第15話「汝らの力」

 第15話 汝らの力


 ◆


「あと一息!」


 しかしここにきてイフリートの移動速度がまたもや加速した。イフリートは力を溜めている、フレアの前兆だ、だがもう予備動作も事後硬直もなく普通に腕を振るうがごとく全体攻撃一撃即死のフレアを放ってくる。咲は身体能力を強化していたので何とかうっぴーを担いでイフリートの背後に避難したがミュウは間に合わなかった。


「がぁ! フレア!!」


「しまった! ミュウ!」


 咲は手を伸ばすがもはや手遅れ、ミュウも手を伸ばすがもはや手遅れ……。


「サキ!」


 次の瞬間フレアによる灼熱地獄により世界が浄土と化した。もはやイフリートに事後硬直は無く間髪入れずにクルリと背を咲の前に向け通常攻撃の動作に移った、咲は感傷に浸る間もなく……。


「サキさん危ないデーッス!」


 うっぴーが身をていして咲を守った、そしてうっぴーのHPは0になった。咲は自分のせいでミュウもうっぴーも守れなかったと思ったが攻撃すれば必ず隙が出来る、イフリートが攻撃を行った隙に〈斬空剣〉を放てば…そう思ったら顔をキリリと一変させ戦闘態勢へと入る。


「この隙を逃さない!」


 咲は斬空剣を1回放った2、2、2、2、2、2、が合計12ダメージ。イフリートの残りHP10。「あと一回!斬空剣!」2、2、2、2、と食らう所までは良かったがイフリートの腕に弾かれてしまった。


 イフリートの残りHP2。再びイフリートのフレア。咲はイフリートの後ろに回り込む、そのまま大きくイフリートの頭上に飛び剣を振り下ろす。しかし咲はイフリートの攻撃と相打ちになり剣を弾かれる、ダメージは辛うじてあり1ダメージ、イフリートの残りHP1。


「でやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 一瞬剣が無くなりひるんだが、咲はそのまま拳を振り下ろしイフリート目がけて顔面パンチをした。「熱!?」全身が炎に包まれている、イフリートに攻撃したのでやけどのダメージを咲は負う。HP350だった咲はやけどのダメージで345食らい一気にHP5にまで減ってしまった、ギリギリの体力である。


 そして素手での攻撃に成功した咲はイフリートに1ダメージ与える事に成功した、イフリートの残りHP0。イフリートを倒し、覆っていたポリゴンが四散する。ドロップアイテムの中からついにうっぴー達をどかす事が出来る『清めの香水』を見つけ、手に入れた。くたくたな中、咲は大きく空高くガッツポーズをした。とそれを脅かすように四散したポリゴンが元に戻りイフリートが復活した。


「!?」


 驚いた咲だったがどうやらイフリートの捨て台詞が残っているらしい。


「うぬ……汝らの力…見せてもらった、我は大人しく引き下がろう…」


 イフリートはその場を去っていった。


「なんだ……びっくりした……」


 立ち去ったイフリートを見送り、力なく膝まで体を崩した咲は、再びガッツポーズをした。

 次の瞬間勝利を告げるゲーム風のファンファーレが鳴り響いた。


「結局私が〈無双〉する所を女性に見せられなかった……く……!」


 アレキサンダーが自分がカッコつけられるチャンスを逃した事に悔んでいる所を皆は微笑を浮かべて笑っている。再び【うっぴー達が多すぎて通れない】一本道に帰って来た。メインクエスト。うっぴーと愉快な仲間達。


 一本道にうっぴー達が大量発生して道を邪魔している、果たしてこの難問を冒険者はどう切り抜けるのか? 運と気力と根気と体力が試されるメインクエスト第一関門。咲はステータス画面にあるメインクエストを確認する画面を見ていた、特に喋るうっぴーを見つけるというのは別格で一ヵ月かかったわけけだが…その時の苦労話をし始めると長くなるのでやめておこう。


「さて……じゃあ皆香水を使うわよ!」


「おう」や「うん」という掛け声が全員から聞こえた時、見知らぬ人から声をかけられた。


「あれ~あんたってもしかしてサキ?ってステータス見ればわかるか」


 そういうとずかずかとこちらの方に歩み寄ってくる人影が3人来た。


「あなたって……もしかしなくてもあんずさん?」


「あん?何よあんずだったら何か問題あるわけ?」


 あんず、フー、ダリウスだった、キャラクターの頭の上に名前が表示されるからわかる。


「あーあの掲示板でお世話になった…! で…ここで何してるんですか?」


「何って10000ゴールド集めようと思ってここに来たのよ、なんだかんだ言ってここが一番稼げるからね~経験値も美味しいし、あ~だ~る~何か美味しい話転がってないかな~ってあんたの持ってるそれ何?」


