第20話「待ってるから」

 そこで新しい武器を買うのではなく武器を強化する方法を知った、武器の強化を説明すると細かくなるのでここでは割合する、僕はゴールドの半分を武器と防具強化に回すことにした。


 回復アイテムも、理想は持てるだけ持っておくのがいいが。そこまでゴールドが足らず半分ぐらいの数で手を打った。


 さて、残るはこの王国のどこでメインクエストが起こるかだった、それさえわかれば咲にも教えられる、楽をさせる事が出来る、昨日付き合ってくれた恩返しが出来る。


 あ、フレンド登録とかしてもらおうかな。いやどうだろう、無理かな。でも聞くだけ聞いてみるか。


 VRMMOゲームEWOの中でゲームをする近衛遊歩/エンペラーは天上院咲が付き合ってくれた恩返しのつもりでメインクエストを探していた。


 が結局メインクエストがある場所は見つからなかった。

 そうこうしている内に昼の3時を回った。エンペラーは咲がゲームにログインしてくるであろう草原目がけて飛んでいくことにした……がその前に。


「〈黄灰のお香〉を買ってこう」


 ドラゴンを寄せ付けないお香が無ければもしトンボを食べれれてしまえば大事件だ、エンペラーは優先順位を切り替えた。


 午後3時半、これと言ってテストの点数が落ちるわけでもなく、先生に怒られるわけでもなく咲は自宅に帰って来た。結局あの喧嘩は何だったのか…? 怒り損ではないか…?


 でも目に見える形で成績が減ってなくて良かった、流石に父親に怒られて数日でさらに成績が下がっていたら目も当てられない。


 最悪「ゲーム禁止」とかになるかもしれないから気を付けておこう、だってゲーム出来ないの嫌だし…。お姉ちゃんのゲーム完成祝いで私もゲームをやるようになったけどあんまり会う機会がないな……でもまあお姉ちゃんがゲームをする時はテストプレイや動作確認の時とかになっちゃうんだろうな。


 だからそれ以外のシステム設定や企画案を出したり企画を作ったりする段階ではゲームを遊ぶ事は出来ないし、他の人とのやり取りもある。


 まあ本当に困った時だけお姉ちゃんに相談しよう、それにしても、よく1ヵ月も相談せずにうっぴーを狩ったな、我ながらすごい……。


 さてじゃあEMOを起動するか……誰も居ない草原に一人っきりだもんね。咲は〈シンクロギア〉を起動させて異世界へと旅立った。


 見渡す限り大草原、たまに地雷はあるけれどそれももう無い安全地帯、サキは大草原にログインした。


「さて……雲の王国まで行くか……」


 それから5分後小さな点が近づいてくる、しばらくすると点は影となり影は人影となり人影は色を帯びエンペラーが何かの乗り物に乗ってやって来た。


「おーい」


「あ、近衛君…じゃなくってエンペラーくん」


 エンペラーくんってなんだか呼びずらいな…何かあだ名とかを考えて略したい…、とか余計な事を考えながらサキはエンペラーを待った。


「それ何? 乗り物? てか、うげ。でっかい昆虫」


「トンボって言うんだよコレ。これで雲の王国まで行けるよ、さあ乗って」


「……いいの?」


「もちろん」


 咲はおもむろに乗ろうとする、軽く自転車の二人乗りのような状態だが乗り物がトンボだけにロマンチックの欠片もない。


 エンペラーはおもむろにフレンド登録のことを話そうと思い立った、なぜならログイン状態なのかログアウト状態なのか、今どこに居るのかも分からないんじゃ探しにくいからだ。


「咲さんフレンド登録してもいい」


「へ?フレンド登録って?」


「ガイドブックに書いてあると思うんだが…フレンド登録は簡単に言うと今ログインかログアウトとかどうかがわかる代物、連絡したいときに連絡できなかったからしておきたいなと思って」


「へー、ふーん、ほー。いいよ」


「じゃあ僕がそっちに送るねそれを了承するんだ」


 サキは言われるがままにフレンド登録をした。このフレンド登録って俗に言う「メアド教えて」や「住所教えて」って言うものなのだろうか……?


 まあ住所も何も身バレしてるけどね、まあやっておいて損は無いだろう。


「フレンド一人か…お姉ちゃんともやっておいた方がいいのかな……?」


「むしろお姉さんとフレンド登録やってないってことに驚きだよ」


「そう? あ……そうそう私からもお願い!」


「ん?」


「ギルド作りたいの! 放課後クラブっていう! そのチームに入ってくれないかな~って思っててさ」


「……ん~、できれば遠慮しておきたいかな…」


 意外な答えが帰って来た。


「何故に? フレンド登録はOKでチーム結成はだめなの?」


「あ~僕は一人の方がいいんだ、ほら、秘奥義ってあるじゃん、僕の秘奥義〈ラストエンペラー〉は自分が一人の時しか使えないんだ、だから仲間が居ると弱くなる」


「そんなの…カスタムし直せば済む話じゃない」


「今回は昨日付き合ってくれたお礼で一緒に行こうって誘ったけど、僕は基本一人がいいんだ、その方が気が楽だし」


「けち~入ってよチームー!」


「………」


 エンペラーは考え込んでしまう。どうしよう女の子から誘いを受けちゃった。


 でもチームか、チームは嫌だな。チーム内のいざこざとかめんどくさいし一人の方が気が楽、なによりサキとは気が合わない…やっぱりやめときたいがでも……。


「少し……考えさせて下さい」


「そう……わかった」


 そうしてサキとエンペラーはトンボに乗って飛行を開始した。


 ◆


 飛行を初めて3分、すぐに雲の王国ピュリアが見えてきた、エンペラーは自分が村の盗賊達を倒して手に入れた事は言わなかった。


 言ってもしょうがない事だし何よりエンペラーはあんまり話すのが得意じゃない。


 普段話さないのも相まっているが、エンペラーはサキに自慢するわけでも言いふらすわけでも「これはお礼だ」と言うわけでもなくただただトンボに乗っている間は無言を貫いた。


 雲の王国ピュリアにつきトンボをトンボ専用の駐車場のような所に預ける。


 だがメインクエストを見てけいない、これから探そうと思いサキに伝えようとしたその時。


「ピリリリリリry」


 サキがセットしたアラームが鳴りだした。


「あ……。ごめん今日も私学校の宿題があるんだ、だから落ちるね」


 飛行3分を経過してすぐ落ちるというのもあまりにも早すぎだろうとは思うが学校の宿題じゃ仕方ないと思った。


「しょうがない、じゃあ今日はこの辺で」


「この辺でって言うけど本当ならあなたも宿題あるんだからね」


 そうだった、失念していた、サキの宿題はすなわち自分にもあるのだ。


「そうだけど…今更行ってももう追いつけないよ」


 勉学に追いつけないと言ったのは正直な話だ、いじめっ子の問題もあるが…というか問題しかない。


「よくわかんないけど…力になれる所は力になるから…だから明日学校に来なさい、待ってるから」


「え……あの……それって」


「それじゃあねバイバイ」


 咲はそそくさとログアウトしてしまった。


「待ってるから……か……」

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