲームをやってるのか?」


「いや、その……完成したゲームを一緒にお祝いしたくて…その…つい…」


「それでこの前のテストの成績が落ちたんじゃないのか?」


「え!? いや……ゲームのせいじゃないよ!」


「じゃあ何のせいで落ちたんだ?」


「えっと、それは……わかりません……」


「わかりませんてお前な……、社会じゃそんなの通用しないぞ」


「はいはい皆その辺にしときなさいご飯よ~」


 議論が白熱しそうになったが母の料理が出来たようで3人とも「はーい」といい返事をした


 ◆


 天上院咲と姫の私室、二人の部屋は一緒で窓側に勉強机が並んでいる、ベットは両部屋の端っこで2段ベットではない。


 昔に2段ベットだったが「ギイギイうるさい」と言う事で両方のベットを分断音がなるべく聞こえないように両端にした、それでも音は聞こえるが。そんな感じで咲はベッドの方に座り、姫は勉強机に座りパソコンを打っていた。


「今回の家族会議短かったね」


「お母さんは料理してたし仲裁もしてくれたしな」


「ねえお姉ちゃん」


「んなんじゃ」


「専門家として聞くんだけどさ、ゲームをやったら学校の成績って落ちるの?」


「………、そりゃ落ちるだろう」


「やっぱし…」


 ガックシと肩に溜まった力を落とす。


「学校の暗記物すっぽかしてゲームの暗記物記憶するんだろ? そりゃ落ちるよ」


「専門的な意見どうもありがとうございます」


「まあ……、だから咲もあんまりゲームにハマりすぎるなよ? お姉ちゃんもそれは望んでない、遊んでくれるのは嬉しいけどな。よくある「遊びじゃねェんだよ!」状態にはなるなよ」


「うん! わかった私はそこまで本気でやらない!」


「それが心配なんだよお姉ちゃんにはな」


「何か言った?」


「うんや独り言さ」


「?」


 ◆


 少年の部屋は散らかっていて足の踏み場もない、別に誰かが来るわけでもないので掃除をする必要もない、風呂は特に部屋にずっといるので3日に一回くらいの割合でシャワーを浴びる。


 食器棚の下はずっと掃除をしていなくカビが生えている、小さな蜘蛛の巣が天上に張り付きベットはほとんど干さず、そのベットの周りには漫画が囲まれるように山住になっている。


 漫画雑誌は買ってない、オタク風の部屋の象徴壁にキャラクターの壁紙は無く、フィギュアもない、あるのは『クリスタルウォーズ』のカレンダーが貼ってあるだけ。


 ホコリは溜まる一方で換気もしないので空気は重い、パンと水しか食べないのでパンクズが散らばっている。冷蔵庫は壊れてもはやその機能を発揮していない、使っていない。


 カーテンも閉めっぱなしで部屋の中は真っ暗、昼夜問わず真っ暗、光っているのはパソコンとその横にある電気スタンドだけ。


 学校には行ってない、皆僕を見ると臭いとか気持ち悪いとか目障りとか、とにかくあることないことでっちあげて僕のことを嫌ってくる。


 だから学校の成績も悪いし皆からバカバカ言われる、あんな差別的な点数のつけあいがあるから争いが起こるんだ、僕は争わない、喧嘩はしない、が相手が喧嘩を吹っかけてきたりちょっかいをかけてきたら僕は我慢する。


 最終的に気持ちわるがって近寄ってこないからいい気味だ僕の勝ちだ!…勝ちなのか負けなのかわからないけど…、よく喧嘩両成敗とかあるからどっちでもいいや、きっと喧嘩吹っかけたほうもずっと防戦一方なのも悪いんだ、良いわけがない。


 家の中で独りぼっちなのは嫌いじゃなかった、どちらかと言うと人が嫌いだ、人ごみが嫌いだ、ざわざわ雑音ばかりでなんだか気が休まらない。


 逆に一人の時は静かでとても心が落ち着いた、漫画やテレビゲームに飽きてきたころVRMMO『クリスタルウォーズ』に手を出した、時間だけは人一倍有り余っていた。


 普通に遊んでいたら段々上位のプレイヤーに追いついていった、主にプレイ時間が追いついていった、人はプレイ時間が追いつけば大抵同等になれる。


 そうしてプレイヤーランキングに徐々に顔を出すようになった、遊んでいた結果ちょっとずつ頭角を現して行ったという感じだ。


 そして自然と……「あとちょっと頑張れば1位になれる」と言う所まで来た、だから頑張った、頑張った、頑張った、死にもの狂いで頑張った、本気で頑張った。


 そしてらプレイヤーランキング1位になった。


 嘘みたいだった、学校で1位を取った事が無い僕がゲームでは1位を取れる、凄い心臓の高鳴りと高揚感だった。だから1位になった時。

 表彰式の時に言ってやった……。


「僕は、遊びでやってるような奴らには負けません」


 緊張したけどスカっとした。何人かのプレイヤーに笑われたけど別に良い、自己満足だ。1位になったら次は1位の維持だ。


 だがこれは簡単じゃなかった、本当に寝る間も惜しんでゲームをやり続けなければ達成できなかった、世界中に居る僕みたいなニートエリート達と互角に戦うにはまず徹底的な武器強化とステータス強化だった、レベルはとっくにカンストしている。


 効率的にフィールドを周り、効率的にモンスターを狩る、PVP戦は別だ、あれは人と人とが戦うわけだから技術で勝てる時もある。とにかく色んな面で頑張る、じゃなきゃ課金している連中に追いつけないし太刀打ち出来ない。


 そんな毎日を繰り返している内にプレイヤーランキングは10回連続1位にまで登りつめた、誰も成し遂げられなかった偉業だった、ただそのたびに僕は倒れた、食べ物にも興味は無かったので原因は一目瞭然だった。


「すみません栄養失調で動けません救急車をお願いします」僕は自分の携帯電話でそう告げた。


 そうして入院した、しかし親は来なかった、離れて暮らしてるのもあるがその前に愛想を尽かされているのだろうと子供ながら悟った。


 そんな事を懲りずに5回も続けてしまった、我ながらバカだと思う、でも僕はそれだけ本気だった、絶対に勝ちたかった。

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