「これは……清めの香水です」


「ん……え!? マジ?」


「はいバリマジです」


 すぐさまあんずは飛びついて来た。


「うっそまじー! ねえねえ私もパーティー入れてくんない? そうすりゃ清めの香水の効果受けれるっしょ?」


「うんいいよ」


「やりい!」


「おいおいちょっと待て」


 ブロードが話を聞いていて割って入る。


「そいつは高額じゃんけんも、喋るうっぴーも、ましてやイフリート戦もやってないんだろ?そんな奴をこの状態で仲間に入れるってちょっと卑怯じゃないか?」


「げー何よあんた? もしかして真面目君?」


「まーまーいいじゃない幸せは皆で分け合えば、ね?」


「しかしだな……」


「やったーサキちゃんマジいい子! やっぱ友達はこうでなくっちゃね~!」


 と言うわけであんず達はパーティーに入った、合計13人の大人数である。


「じゃ清めの香水使うよ」


 と言う事でさっさと清めの香水を開けた、咲は香水をばら撒き12人のプレイヤー達に降り注ぐ、そして、ついに、ついに、うっぴー達が道を開けたのである。つかつかつかと全員先へ進み、そしてうっぴー達の群れを抜けると……。


「やったー通れたー!」


「マジ大変だったぞー!」


「運営ふざけんな嬉しいぞちくしょー!」


「ここはもう誰も足を踏み入れてないんだ……俺たち以外……」


 前人未踏の未開の地足を踏み入れた13人は感極まった。喜びもつかのま歩いて10分後。

「あ、みて……道が……ない……」


 立てかけてある看板をみる。『ここより先は危険区域、立ち入るべからず』


 メインクエスト2『道無き道は未知の味』


 危険区域に入りました、しかしここで足を止めるようなら冒険者失格です。地図には何も書かれていない名もなき道を己の足で突き進め。


 ここでスズは提案をする


「ねえ、ここれへんで一旦別れない?こんなに広いんだもんどの道が正解でどの道が間違ってるかわからない」


 マリーもその意見に賛同する。


「それが良いかもしれないわね、別れてもまたチャットで情報集め出来るし、皆とも会えるし」

 みんなで話し合ったが大体意見は一致した、スズは笑顔になりながら言う。


「じゃあ決まりね、ここから先、皆互いにライバルよ!」


「おう、じゃあ」


「ピュリアで会おう!」


「まあピュリアで会えなくても進む道は皆一緒なんだ、そのうち会えるさ」


 出会いがあれば別れがある、皆道なき道をバラバラに一歩ずつ踏みしめた。


「うん、また今度!チャットで!」


 そういって皆と別れて咲と姫だけのパーティーになり二人は歩き出した。



 炎天舞う浄化の炎の中、少年は居た。


「ば……バカな……この我が……たった一人の少年に負けるだと……」


 喋るは精霊イフリート、咲達9人がようやく倒せたというイフリートをたった一人で打ち負かそうとしている最中である。


「そう難しい事じゃない、ただの素振りとフレアさけ気をつければあとは完全にパターン、それを500回繰り返せばいいだけのこと……」


「ば……化け物め……」


「化け物、そう言われるのは久ぶりだな……」


 少年はイフリートへ向けて最後の一撃、秘奥義を放とうとする、それはとても静寂とした最後だった。


「ラストエンペラー」


 ドン! っと全てが閃光と共に光り輝き全てを決着させた。


 天才少女はVRゲーム機〈シンクロギア〉を身に着け、はたから見るとゲームをやっているようだった、しかしその姿はヘッドホンをかけるようにいやメガネをかけるように装着しケータイをいじってる。

 

 シンクロギアとスマートフォンはコードでつながっていてスマートフォンが充電の代わりになっているようだった、これによりマシンの小型化、どこでも持ち運べるようになっていて、例え学校であろうと作業できそうだった、いや、していた。


「姫ちゃんゲームで遊んでるの?オタクってやつ?」


 姫の同級生が茶化すようにその場で聞く。


「別に遊んでるわけじゃない仕事だ、細かなシステム調整は毎日あるからな」


「好きね~」


「少女には勉強より大事なものがあるのさ」


「でもここは学校です」


「あいて!」


 天上院姫は先生に軽くポンと叩かれた。

 それを隣の席に座っていた天上院咲がくすくすと笑っていた。 

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